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テレビのリモコンは床に置かれたまま。
靴は並べられる事もなくバラバラ、服も玄関から廊下や扉の近くに続いて雑に脱ぎ捨てられ…
暗がりの部屋の中。
汗ばむ肌に抱かれて、サラは枕に頭を置いた。
「はぁっ…はぁっ…」
「んだよ、もうバテたのか?」
「うるさい、アンタの攻め方がやらしすぎんのよ」
「そんなに良かったんだな」
「いーからちょっと離れて」
抱き締めようとしてくるナイジェルの顎を押し上げて、無理やり距離をあける。
「痛ぇ」
「このエロヒゲが」
「男は皆エロいしヒゲだって生えてくんだよ。それに、んなやらしー体してるお前が言っても説得力ねーから」
「んも…触らないで」
観念した彼女は手を離す。
彼のエッチは慣れているというか…言葉も触り方も攻め方もとにかく嫌らしくて
グイグイ押される一方。
やり返す事も出来ずにされるがままだ。
普段は見せないような顔を見られ、声を聞かれて。
なんだか恥ずかしくて負けた気がしてしまう。
気持ち良すぎて体が勝手に受け身になってしまうのだ。
こんなのズルい。
「今まで何人の女を相手してきたの?」
「昔の事は覚えてねーな」
「覚えてないほどガールフレンドがいたのね」
「そうじゃなくて、俺は過去を振り返らない主義だから」
「格好つけたフリして言い逃れしてんじゃないわよ」
膝をガッと押し上げると彼の腹部に直撃し、思わず痛みに悶える。
クールなのか馬鹿なのか…相変わらずこの人のキャラクターは掴み所がなくてよくわからない。
「イッテェ。お嬢さんは短気だな」
「なんかイラッとしたから」
「はは。まぁ俺も、ここの事務所入る前は結構やんちゃしてた時期もあったからな」
「そうなの?」
「まだ俺がガキだった時代だ。ここに入ってからは、毎日なんやかんや忙しくて遊ぶ暇なんてなかったしな」
初めて聞いたこの人の過去の話。
やはり複数の女性を相手にしていた時期もあったらしく、夜な夜な遊んでいた過去もあったとか。
まぁ…今でこそ年長キャラでこんな性格だけど、
顔は悪くないわけだし、身長も高くてバイクの才能もあったわけだから、モテないはずもないか。
「………。」
「なんだ?ショックだったか?」
「別に。そうだろうなと思ってた」
「反応薄…」
あまり動揺していないサラに焼き餅を焼いて欲しかったのか、残念がっているのはナイジェルの方だった。
「まぁ…だが、俺は正直女はそんなに好きじゃなかった」
「はぁッ!?」
「どこにビックリしてんだよ」
「嘘ついてんじゃないわよ!」
「いーから最後まで聞けって(笑)」
彼女をなだめ、覆い被さるような体勢から離れてベッドに座り直す。
同じようにサラも起き上がった。
「好きじゃねぇっつーのは、当時俺の周りにいた女達の話。
無駄に自分を着飾って、キッツい化粧や香水をして。
周りに流されやすく、外面ばっか良くして芯がないっつーか…都合の良い生き物だと思ってた」
休憩したくなったのか、棚に置いていたタバコを取り火をつける。
ふわりと灰色の煙が宙を舞った。
「…まぁ、今考えれば俺に女運がなかったんだろーな。
だから付き合ったり関係を持った所で、俺は別にその関係をずっと続けたいとか心の底から好きだとか正直思ってなかったんだ。
俺もあの頃はガキだったからな。形だけの『女』が欲しかったんだろ」
「ナイジェル…」
「案の定、相手の女もそんな奴らばっかだった。
簡単に他の男に乗り換えられたり、あざとさが見え見えだったり。
体は満たされても、心は正直すげーつまらなかったっつーか。
そういうのに嫌気がさして遊ぶ機会も減り、その頃だったかな…ここに配属されたのは」
彼の過去の話に聞き入ってしまい、目の前のサラも毛布を握ったまま黙り込んでしまっている。
「そして、俺はお前に出会った」
「…っ」
目が合った瞬間、見慣れている顔なのに心臓がドキリと動いてしまう。
「お前と最初に話した時は、正直変な女だと思ったな。
安定してる両親の元から家出して、女ひとりでこんな男臭い世界に入りたいだなんて…頭どうかしてるだろ」
「………。」
「だけどな、お前が俺みてーな強面の男を相手に一歩も引かず、自分の信念を真っ直ぐに伝えてきた時、俺の中で何かが動かされた事は確かだった。
たかが『女』と思っていたが、その概念がお前の言葉で変わったんだよ」
