……………


「バレルさんとは、最近どうなんですか?」


テーブルに広げられた問題集に参考書。

床に並んで座ってふたりで難問に挑戦し続けてきたが、少し疲れが出たらしい。

ある程度の量の問題を解き終わった所で、クラウディは突然ローラに訊いてきた。


「え?バレルさんと?」

「何か進展あった?」

「な、ないよ(笑)残念ながら」

「そっか。それは残念ですね」


そんな事を言いながらも、彼の表情は普通に笑っている。


「残念そうじゃないじゃん!」

「そうですか?ローラさんには自分の心の涙が見えないんですね」

「見えないよ、そんなの!」


こうやって素で笑い合えるのも彼だけ。

バレルさんの前では、とてもじゃないけどこんな大口開けて笑えない。


サポート役失格だと何度も申し訳なさそうな顔をされたけど、むしろとんでもない。

私にとってはこうやって話を聞いてもらえるだけで十分気持ちが楽になっているのだ。

実際は感謝しても足りない程。













「まぁ…少し私の言葉に返事をしてくれるようになったかなって思うよ。最初の頃は目も見てくれなかったし」

「そうなんですね。十分な進展じゃないですか」


テーブルについていた肘を戻し、小さく声に出したクラウディ。


「進展って言える程じゃないけどね。
なんとか彼に人間らしい感情を取り戻して欲しくてひたすら頑張ってる」

「………。」




その言葉の後、彼女の表情がふと暗くなったように見えた。


「ローラさん?」

「でも本当はね…全然不安がないかと訊かれたら『そうじゃない』って答えると思う。

バレルさんは…今まで私と生きてきた道が違いすぎて、たまに大きな壁を感じたり、目に見えない不安に襲われたりするんだ」


ぽつ、ぽつと本心を語る姿に視線が逸らせない。

自分といる時はいつも弱音なんか吐かず、辛そうな顔ひとつ見せないで頑張ってきてたみたいだけど。

思っているよりも「強い人」じゃなかったのか。

彼女は目を虚ろにしたまま言葉を続ける。


「根っからの悪人じゃなくて、本当は優しい人だってわかってるけど。

前の『怖い』って感覚が、バレルさんといると突然フラッシュバックしてしまいそうになるの。
だから…その…」

「…………。」

「あの人が、わからなくなってしまいそうな時だってある」



途切れてしまいそうなか細い声。

まだ彼女とバレルさんの間には、飛び越えられない大きな溝がある。

なかなか破れない、彼の心の闇。

バレルさんがローラさんに強引に嫌がる事をしたのも事実だ。

あの時の電話越しでの彼女は、泣いて泣いて枯れたような声だった。


忘れもしない。

その瞬間、傍にいてあげられなかったもどかしさ。


切ない横顔をクラウディは真剣に見つめる。



「でも…ね。私そういう時はいつもクラウディ君の顔を思い出してるんだよ」

「え?」


「怖くて足が動かない時も泣きそうな時も。

君の顔を思い出すと、自然と勇気が湧いてくる気がするの。

何度も何度も、私はクラウディ君の言葉に救われたから」


「っ…」


ペンを握ったまま目を丸くする彼。



「ありがとう、クラウディ君。君がいつも私の味方でいてくれる事、本当に…本当に感謝してるの」























少し開いた窓からすきま風が入ってきて、淡い青色のカーテンを揺らす。

肌で涼しいと感じられるそよ風。

静かな時間が流れ、それは秒針の音さえも耳に入る程で



感謝の言葉を述べた後、ローラは途端に照れ臭くなったらしく目を逸らして笑った。



「はは、ごめんね。いきなり変な話しちゃって。それじゃお勉強再開しようか」








パタン。






「っ…」




テーブルに広げられた参考書。

手を伸ばして次のページを捲ろうとすると、突然大きな手によって本そのものが閉じられてしまった。


「クラウディ君?」

「ねぇ、ローラさん。もし、自分が貴方をここで引き留めたいって言ったら…どうします?」


今気がついたが、床に座っているふたりの距離はお互いが少し手を伸ばせば握れてしまう程近い。

突然、彼の口から飛び出してきた質問にきょとんとしている彼女。


「引き…留め?」

「…………。」


そんな近くで、しかもじっと顔を見つめてくる彼に、ローラは少なからず頬を赤らめる仕草を見せた。


「ど、どうしたの?///」

「前に言ったはずですよ。バレルさん以外に、そういう可愛い顔を見せたり言ったり…気を抜いちゃダメだって」

「…っ」

「次にこれを犯したらどうなるか…。以前、ちゃんと忠告しましたよね?」




