30
……………
久しぶりに入る、彼の部屋のベッドルーム。
約一年半ぶり。
昔はよく来ていたから、なんとなく懐かしい気分になる。
それにしても、部屋の中は昔よりも大分綺麗に片付いていた。
やっぱり前のナイジェルとは違う。
「部屋が綺麗(笑)」
「今の俺はちゃんと掃除をしてるからね」
お互いベッドに座り、手を握ったまま見つめ合う。
「…いい?」
「フフッ。前はダメって言っても無理やりしてきたくせに」
笑う彼女の顔はやはり美人というよりも可愛い。
「えぇ、そうなんだ」
「いいわよ。ここまで来てダメなんて言うわけないでしょ」
「…まぁ、言われてもやるけどね」
「やっぱり訂正。変わってないわ、そういう所」
お互い上着を脱がせ合うと、ナイジェルの目にあるものが飛び込んできた。
「これ…」
服で隠れて見えなかった、彼女の胸に刻まれた紅い跡。
彼女はその跡を細い指で優しくなぞった。
「ごめんなさい。これは…前の彼がつけた跡」
「…………。」
実際に見た事がない以前の男。
そのため実感が今まであまりなかったが、こう現実の証を見ると本当にそんな人物がいたのかと改めて思い知らされてしまう。
その後、彼女は申し訳なさそうに俯いた。
「これは…消えるまで残しておきたいの。私を孤独から救ってくれた…もうひとりの大切な人の証だから。お願い」
「…………。」
本当にその人の事も大切に思っている。
サラの切ない気持ちがその言葉と表情で、ナイジェルにもヒシヒシ伝わってきた。
「我が儘でごめんなさい。でも…」
「わかってる。そこには触らないよ」
「ナイジェルッ…」
「こんな優しい俺…変かな?」
背中に手をまわし、ブラのホックを外される。
抱き締めると、腕の中で彼女は言葉に詰まりながら小さく頭を縦に振った。
・
・
・
「んッ…はぁ…はぁ…」
この体、この声。
肌を重ねる度に、私達の時間は過去に戻っていく。
「サラッ……チュッ…」
紅い跡には触らないよう、優しく抱いてくれるナイジェル。
以前はあんなに激しかったのに、まるで別人のように。
柔らかい手付き。
でも甘い色気のある吐息は、昔と同じ。
入れていい?なんて昔は貴方訊かなかったでしょ。
優しくするからなんて、そんな事言われなくてもわかってる。
寂しいのは嘘じゃねーよ――…?
たった一週間だろうがなんだろうが、オメェを抱きたい時に抱けねぇのはすげー寂しい…―
彼は戻ってきてくれた。
たとえ記憶は無くなってしまっていたとしても、私にとってナイジェルはひとりしかいない。
ずっと、待っていた。
この時間が幸せすぎて
頭がおかしくなりそう。
「…アッ!…ハァッ…あっ…」
ズチュッ!ズチュッ!
「サラッ!…アァッ」
「ナイジェッ…!買nァッ//…あぁッ」
・
・
・
・
行為を終えると、彼女の顔の真下のシーツが濡れていた。
無意識に出ていた涙の証拠。
自分でも最初それが何なのかわからなかった。
「ごめんっ…痛かった?」
「ち、違うの。わからないけど…何これ…」
こんな事、今までになく初めてで自分でも動揺した。
慌てて涙を拭い、後ろの彼へ振り返る。
「大丈夫。気にしないで」
「本当?こっちもごめん、歯止め利かなくて」
「ううん、嬉しかった」
そのままふたりで横たわり、天井を見上げた。
手は握り合ったまま。
言葉を交わさなくてもわかる、貴方の気持ち。
「はぁ…不思議だな…」
ナイジェルは消えたライトと天井を見上げたまま、ポツリと呟いた。
「何?」
「いや。記憶が無くなっても結局は同じ人を好きになってしまうんだなって…」
「…ナイジェル」
「脳みその中には君との思い出は何も残ってないけど、本能では忘れてしまう事なんて出来ない。
きっとそれほどまでに、前の俺はサラの事を愛していたんだろうな。今なら、それが痛い程わかる」
横顔を見ると、彼もそれに合わせてこちらを向いてくれた。
優しく微笑む顔。
温かく握ってくれる手。
「サラ…。愛してる。
今後、何度記憶を無くそうが、
もう絶対この気持ちだけは忘れないから」
「ええ…。次忘れたら、今度こそ違う人の所に行っちゃうんだから」
「ああ。約束だ」
お互いの笑った顔。
その顔はまるで、あの写真を撮り合った時の幸せだった笑顔と同じ。
しわくちゃの写真はふたりを見守るように、棚の上に飾られていた。
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