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……………
あの日から私はバイクに集中する為、一旦全ての悩みをほぼ強制的という形だが忘れて仕事に没頭した。
出来る限り休息を取り、夜も早めに寝るように心がけ、食事も健康的に摂取する。
定期的に運動も行い、体も鈍らないように。
ジムが私の担当の掃除や買い出し、レポートの作成などを一時的に代わってくれ、十分にそれは行う事が出来た。
本当に彼には感謝している。
次のレースで出場停止にならないよう、スポーツマンとしての自覚をしっかり持たなければ。
プライベートで何があっても、私がバイクライダー、スタントマンである事は変わりない。
改めてそう実感した。
ナイジェルやリッキーの件は正直な所気になって仕方がないのだが、彼らだって私が本調子に戻る事を望んでいる。
一時悩みを頭の片隅に置いておき、体の調子を整える事に専念した。
……………
ブオオオオオッ!!!
「「キャァァァァァッ!!!」」
「本日のレースの結果、1位がジム選手、2位がサラ選手、3位がボビー選手となりました!皆様、盛大な拍手を!」
スタンドに大きな拍手が沸き起こる。
前回とほぼ同じ光景。
「調子、戻ってきたみたいじゃないか。サラ」
そしてこちらも前と同じように観客に手を振りながら、隣から話しかけてきた人物がいた。
リーダーのジムだ。
「まぁね。私だってやれば出来る子なのよ」
「偉そうに。まだ俺には勝ってないじゃないか」
「冗談よ。でもジムのおかげで随分リフレッシュ出来た。感謝してる」
「お、珍しいな。それじゃ今度高い飯でも奢ってもらうかな」
「OK。ハンバーガー1個くらいなら余裕」
「とんだケチくされだな、お前」
「それも冗談よ(笑)」
ジムに忠告を受けてから数日が経過。
私の体の調子も徐々に戻り、待っていた次レースでも上位に食い込む事が出来た。
まだまだ残っている問題も多いが、とりあえずは一安心。
その後、ジムには最近近くに出来た寿司店で一食分を奢ると約束。
財布的には痛手だが、私も一度行ってみたい店だったし事実彼には十分すぎる程助けられた。
本当はこれでも足りないくらい。
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レースも終了し、女性更衣室で着替えていると一緒に服を脱いでいたビッキーが横から話しかけてきた。
「調子出てきたみたいだね!よかった!」
「ありがとう。ビッキーにまで心配かけちゃうなんて」
「サラが元気なかったら調子狂うもん!ケンカ相手いなくなっちゃうし!」
「そんなに私とケンカがしたいの?ひねり潰すわよ、小娘」
「怖い怖い(笑)冗談だって!あ。それより調子がおかしいといえば…リッキー、最近変じゃない?」
「リッキー?」
ロッカーの匂いとまだ湿っぽく残る熱気。
市販のシートで体の汗を拭きながら訊き返した。
「うん!なんか…いつもみたいに周りにお星様が散りばめられてないし、普段着の王子様の衣装も着てないし」
「アンタ、眼球にどんなフィルターがかかってるの?私、そんな怪しい人物どっちも未だかつて目撃した事がないんだけど」
「そうじゃなくて!どことなく元気がない気がするんだよねぇ。私の気のせいならいいんだけど」
「大丈夫よ。また飼ってた猫ちゃんにでも逃げられ…………ッ…」
『話があります。今夜、俺の部屋に来てくれませんか?』
手に取った携帯電話。
何気なく未読メールを確認すると、リッキーからそのメールが入っていた。
「どうしたの?」
「いやっ…何でもない。早く着替えて戻るわよ」
慌てて彼女に見えないよう、携帯の画面を背中へ隠した。
近くにいるのにわざわざメールで送ってきた。
こんな事今までに一度もないのに。
何か…特別な意味があるのか。
胸の中が妙にざわつき、私は背中側でメールの画面を閉じていた。
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