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「…サラ?」
「ナイジェルッ。なんでこんな所に!?」
「なんとなく眠れなくて、下にいれば眠くなるかと思ったんだけど」
照れ臭そうに笑う。
予期していなかった事態にサラも動揺を隠せない。
なんで…今、この時間、この場所に貴方がいるの…?
「サラは?」
「私はっ…水を飲みにきたの。眠れなくて」
「俺と一緒か。用意しようか?」
「大丈夫。自分で出来る」
いかにも平常心を装ってコップに水を注ぐ。
まさか、本人が起きてこの部屋にいるなんて思ってなくて…
彼には見えない部分で、コップを持つ手は微かに震えていた。
「今俺、サラと回った所の写真を見返してたんだ」
「また頑張って思い出そうとしてるの?」
「いや。楽しかったなと思って」
彼女の頬が若干赤くなって、気づいたら注いでいた水はコップから溢れてこぼれ出していた。
それも彼に見えない隙にタオルで拭く。
「隣に座れば?」
「…いい」
「座りなよ」
「…………。」
ソファーから手招きしてきた彼に、緊張しつつも言われた通り隣に座った。
…ったく、なんなのよ。
このタイミングで。
そう思いながら少し距離を空けていた。
「楽しかったね。あ、この公園の噴水とか、凄く綺麗だった」
「…そうね」
「あとこのライブ会場とか。迫力あったな。見てよ、この俺の顔」
グイッと近づかれる。
ちょっと待って。
筋肉が硬直しちゃうから離れてよ。
「ッ…////」
「楽しかったな。この時」
ナイジェルは笑顔で携帯を近づけてくる。
なんにも覚えてないからそんな顔出来んのよ、馬鹿。
「次は…どこに行く?」
「次っ…」
次なんて訊かれてもなんて思ったが、それ以上に不思議に思う事があって私は彼の顔を見た。
それはなんとなく、彼の様子が普段と違って見えた事。
誰も周りにいないのに、何故か小声になっている。
一枚の画像をふたりで見つめ、体と顔の距離が異様に近い。
「ナイ…ジェル…?」
「俺、最近凄く楽しいんだ。何も思い出せてないけど、ただ純粋に君と出かける事が」
「………ッ…」
昔のナイジェルとは似ても似つかない、優しい顔で微笑んでいた。
ドクッ
ドクッ
その表情に無意識に心臓の鼓動が高鳴る。
ダメ。
私にはリッキーがいるの。
これ以上惑わせないで。
お願…
「サラ」
「……ッ…」
名前を呼ばれ、頭の中がフリーズする。
彼の瞳に私が映っていた。
何…?その顔…
「ずっと言おうと思ってたんだけどさ…こんな機会滅多にないから、もう今言うよ。
俺、君の事が好きになったみたいなんだ」
「………ッ…」
目を大きく見開いたと同時に瞳孔も開いた。
今…この人……なんて…?
「無理だったらキッパリ諦める。前にサラ、朝に帰ってきた事あったじゃないか?彼氏がいるのかなって思ったけど…
もしそうじゃなかったら…って、ほんの少しだけ希望を持ってしまって。前の俺にも恋人はいなかったみたいだし。
君にお付き合いをしている人がいるのであれば、なかった事にして欲しい。
今まで通り、バイクやってる仲間として普通に接してもらって…」
ナイジェルが…私の事を好きになった?
夢か現実かわからなくて、頭の中がますます真っ白に。
「サラ…?」
「…あ、ごめんなさいっ。ボーっとして…」
「驚かせてごめんね。答えはいつでもいいから」
「ナイジェル、私っ…!」
ふと、リッキーの顔がまた脳裏に蘇った。
彼の言った言葉も全部…
「サラ?」
「ごめんなさい。少し時間を頂戴…」
「…………。」
彼女、声が震えている。
やっぱり…迷うべき相手がいたんだな。
覚悟はしていたが、予想していたそれが現実なんだと知ると胸の奥が少しだけズキッと痛んだ。
「…わかった。待ってるよ」
「ごめん」
「謝らないで」
彼はまた微笑む。
前の意地悪そうなナイジェル・ヨークの笑い方ではなく、優しさに包まれる温かい笑顔。
「私…部屋に戻る」
「あぁ。おやすみ」
「…おやすみ」
適当にコップを洗い、そして部屋を出る彼女。
ガチャン。
扉が閉まるその瞬間まで、平然を保ち続けていた。
……………
「…はぁ」
小さくため息をついたナイジェルは、もう一度サラと出かけた時の写真を見つめ返す。
風景と一緒に映り込んだ彼女の後ろ姿。
横顔。正面の笑った顔。
携帯電話の電源のボタンを押すと、画面は待ち受けのまっさらな何もない画面へ戻った。
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