「OKしたのは、料理が美味しかったからとか言ってたじゃない」
「そりゃもちろん、美味かったぜ〜。あれを食った瞬間から、お前はもう俺の嫁にするって決めてたからな」
調子良く笑い頭を撫でてきて、その手を荒く払う。
こういう親父的テンションは変わらずうざい。
「まぁとにかく、俺はお前のおかげで女に対する考え方を変えられたって事だよ」
「可愛い女の子には今だってヘラヘラするくせに」
「そりゃ男の本能だからな。それに余所の子は、見た目も可愛くて中身も良い子が多いんだよ」
「それは私も同感」
「相変わらずだな…」
クスッと笑ったサラ。
初めて彼の本心が聞けて良かった。
貴方は普段から自分の事はあまり話さないし、話したとしてもふざけられて本当の気持ちを聞かせてもらえなかったから。
私に対する想いもはっきり聞けて、正直とても嬉しかった。
「はぁ…」
サラは気が抜けたように大きく息を吐く。
数秒置いて、背中を向けた状態でベッドにごろりと横たわった。
「オイ」
「貴方の本心が聞けて安心したわ。ありがとう」
「…っ」
ったく、相変わらず素直じゃねー奴だな。
ちゃんと面と向かって言やいいのに。
だがコイツはこんな風に本心を素直に言えなくなる部分が、
俺にとっては可愛くて仕方がなかったりするんだが。
ナイジェルはその背中へ、後ろから手を伸ばそうとすると…
「それじゃ、疲れたから私寝る」
「はぁ?オマッ…まだ一回しかやってねーだろ」
「あんなに激しくしたのはどこの誰?」
「そりゃ仕方ねーだろ、男なんだから」
「貴方の体力に合わせてたら明日間違いなく起きれなくなるから。
とにかく…私だって久しぶりで体の感覚に慣れてないの。今日はもう寝る」
「……。」
「何?」
「へぇ…」
不気味な聞き慣れない声に思わず目を開き、後ろを振り返る。
「だから何よ?」
「俺より前がいんのか?」
「っ…私だって大分昔よ。貴方と同じ、ここに入る前」
「そうか」
「何残念そうにしてんのよ。それはお互い様でしょ」
「俺だって話したんだからお前も喋れよ」
「私はそんな大した話じゃない」
「いーから」
「…っ」
しつこく問いただされ、青色の瞳を背ける彼女。
あまり思い出したくない過去なのか。
「……。」
「……。」
「わかった。ならい…」
「捨てられたのよ。私」
掴まれていた腕から力が抜け、予想していたより重い回答に言葉は返ってこなかった。
話せと言ったのは、貴方でしょう?
「おま…」
「まだ私がここに入る前、私のバイクの実力を聞いて声をかけてきた1つ年上の男性がいたの。
彼は私に何度も『好きだ』と言ってくれて、若かった私も舞い上がってしまった。
私は当時、彼を本当に愛していたの。彼のためなら何もかもを捨てていいと思ってた。
でも…彼はそうじゃなかった」
「………。」
俯くサラの目に光は入らない。
「散々遊んだ挙げ句、彼は私に飽きたらしく次の女を見つけて呆気なくポイ捨て。
別れ際に言われたわ。
…ただ暇を潰したかっただけ、自慢がしたかっただけ。
本気にする君が悪いって。
結局彼は、私の体と自分のステータスだけが目当てだったのよ」
サラは話している間、背を向けたままでこちらに目を向けない。
動かない白い背中に悲しみの念が伝わった。
「私はナイジェルとは逆。深く傷ついてそれ以降、男は信用しない事にしたの。
どんなに『好きだ』と言われたって…またいつ裏切られるかわからない。
結局また遊びたいだけの関係かもしれない。
私はその後悲しみを振り払うようにバイクのみに集中し、ここに入れてもらえて。
その気持ちは日を追うごとに大分薄れたものの、結局ハッキリとは消えなかったわ。
ナイジェルもリッキーも、愛してたのは確かなのにね」
「…………。」
聞かせろと言いながら、話を聞いた後は何の返事もないナイジェル。
そこでようやく彼女は首だけを横に回した。
「…何よ?」
「いや。大した事じゃねーけど…ただその男を殺してぇと思っただけ」
「大した事でしょ。警察が動く大事件よ」
目を閉じて再び顔は壁を見つめる方向へ。
本当は話したくなかった。誰にも。
言いたくなかった私の過去。
この人だって聞いてきっと良い気分ではないだろうし、
何より最低な男に振り回され、それに気づかずにあっさり捨てられるなんて。
そんな格好悪い私、知られたくなかった。
貴方の前では、何もない私でいたかっ…
ガッ!