「ッ…/////」







頭の中にあの時の言葉が蘇り、頬がますます真っ赤になる。




覚えている。


彼にあんな事を言われた。


だけど私は…



「そ、そんなつもりじゃ」

「自分は…心の中では今でもローラさんに誰の元へも行って欲しくないと思っています。もちろん、バレルさんの所へも」

「…っ/////」


最初に泊まった日から随分時間も経過し、ごく自然と以前のような関係に戻っていっている気がしていた。


気が合うお友達。


でもそれは表面上だけの見え方であって、ふたりのお互いに対する思いはまるで変わっている。



「それでは…約束です。今日は貴方を誰の所にも行かせません」

「…ッ!」


テーブルに置いていた手を握られたかと思うと、ローラの体に暗い影が落ちる。


「……えっ…きゃっ!」


すぐに大きな体が倒れるようにのしかかってきて、彼女の体は簡単に床に押し倒されたのだ。


「クラウディ君っ…!…わたっ…///」

「大丈夫。バレルさんには言いませんよ」





チュッ


「ひゃうっ!///」

軽く首筋にキスをされると、恥ずかしさのあまり変な声が出てしまう。


「可愛いローラさん。そんな顔、まだあの人には見せてないでしょ?」


次は鎖骨に。

耳に。


「やッ///…ま…待っ…」


まだ唇が軽く触れるだけなのに。

りんごみたいに頬が真っ赤になっている彼女は、あまり男性に慣れていないみたい。

嬉しい。

もっと自分だけのモノにしたい。


キスではあの人に先を越されてしまったみたいだけど。

バレルさん、すみません。

それ以外を先に奪うのは貴方じゃありません。










「怖い?」

「そっ…そうじゃなくて…///」

「じゃぁ、その子猫みたいな顔は何ですか?」

「……ッ…///」


下から見上げるクラウディの顔は、普段よりも少しだけ意地悪そうな顔。

その言葉にローラも思わず目を逸らした。


「ローラさ…」

「こっ…心の準備が……まだ…出来てなくて…///…ご…ごめん。私…年上なのに…」


「……ッ…」



恥ずかしそうな表情をして、申し訳なさそうに謝ってくる。

思った以上のリアクションに彼も言葉を失い…

仰向けになっているローラを強く抱き締めた。



「全く…本当です。貴方はいつもそうやって…」

「いつも?」

「こっちの話です。落ち着けるまで何時間でも待ちますから、安心してください」

「…ッ///ご…ごめんね…」




ローラさんはそう言いながら背中に腕を回してくれた。

細くて、自分なんかよりずっと小さい女性の体。

あまりに愛しくて、力加減も忘れてしまいそうになる。


貴方を後ろから支えてあげるだけだと、最初は決めていたのに…


ダメだと思えば思う程

より欲しいと強く願うようになってしまう。


自分は…貴方の前だとやっぱり我が儘になってしまう。




「ク…クラウディ…君…///」

「何ですか?」

「………い…いよ…」


「…………。」



耳元で聞こえた震えている声。



「私も…クラウディ君の事……好きっ…だよ。君といる時間が…一番素直でいられるから…///」

「ローラさん…」


緊張しているのか、背中に回された手が男の服を強く握り、微かに震えているよう。

ほんと…年上じゃないみたい。

本物の子猫みたいだ。



「…だか…ら…///」

「…………。」

「…バレルさんには…んっ!」



咄嗟に口を手で塞がれる。




「言わないで」

「……ッ…///?」

「今は他の男の名前、言わないで欲しいな」


塞がれたまま、瞳と瞳を見つめ合う。

ゆっくりと彼の顔は近づいてきて…


「もちろん内緒です。こんな事するの、自分だって誰にも言えない」


重ねていた指をずらし、そこへ唇が下りてくる。



「んッ…///」

「口を開けて」


言われた通り開けると、そのまま舌が入ってくる。


クチュックチュッと聞いた事もないエッチな音を立てて。



「んはっ///…ん…!///」



うっすら瞼を開けると、目を閉じた彼の顔が。

私…クラウディ君と、キスしちゃってる…



「んんぅっ///…はぁっ…」


クチュッ…チュッ…クチュ…


吸い付くように舌を絡ませる。

ねっとりとした口付けが心地よくて、再び瞼を閉じた。


乱暴だったバレルさんとは違う。

私の事を考えてくれて、思いが優しく伝わってくるような甘いキス。

抵抗出来ず、体が自然と彼を受け入れてしまう。



「んはっ……はぁ…はぁ…///」


唇を離し、息があたるくらい近くで見つめ合った。



「ローラさん…貴方が欲しいです」

