22
……………
ジャァァッ…
日曜日も終わり、なんとなくテンションの下がる月曜日。
レースも無事に終わって夕食も食べ終え、そしていつものようにシャワー室に入る。
ハンドルをひねると噴出すお湯。
この時間が一番落ち着く。
体の汚れもだが心に残る嫌な記憶も、少しは洗い流される気分になるから。
それにこのシャワーのお湯が体を打ちつける感覚も好き。
頭を洗い、そして次に石鹸の香りのボディソープで体を洗う。
「…ッ…」
鏡を見てふと目に入ったのは、昨日リッキーが私の体に残した跡。
服に隠れて見えない所に2箇所。
ナイジェルが昔つけてくれた部分の赤みは消え、そして今新しく上からリッキーが残した色が刻まれている。
もう…2番目なんかじゃ嫌です。
今の俺は…貴方を手放す事なんて出来ないから…
先日の彼の言葉が脳裏をよぎる。
跡を指でなぞり、そしてシャワーのハンドルを再度ひねってお湯を止める。
体を拭き、髪を乾かし…
動く事を止めるとつい考えてしまう。
あのさ…話したい事があるんだけど…―…
ダメだ。このまま考えても頭がパンクするだけ。
とりあえず眠って全て忘れよう。
いつもより大分早めだが電気を消し、寝室のベッドに潜り込む。
「……………。」
そっと目を閉じた。
・
・
・
眠れない。
もう一度、目を閉じる。
・
・
・
やっぱり眠れない。
時間、やはりまだ早いからだろうか。
「んぅっ…」
体勢を変えようと寝返りを打った瞬間。
ガサッと聞き慣れない音が枕の下から聞こえてきて閉じていた目を開けた。
「…何?今の」
眠る努力を一旦止め、敷布団を捲ってみるが何もない。
おかしいな、確かに聞こえたはずなのに。
ベッドの骨組み部分の奥まで手を入れてみる。
…何もないな。
でも確かに今、変な音が。
ガサッ。
あっ
その瞬間ベッドの僅かな隙間を滑り抜け、紙のような物が床に落ちた。
「何これ?」
拾ってみたが暗くてよく見えなくて、消したスタンドの明かりを再びつける。
*****
「あー…体だるい…」
陽が差し込む朝。
今日は休日で、ふたりでゆっくり過ごそうと決めていた日だ。
朝食を食べ終え、サラとナイジェルは特にやりたい事もなくベッドに隣同士で寝転がっていた。
「いい加減慣れろよ。昨日はそんなにしてねーし」
「手加減って言葉を知らないのよ、アンタは。もっと女性の体をいたわりなさい」
背中を向けて拗ねていると、彼は笑いながら後ろから大きな手で抱き締めてきた。
「オメーがそんな可愛い反応するからもっと欲しくなんだよ」
「うるさい、言い訳禁止」
そう言いながらも彼女も機嫌を直したのか、彼の背中に腕を回して目を閉じる。
「はいはい。じゃ、そろそろ下に降りるか?ジム達も暇してるだろうし」
ナイジェルが起き上がった瞬間…
「ん?なんだ、これ」
すぐ傍にある棚の上。
電気スタンドの隣に、一台のカメラが置いてある事に気づいた。
興味が沸いたのか、立ち上がるより先にナイジェルはそれを手に取ってみる。
「サラ。なんだこれ?」
「写真を撮る機械よ」
「馬鹿にしてんのか?幼稚園児の質問じゃねんだよ。じゃなくて、なんでこんなモン出してんだって訊いてんだ」
「この間、友達の結婚式があったの。そのインスタントカメラ凄いのよ。撮ってすぐに現像された写真が出てくるの」
「ふーん」
家を出て現像しに行くのが面倒臭いとのサラの言い分。
コイツ…なんとなく俺に似てきたな。
デジカメを使え。
「もういいでしょ。こっちはだるいの。今日はここで寝ておきましょうよ」
「あぁ、わかった。仕方ねぇなぁ…」
彼がまたベッドに体を沈めた瞬間に…
パシャッ!
「…え?」
フラッシュが光ってカメラから出てくる一枚の写真。
それは明らかに、手を伸ばしてナイジェルが撮った寝転がっているふたりの写真だった。
「ちょっ!なに撮ってるのよ!?」
「はははっ!オメー、ひっでぇ顔だな!」
「ッ…///貸しなさい、馬鹿!」
珍しく動揺した彼女は写真を取り上げる。
「んだよ、もっとちゃんと見せろよ」
「見なくていいから!撮るなら撮るってちゃんと言いなさい!」
こーいう事で顔を赤らめる彼女は貴重だ。
その顔も写真に残しておきてーな。
「はぁ、悪い悪い。にしても結婚式かぁ…」
「……ッ…」
「じゃ、次はきっとお前の番だな」
「ナイジェル…」
頭を軽く撫でられて頬にキスをされる。
「いつかしよーな、俺達も。まだいつになるかはわかんねぇけど、俺はお前以外考えてねーから」
「……ッ…///私もよ。大事にしてよね、一生」
「わぁーってるよ」
サラはその写真を敷布団とベッドの間に咄嗟に仕舞い、そしてお互いは抱き合ったまま眠りについた。
スルッとベッドの骨組みの隙間に入り込む写真。
逃げるように、私の前から姿を消していた。
*****
そうだ…
あの時の…ッ…
まだナイジェルが事故に遭う前の写真。
まだ…私と深く愛し合っていた時の…
手が震える。
すっかり忘れていた。
写真を見た瞬間、その時の思い出が湧き水のように脳内へ溢れ出してきた。
「本当っ…私…ヒドい顔…」
笑いながら涙も溢れ出す。
「嘘っ…だったの?…結婚してくれるって……言ったじゃないっ…ナイジェル…」
止まらない。
彼への愛しい気持ちが再び込み上げ…
やっぱり私はっ…彼をまだ愛してしまっている。
どうしても…忘れられない。
ガチャンッ!
我慢が出来なくなって、ベッドを降りて部屋を飛び出した。
「……ッ…」
彼の部屋の扉を叩こうとしたが、そこはグッと堪えてメインルームへ向かう。
水を飲もう。
一旦気持ちを鎮めなきゃ。
このままじゃ眠れるはずなんて…
ガチャンッ!
「え…?」
彼が…いる…?
電気もテレビもついていないメインルーム。
誰もいないと思って飛び込んだその部屋には
何故かひとり、携帯電話を眺める男の姿があった。
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