……………


私達の必死の願いが通じたのか、ナイジェルはなんとか一命を取り留めてくれた。


トラックが突っ込んできた瞬間、咄嗟にかわそうと走り出したため、正面衝突を避けられたらしい。



それは本当に良かったが…



彼はそれと引き換えに、とても大切な物を無くしてしまっていた。












「……誰…ですか?」






それは「記憶」



私達の存在、バイクに乗っていた事、自分が誰なのか




頭を強く打ちつけた衝撃により、その全てが彼の脳みそから跡形もなく消えてしまっていた。



やっと…苦しみから解放されたと思ったのに…





「貴方達は…誰ですか?」





そんなの…私にとっては彼が死んだ事と同じ。





神様、いい加減にしてよっ…


この人が一体何をしたっていうの!!?



ベッドの上。


知らない色の瞳で私達を見つめるナイジェルに、爪が突き刺さってしまいそうな程自分の拳を握っていた。







「ナイジェル、本当に俺達の事がわからないのか?」

「すみません…」

「う…嘘つかないでくださいよっ。だってこの間まで…」

「…………。」



その言葉に暗い顔で俯いた彼。


今まで見た事もない…私の愛しい人。


ジムやリッキーが必死に呼びかけるが、ベッドで横たわったままの彼はそれに全く答えようとしない。





「すみません…」


いつもの悪ふざけであって欲しいと願ったが、飽きる程何度質問しても返事は同じ。



「ナイジェルッ!思い出してよ!私よ!わかるでしょ!?」

「ビッキー…もうやめろ」

「……ッ…ナイジェル君ッ!…本当は覚えてるんだろ!?悪ふざけも大概にしたまえ!」

「ボビーもっ…」


ふたりは何度ジムに注意されても信じられなくて、ナイジェルに意味のない同じ質問を何度も繰り返し続ける。



地獄の治療室。



皆が叫んだり泣いたり同じ質問をぶつけるそんな中、

私は何も彼に言葉をかけてあげられなかった。





こんな現実、受け入れられない。


受け入れられるはずがない。


貴方の命さえは助かったものの、


それ以外残ったものは、絶望と悲しみだけ。


貴方であって貴方でなくなってしまったその人を見て

気がつくと手にはうっすら血が滲んでいた。


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