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……………
「あー、楽しかった!」
彼は謎の効果音を口で発しながら玄関に荷物を置いた。
「リッキー、はしゃぎすぎ」
「だってサラがあんな事言うなんて思ってなかったから」
この日は休日だったから、ふたりで買い物に出かけていた。
朝早くに出かけたが、色々回っているといつの間にか外は夜になっていて…
気がつけば帰宅はこんな時間に。
「それにしても、サラはあまり買い物をしないんですね。いつもビッキーに連れられて凄い量の買い物袋を見てるから、女性はあれが普通だと思ってました」
「あの子は特別よ。リッキーもジムも大変ね。それに私昔からあんまり物欲がないから」
「……………。」
私の言葉に急に難しい顔に変わる彼。
「…楽しかったですか?」
「…?」
「俺と出かけて」
きょとんとして彼の顔を見上げる。
そんな事考えてたんだと心の奥で少しビックリしたけど、それと同時にその性格を「可愛い」と感じた。
不安気な表情を見せるリッキーに、サラは笑ってみせる。
「当たり前でしょ。今は貴方と一緒にいる時間が一番楽しい」
「そうですか!よかった!」
安心して微笑み合う。
年下の男の子と付き合うのって初めてだけど、純粋で素直でいちいち小さな事で喜ぶ所がとても新鮮。
私もこんな事で幸せを感じられるんだって、改めて知った。
「じゃ…今日は晩御飯いらないってジム達に言ってるし、キッチンで私がハンバーグ作ってあげる」
「本当ですか!?」
「何の為に材料買ったと思ってるの。さ、行きましょ」
・
・
・
サラが俺の為だけに料理を作ってくれる後ろ姿。
まるで…本物の奥さんみたい。
こんな日常がずっと続けばいいのに。
誰もいないキッチンにこっそり向かい、彼女はエプロンを身に着けて調理を始める。
肉をこねる音。
野菜を切る音。
そのうち香ばしい食欲をそそる匂いも。
それを後ろの椅子に座って見ていたリッキーは、頬を赤らめながらテーブルに伏せた。
ずっと…この後ろ姿を見ていたい。
……………
「美味しいっ!凄く美味しいです!」
「でしょ?高いお肉使ったんだもの。お残しは許しまへんでぇ(笑)」
サラが作ってくれたのはケチャップの煮込みハンバーグ。
フォークで肉の塊を切ったら、じゅわりと肉汁、そして香りと煙が舞った。
熱々を頬張って、そしてまた一口。
お店で食べるハンバーグなんかより全然美味しい。
サラが料理上手という事もあるけど、もちろんそれだけじゃない。
この人が俺の為に作ってくれた。
理屈じゃない美味しさなんだ。
サラと一緒にいる時間が長くなるごとに、俺の夢はどんどん膨らんでいく。
クールな彼女が冗談を言って笑ってくれる。
俺だけに見せてくれる可愛い顔。
もう…他の男の人には渡したくない。
あっという間にたいらげてしまった、あんなに大きかったハンバーグ。
ふたり並んで皿を洗い、後片付けをして
そして自室のある2階へ戻った。
「今日は本当に楽しかった。ありがとう」
扉の前の暗い廊下。
サラはそこで立ち止まり、リッキーに最後のお礼を言う。
「俺も楽しかったですよ」
「じゃ。明日また、レースでね」
さすがに明日はレースの日とあって、お互いコンディションを整える為早く眠らなければいけない。
これ以上一緒にいるとまた夜更かしをしてしまい、走りに支障が出る可能性がある。
だからレース前日はお互い12時には休む事に決めていたのだ。
名残惜しいが、こればかりは仕方がない。
「…………。」
「…………。」
やはり黙り込んでしまう。
「おやすみ」という言葉がなかなか切り出せない。
本当はこんな言葉、言いたくなんてないから。
もっと…一緒にいたい。
もっと、貴方の傍にいる時間が欲しい。
「サラ」
「…ッ…」
呼びかけたのはリッキーの方だった。
「…どうしたの?」
「…………。」
周りを窺って人がいない事を確認する。
ナイジェルの部屋からも物音ひとつ聞こえない。
恐らく眠っているのだろう。
「俺は…たった一回くらい、レースで最下位になっても構いません」
「リッキー…」
「サラは…嫌ですか?」
「「…………。」」
「嫌…じゃない」
「……っ」
夜の11時55分。
彼女のその返事に、リッキーは後輩らしくない色っぽい笑みを浮かべる。
この顔は…
「それじゃ…もう少しだけ一緒にいましょう」
ガチャンと扉を開け、彼女を部屋に入れた後、自分も中へ入り…
「…あっ…///…ハァ…ッ!リッ…キッ…!」
扉の内側から漏れる声。
そのまま朝まで、ふたりが部屋から出てくる事はなかった。
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