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……………



ナイジェルッ…


ナイジェル…!



私はリッキーから背中を押され、何も覚えていない彼の部屋へ急いだ。


操られているみたいに足が動く。


会いたいっ…


一秒でも早く会って…


全部



伝えたい。








ゴンゴンッ!



「ナイジェル!」



ゴンゴンッ!


扉を叩くと、何も知らない彼がノブをひねって出てきた。



「サラ?どうしたの?」

「ナイジェルッ…」


言葉が出ない。

ただ…貴方の顔を見てるだけで、こんなに胸がいっぱいに。



「サラ…?」


彼女の目が…潤んでいる?


「泣いてるの……ッ…!」




質問が途切れ、彼女はそのまま彼の胸に飛び込んだ。




「……………。」




ガチャン…



ゆっくりと扉が閉まる。

リビングからのテレビの音と、その部屋からの光だけが入る玄関。


「…ッ」

「ナイジェル…。私…貴方の事が好き…」

「サラ…それはもういいよ。気持ちだけで充分嬉しい。大丈夫。俺はひとりでもやって…」

「違うっ!違うの!!」



彼女の気迫に彼は呆然としている。





伝えたい…




伝えたいっ…






少し離れたサラは手を差し出し、手の中のグチャグチャな一枚の写真を渡した。




「……ッ…!」



リッキーから受け取った、あのベッドの中から出てきた貴方との写真。


その瞬間、ナイジェルの瞳孔が大きく開く。



「これ…」

「貴方…前に言ってたでしょ。残りの50%が思い出せないって」

「…………。」

「それ…多分…私の事だと思う」


「えっ…」




*****


「 ただ…ただ…胸の中にぽっかり穴が空いたような。俺の大事な心臓部分がないみたいな。

事故から目が覚めた時から、ずっと感じていた違和感なんです。

俺の中でバイクが25%、仲間達との生活が25%だとすると…残りの50%。そんな大きな俺の何かを…

忘れたままのような気がするんです」



「それが、なんなのかは…まだわかりません。もしかしたら俺の勘違いかもしれないし、そんなもの存在しないのかも。
だけど…どうしてもそれがずっと気になって。胸の中がモヤモヤする。だから俺は過去の記憶を思い出したいんです」



*****



確かにそれは、ずっと前から自分が感じていた違和感。



しかしその答えが「君」という事は…













「私達…付き合ってたの。周りに気づかれない所で…深く愛し合ってた」


「……ッ…」



ナイジェルの瞳が揺れている。

彼の心臓の鼓動が聞こえてきそうだ。


伝えたかった、本当の事実。


やっと…貴方に言えた。


「ひとりには気づかれてたみたいだけど。他の周りは多分この事を誰も知らない。嫌…だった?」



あまりに突然の告白に、彼は呆然と固まっている。



「それは…本当?」

「こんな所で嘘つくわけないでしょ。貴方と撮った写真も…貴方から貰ったメールも…貴方がくれたプレゼントも…結局…何も捨てられなかった」


サラの声が徐々に涙声に変わると、そっと何かが自分の背中を温めた。



「…………ッ…」



貴方の手。



「ナイジェルッ…」



彼は無言で、サラの体を強く抱き締めた。



「嬉しいっ…。ずっと…そうだったらよかったのにと思ってた。本当なんだよね…これは…」


私の手から取った写真を抱き締めながら見つめている。

その手は微かに震えていて…



「今まで黙ってて…ごめんなさい」

「いいんだ。俺も…今まで思い出せなくて、本当にごめん」



ようやく…自分の心臓部分を取り戻した、体の中が満ちる感覚。


俺が無くしていた一番大切な存在。


ゆっくり体を離し、お互いの顔を見た。



「でも、サラ…他に付き合ってる男性は?」

「それも、貴方に話しておきたいの」

「待って。テレビを消してくる」

「いいの。このまま聞いて」


覚悟を決め、彼の袖を強く握る。


「私…貴方が記憶を無くして…貴方の事を忘れようと違う男性に逃げた。貴方を裏切って…その人に何度も何度も抱かれて」


「…………。」


「でも…心のどこかで貴方を忘れられなくて。結局、愛してくれてたその人とも別れちゃった。

本当…純粋にひとりの人を待つ事も出来なくて、別の人も傷つけて…自分勝手で最低だと思う。ごめんなさい。謝りたいの…貴方にも、その人にも」



彼は何も言わない。

ただ、私の目をじっと見ていた。



「わかった」

「………」

「ありがとう。全部話してくれて」



失望される事を覚悟で正直に打ち明けたが、彼は優しく微笑んでくれた。

その笑顔は昔の愛していたナイジェルとは程遠い。


それなのに…私は…



「全部…俺のせいだよ」

「ッ…」

「俺が記憶を無くさなければ、君にも寂しい思いをさせずに済んだし、その男性も悲しい別れをさせずに済んだ」

「ナイジェル…」

「だから…君はもう謝らなくていいよ。その人にも、それだけの気持ちがあれば大丈夫」


「…………。」



貴方の部屋の見慣れていた玄関。


サラはもう一度、彼の胸に頭を預けた。



「ナイジェルは…そんな優しい事、平気で言う人じゃなかったから」


「だろうね」


「なのに…私はやっぱり貴方が好きなの。もう貴方以外の男性を本気で愛せない…」


「サラ…」

「…………。」



頬を撫で髪を耳にかけて、こぼれた涙を指で掬われる。










「もう一度、スタートからやり直そう。俺達が一緒になった、最初の日まで」


「ナイッ…」













「愛してる。もう手放さないから」







全ての時間の感覚が…おかしくなってる。



私の時間はあの日と同じ。














貴方だけいればいいと思ってた。




最初は貴方が遊び半分に私を求めてきて

私も貴方の事、嫌いじゃなかったから受け入れた。



それが始まり。



何もなかった私の体が、


幾度も肌を重ね合い、


熱い感情をぶつけ


「貴方」に染められて


気がつけば、貴方なしでは生きられなくなった。



もう他の人なんて愛せない。



貴方だって、きっとそう。



私の事



もう手放せない程愛してるでしょ?


















「ンッ…!」





深いキス。

お互い抱き締め合い、いつぶりか覚えてない程の…懐かしい口付け。



「…クチュッ…ちゅっ」

「…フッ///…ンッぅ!」


ドアに押し付けられ、腰や太ももを触り合いながら、何度もそれを繰り返す。


「嬉しいっ……はぁっ…

貴方にこうやってっ…また抱き締めてもらえる日が来るなんてっ…

もう……来ないかと思ってッ…あっ!…チュッ……んっ!」


唇を離し、顔の距離は近い。



「その日まで…戻るんでしょ?」

「ナイジェル…」

「教えてよ。俺達…どれだけ愛し合ってたのかを」


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