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秋とは思えない暑さの中。
道を歩くとひとつのアパートが見えてきた。
ここがバレルさんの住んでいる建物。
毎度壊れそうな階段を上がり、ようやく扉の前に立った。
メールも一応送ったし、部屋を詮索したりするつもりもない。
ただシャワーを浴びて汗を流して、お部屋で少し休憩をするだけ…
他人の家に無断で入るなんて、なんだか自分が悪い事をしているように思えた。
ガチャン
わ…開いた。(当たり前だけど)
鍵を使い扉を開けると、見慣れたバレルさんのお部屋が見えた。
まぁ、肝心の本人はいないのだが。
「お邪魔…します…」
誰もいない部屋に向かって話しかけ、何故か忍び足で中に入る。
我ながら、これではまるで泥棒だ。
「はぁ…」
とにかくここは陽が当たらないだけマシ。
クーラーが欲しい所だが、この部屋にそんな豪華な物はないので我慢だ。
とりあえずシャワーを借りよう。
荷物を遠慮がちに部屋の片隅に置いて早速浴室へ向かった。
何度かここに泊まりがけで通う日も増え、数回お風呂も貸してもらった。
確か場所はこっちだ。
更衣室には洗濯機があり、彼の服が無造作に散らばっている。
それと洗面台に、使用しているであろう洗顔フォームや歯ブラシ。
こんな生活感のある物。
あんな(恐い)顔してるバレルさんとはあんまり結びつかないな。
とりあえず、入る前にお風呂場も確認しておこう。
足音のしないような歩き方を続け、そっと浴室の扉を開けてみ…
「……あ?」
「…………。」
ガチャン!!!!!!!!
え!?
え?え?
なんか今…バレルさんみたいな人がいたッ!?
バレルさんみたいな人がお風呂に入ってた!!?
ひ、人違いだよね!?きっと違うひっ…
いや、ここバレルさんの部屋なのに!
違う人が入ってるっておかしくない!?
「何してんだ?」
「…ひゃッ!////」
浴室から聞こえる声は間違いなくあの人の声だ。
ビクッと体を震わせ、ローラは後退りしながら慌てて弁解する。
「ご、ごご…ごめんなさい!私、誰もいないと思って!」
「…別に」
「あっ…というかすみません!勝手に部屋に入ってしまって!
お兄ちゃんの所へ行く途中だったのですが、外があまりに暑くて汗をかいて…
その…シャワーを借りて休もうかと…思ってっ。へ、部屋を物色するつもりは…」
「いーから」
必死に早口で言い訳をするローラに、バレルからの返事は短い。
声のトーンも低く、不安になった彼女は恐る恐る訊いてみる。
「あ、あの…怒ってますか?」
「無断で入ってキレるようなら、最初から鍵なんて渡さねーだろ」
「…っ」
あそっか、と胸の中で妙に納得してしまった。
「バレルさん…今日、お仕事じゃなかったんですか?」
「…代休」
「あぁ。一応メールもしたのですが、お風呂に入ってたから返事がなかったんですね。てっきり私、お仕事してるのかと思ってしまって」
「…………。」
返事は返ってこない。
とにかく…この状況は非常に気まずい。
見えはしなかったものの、バレルさんの入浴シーンを覗いてしまったのだから。
「じゃ、じゃぁ…とりあえず…何も触らないのでお部屋で休ませてもらっていいですか?」
「………。」
「あ…の…ダメですか?」
「こっち来い」
「…………へ…?」
予想もしていなかった返答に耳を疑う。
「はぁ…?あ…あの…////」
「聞こえねーのか?お前も入れっつってんだ」
「そんな////…え、それはちょっと…」
顔が真っ赤になり、姿が見えないにもかかわらず腰をかがめて受け身体勢になってしまうローラ。
しかしこれが無言の圧力と言うものなのか…
返事はないのに物凄い重圧感。
い、一緒にお風呂に入るなんて無理!
何度か彼の裸を見ているとはいえ、暗がりだったり毛布の中だったりしたから…
しかもこんな明るい昼間で…しかもお風呂だなんて。
大人ってこんなのなのっ?不純!←
「バ…レルさ…」
「…………。」
「えっ…と…」
「…………。」
「……わ…わかり…ました…」
結局、無言の圧力に負けてしまった。
よく考えたらこんな弱っちな私が、あのバレルさんに口で勝てるはずもない。
どうしようと視線を右へ左へ動かし、慌てて置いてあったバスタオルに手を伸ばした。
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