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……………

本当に俺は、以前の記憶を取り戻す事が出来るのだろうか。


ジム達と一旦別れた後、彼はそんな事を考えながら廊下を進んでいた。


正直言うと、この建物に来ても自分の部屋を見ても「凄い」とは感じてもピンとくるものはひとつもなかった。

ジムやビッキーや…あの変な緑の人なんかは「いつか思い出す」と言ってくれているが。


それが今の俺に出来るだろうか。

思い出さなければ、ますます周りの人達にも迷惑をかけるだろうし

バイクに乗れたとは言っても、恐らく「少し上手な初心者」程度。

レースに交ざっても、他のメンバーには圧倒的な差をつけられるだろう。




ガチャン



「…っ」



廊下を進んでいると、たまたま扉を開けて出てきた人物と目が合った。



「ナイジェル…」


長い金髪をひとつにくくった女性。

名前はサラ。

俺が入院してから、毎日仲間達と一緒に見舞いには来てくれていたものの、ほとんど会話をしなかった人だ。

もうひとりの女性、ビッキーに比べて口数も少なくクールな印象だし

どことなく俺を避けている気がしていた。



「…お疲れさまです」

「え…ぇ。お疲れさま」


気のせいか…やはりあまり目を合わせてくれない。

以前の俺とは、あまり仲が良くなかったのだろうか。


「どう?この建物に来て」

「あ…はい。思った以上に広くて驚きました」

「…そう」


必要以上の会話はしてくれない。

他のメンバーには楽しそうに話す姿を見た事があるのに、どうして俺とはあんな顔をして話をしてくれないのだろう。



「あ、ナイジェル!サラ!」


残念な気持ちで彼女を見ていると、もうひとつのドアも開き、中からこのチームの最年少、リッキーが出てきた。

このふたりが俺と同じ階に住む住人。


「何してるんですか?こんな所で」

「ばったり会ったのよ。そろそろ晩ご飯の時間だからジムが呼びに来るでしょ?」

「俺もうお腹減っちゃって。ナイジェルも一緒に下に行きましょう」

「はい」


このリッキーという男の子はいつも笑っていて、好青年というイメージが強かった。

メンバーの中でも一番歳が下の後輩だが、「天才」と呼ばれる程の実力の持ち主だと聞く。


サラも彼と一緒にいる時は、俺の時とは違い目を合わせて楽しそうに話をしている。

それが少し羨ましかった。



「じゃ、行きましょ」

カレーの匂いを嗅ぎつけ、先に降りていくリッキー。

それに続き、ナイジェルも廊下を進もうとするが…





「ナイジェルッ…」





突然サラに呼び止められた。



「何ですか?」

「…ッ………」



自分から呼びかけたのに、彼女は何も返さない。












「…ごめんなさい。何でもない」



俺を追い抜いて、廊下を進み階段を下りて姿が見えなくなる。


聞こえるヒールの足音。


その時ばかりは、妙に違和感を感じた。


彼女が俺を嫌っているにしては…あまりに切ない顔をしていたから。



理由はわからない。




彼女、今…何か言いかけていた?




ナイジェルは何も言わないまま、彼女と距離を空けて歩いていた。


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