「っ…な…んっ!」
突然肩を掴まれ、激しくキスをされた。
「ンッ…ちゅっ///」
「クチュッ…クチュッ!」
「んはっ!何よ…急に」
「んなクソ野郎にお前を汚されてたなんて考えたらすげぇムカついてな」
「それは…私だってショックだったに決まってるじゃない。もう自分の体が嫌になるくらい」
「だからお前は、男を選ぶ事やその次へ進む事に抵抗を持ってたんだな」
「どうかしらね…」
素直じゃねー女だ。
普段はクールで完璧に見えていても、そうではない過去を話してくれた。
その辺のか弱い女性となんら変わらない。
複雑な気持ちを隠しきれていない表情に胸を締め付けられ、
それと同時に自分の中にそそられる熱い感情が再び込み上げてくる。
「もう一度抱いてやる」
「…は?///待ってよ、もう今日はいいって」
「うるせぇ。俺がもう我慢出来ねんだよ」
話し方が色っぽい声色に変わり、わざと耳に甘い吐息をかけて体を触ってくる。
「ちょっ」
「辛い過去もひっくるめて、俺が全部揉み消してやる」
「ナイジェル…」
そう言いながら彼は首筋に優しいキスを落とす。
「もうテメーにそんな思いは二度とさせねーから」
「…ッ」
「わかったら、黙って体を委ねろ」
柄にもなく頬が熱くなってしまい、そのまま抵抗せず。
抱いてきた体は、一回目の時よりも熱い。
サラもそれを拒否するなんて出来なくて、彼の口付けを受け入れて舌を絡ませた。
「んぁっ…////チュッ…!んっぅ///」
年上の彼はキスのやり方も上手くて、それだけで意識が朦朧としてしまいそう。
その最中でも毛布の中で体の隅々まで手を行き渡らせ、触り方にもビクビク反応してしまう。
「はぁっ…サラ。エロい」
「んぁっ!…はぁっアッ!///」
普段はクールな彼女の、こんなにも顔を赤くして可愛らしく鳴く姿はたまらない。
俺だけの女。
たとえ過去に別の男がこの光景を見ていようが関係ねぇ。
間違いなく、今は俺だけのものだ。
「アッ///はぁっ!…んっ…だっ///」
「はぁっ…何だ?聞こえねぇぞ?」
中を激しく指で探られ、何度も突き上げてくる。
濡れた快感に体が何度も反応してしまい、自分の声さえ上手く出せない。
「あっ…そこッ///…ンアッ…何度もっ…ダメッ!」
「ハァッ…すげー熱いぜ。気持ち良いんだろ?」
「ハァッ!あっ…////んっ」
「ハッキリ言えよっ…指じゃ物足りないのか?」
年長者の余裕なのか。
意地悪そうに耳元で囁いた後、胸元に吸い付いて追い討ちをかける。
普段の口でのやり取りのようにやり返せず、さっきと全く一緒。
ほとんど抵抗が出来ない。
太ももにも硬いものを擦りつけてきて、彼に抱かれている感覚に意識が飛んでしまいそう。
「…っ…あ…しいッ///」
「ハァッ……早く言えよっ…このままじゃここで出しちまうぞっ…」
「ヤッ!…違っ…///グッ」
私にだってわかる。
彼の限界が近づいている事。
そして私だって…
「…嫌っ///」
「はぁっ?」
「指じゃっ…嫌…///お願いっ…」
「……っ…」
「欲しい…のっ…」
ようやく頬を赤らめておねだりをしてきた。
すげぇ、良い女。
この姿を見て我慢出来る男なんて、世の中にはいないだろ。
「わぁーったよ…」
「ハァックッ!煤v
再び彼が私の中へ入ってくる。
まだ貴方との行為は慣れていないのに、こんなに奥まで。
それでも
「アッ!アッ!…気持ちっ…頂戴っ////…もっとッ!」
腰を振る度に奥まで突かれて、悶えて肩を強く掴む。
されるがままは嫌なはずなのに、体が受け身になって言う事を聞いてくれない。
経験した事がない快楽。
頭がおかしくなりそう。
前の彼とだって、こんなに気持ちが良いと感じた事はなかった。
それはきっと、今までにこんなに好きだと思える相手に出会えなかったから。
私はナイジェルが好き。
彼が愛して欲しくてたまらない。
「ハァッ…クッ!…お前の中ッ…気持ち良すぎだろ…ッ…アッ!」
「ファッ!アッ!…激ッ…////…あ、ナイッ!///」
早くなるリズムと音。
熱くなった彼が邪魔な毛布を捲り捨て、彼女の両足を持ち上げる。
天井へ向けた足が揺れ、ギシギシとベッドが音を立てる。
独特の香りに頭がクラクラする。
攻める度に見せるお互いの官能的な表情がたまらない。
「ナイッ…ッちゃう///」
「アァッ!いいぜッ…いつでもっ…俺も…っ…グッ」
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