「…っ」

「愛してました。図書館で初めて出会った瞬間から。貴方程魅力的だと感じた女性はいくら探しても見つからなかった」



スッと筋の通った高い鼻。

サファイアみたいな青い瞳。


信じられないくらい…綺麗な顔。


胸の奥から湧き上がる熱い感情。


私、こんなに彼の事…



「クラウディ…く…んッ…///」



ローラも首に腕を回し、キスをした。

それをきっかけに彼も床に押し付けて服の中に手を入れる。

ついさっきまで、ここで先生と生徒みたいに一緒に勉強をしていただけなのに。



「はっ…あっ!…クラウ…ディッ…く…ンァッ///」



宿題を見てあげた後は、バレルさんの所に行くはずだった。



「ローラさんっ…やっぱり…貴方は綺麗です。

部屋に飾っておきたい程に」

「んぁあっ///…ダメッ…クラウッ…あっ!」



手を絡ませ、足を絡ませ

まだ昼間なのに、こんな事しちゃって。




クチュッ!ちゅ…

青いブラウスのボタンを外され、気づけば下着も淫らにされて。

普段紳士的なクラウディ君が、こんなに私の体を…


彼は両手で強く抱き締めて、彼女の首筋に顔を埋める。



「やっ////あっ…!////」

「ローラさん、可愛いですよっ」

「…ハァッ///…あっ…そんな風にしちゃ…ハァッッ!」



誰にも触られた事もない所が、次々と男の手に染まる。

恥ずかしいけれど、それでも満たされる感覚が幸せだった。


多分…相手がこの人だから。


無理に痛くしないし、「嫌じゃない?」と何度も確認してくれる。


やっぱり…私より彼の方がなんだか年上みたい。

優しくて、紳士的で…

それでもどこか男の子っぽくて。



「アッ!…んぅ///…はあぁッ!煤v

「楽に…してください」

「…ぁッ///…ファッ!…ぁぁっ…アンッ!」

「そんな声反則ですよっ…止まらなくなっちゃう」

「だぁっ…はぁっ!…クラウディ君っ///…」



淫らな服を脱がされ。

開いたシャツの隙間から見える彼の腹筋が、男らしく嫌らしく見えてゾクゾクとしてしまう。

ベッドじゃないのに、床で…こんな事っ…




「ローラさんも…して?」



甘く囁く声に体が勝手に従ってしまう。

私…おかしくなっちゃってる。

クラウディ君が好き…

もう…どうしようもない。



ドロッとした感覚。



口を離した後に、彼に背を向ける。



「…きゃっ!///」

「逃げないで…はぁっ…あっ」


汗ばむ熱い感覚が体を包み、髪が頬の汗にはりつく。

クラウディ君がこんなに私を求めてくれていた。



ジュブッ…!ジュブッジュブッ!



嫌らしい音が大きくなると同時に、激しい衝動とおかしな快楽に何度も何度も襲われる。


参考書や問題集がテーブルの振動で揺れている。

耐えられないような熱に、手を伸ばし自分の服を無意識に掴んだ。

何かを強く握ってないと、体が持ちそうにない。



「やぁッ…///!んぅ!…!///」


目を開けるとカーペットが汚れていた。

申し訳ないと思ったがそれ所じゃないし、何よりこのカーペットの持ち主は「構わない」と言わんばかりに攻め立ててくる。

優しい紳士ではなく、それは狼の姿。

私が止めないで欲しいとわかっているみたい。

彼も肩の上がるような荒い息遣いだ。

きっともう歯止めが利かなくなっている。


「ンァッ///!あっ…あぁっ!…クラウっ…好きッ……ハァッ!」


まとめた髪を右肩から下ろされ、後ろから抱かれる。

髪で邪魔をされなくなった露わになる白い背中に、キスをされる感覚が伝わった。


私…バレルさんの事が好きだったはずなのにっ…

私って…こんなに…

こんなにっ…!



「あぁんっ///…ハァッ…あぅっ!」


激しくなる衝動に体と声が勝手に悲鳴を上げる。

コロッとテーブルから、さっきまで握っていたボールペンが落ちてくるのが見えた。

痛みさえ…もうわからなくなる程。

初めての感覚に頭が真っ白。

ただひとつだけわかっている事は…


「やぁッ!///クラウディ…くっ…!もうダメ!」

「我慢出来ないッ…ローラさん…!」


彼がグッと体を押しつけ、声を漏らした瞬間。

全てが終わる。



私は…彼の事が好き。


彼の乱れたまま着ているシャツを、濡れた手で掴む。

少し震えている手の甲を、上から大きな手で強く握り返してくれた。



この体が熱くて溶けてしまいそう。


君が誰よりも愛しい。


今は…もう…バレルさんよりも。


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