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……………
「サラ、いらっしゃい。待ってましたよ」
何も知らないリッキーは、優しい笑顔で出迎えてくれた。
私は昔はよく左のナイジェルの部屋に出入りしていたのに、今は全くの逆。
右のリッキーの部屋に足を運び、いつもみたいに中へ入る。
「プリン大成功ですよ。入って食べてください」
「…えぇ、お邪魔します」
出されたプリンは、薄いピンク色の器に乗ってプルプルと揺れながら現れた。
ツヤのあるカスタード色が美味しそうで、上からかかったカラメルの香りが食欲をそそる。
男のくせにこんな私でも作らないようなもの作って。
クビになったらケーキ屋でも開くつもりなのだろうか。
女子力高すぎ。
「美味しそう」
「でしょ?本当は焼きプリンにしたかったんですが、焼いたら跡形もなく溶け去ってしまったのでこのままにしました」
「普通そんなに溶ける?何使ったの?」
「火炎放射器しかなかったので」
「火炎放射器!?この部屋大丈夫!?」
そんな会話をしながら、まだ焼く前のプリンを口に入れる。
「うん、美味しい」
「そうですか!よかった」
「ありがとう、リッキー。私の事心配してくれてたのよね。嬉しい」
「えっ…///いや、そんなつもりじゃ…」
「そんなつもりじゃなかったとしても、凄く元気出た。ありがとう」
「…………。」
自分の作ったプリンを食べ続ける彼女。
「悩み…あるんだとしたら、ナイジェルの事ですか?」
「………ッ…」
残り一口の所でリッキーから質問をされ、サラの顔が一瞬青ざめた気がした。
「ううん。最近、順位が伸びずに悩んでただけ」
「そうですか。それだけならいいんですが」
また挽回出来ますよ、俺もトレーニング相手だったら付き合います。と微笑むリッキー。
その後、2時間程彼の部屋に入り浸り、何気ない会話を繰り返す。
先日起こった面白い出来事。
自分の家族の事。
猫の魅力について。(これはほとんどリッキーの独り言)
その間、ナイジェルの話題が出てくる事は一切なかった。
最初の質問の一度きり。
そして眠気が襲ってきたので、部屋に戻ろうと荷物をまとめる。
「それじゃ、また明日」
「えぇ。プリン美味しかった」
「また作ってあげますよ。おやすみなさい」
「おやすみ」
ガチャン
静かに扉が閉まる。
「…………。」
無音になってしまった見慣れた自分の部屋。
小さく息を吐き、リッキーはリビングへ戻った。
「サラ。俺にまだ嘘をついてる…」
ソファーに座ると今度は大きなため息が漏れた。
なんだかきちんと姿勢よくいる気分にもなれなくて、そこにだらしなく寝転がる。
どうしてこんなに近くにいるのに。
体は重ねられても、彼女の心だけはどうしても俺のものにならない。
それは深く悲しいというより、どことなく切ないという感情に近い。
「…ん?」
ふと寝返りを打った瞬間、あるものが目に飛び込んできた。
カーテンの傍に落ちている見覚えのないもの。
何だろう?
彼女の落とし物かな。
ソファーから重い腰を上げ、何気なくそれを拾った。
「………ッ…」
それが目に入った瞬間、言葉を失う。
時計の針は次の日付へと変わりそうな時間だった。
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