……………


「お邪魔します」


10分後、裏口へ迎えに来てくれたバレルに案内され室内へ入ったローラ。

ここが店員さん達がいつも休憩をしているお部屋らしい。

大きな四角のテーブルにパイプ椅子が並んでいる。

ティーセットやテーブルの上にはお菓子の入っているかごもあった。

言っていた通り、これからの休憩時間は彼ひとりだけみたいで他の店員は見当たらない。


「へぇ、店員さんっていつもこんな所で休憩してるんですね」

「……。」

「バレルさんはこの椅子に座って毎回ボーっとしてるんですか?」

「うるせ」

「このお菓子もきっとひとりで全部食べてるんでしょうね」

「……。」


あ。ぷいと視線を逸らした。図星だったのかな。

彼女は独り言を漏らしながら、あちらこちらを見て回る。

何気なく壁に貼っている紙を見てみた。


「これはシフト表ってやつですね。バレルさんの色、随分たくさんありますけど…いつもこんな遅くまで働いてるんですか?」

「……。」

「あれ?こっちの部屋は…」

「そっちは入んな」

「え?」

「オヤ…店長の部屋」


「………。」

今、親父って言いかけたよね。

ま、いいか。










ガチャン










「あ」


次に彼に案内された部屋。

その部屋には見覚えがあった。


「ここって、前にバレルさんとお話をした場所ですよね?」

「…あぁ」



電気がついていない外の光が入る薄暗いロッカールーム。

以前、彼女は業務中のバレルにこの場所へ突然電話で呼び出された事がある。

あのフィリップ・ゲイスの事件。

ローラの脳内に当時の記憶が蘇ってきていた。



「あの時は驚きましたよ。急に貴方にロッカーに入れられて」

「………。」

「確かここだったかな?」


当時の状況を思い出しながら、自分が閉じ込められたロッカーを開けてみる。

今は誰も使用していないのか、一本だけ箒が入っているだけで、中はほとんど空の状態。



「あの時の私は…不安でいっぱいでした。怖くて他に何も考えられないくらい。
何も話してくれなかったバレルさんに対しても悲しい気持ちでいっぱいで…

正直もう、どうしたらいいのかわかりませんでした」


ゆっくりと閉めると若干錆びているのか、ギギギと高い音が鳴る。

ガチャンと扉を閉め、背を向けていた彼の方向を向いた。


「でもあれもこれも全部、私をあの悪い人から守ろうとしてやってくれたんですよね」

「………。」

「あの時のバレルさん、格好良くて王子様みたいでした」

「馬鹿か…」


アホらしと言いたい顔をされるも、今の私には彼が照れているとすぐにわかった。

もう、あの日のバレルさんとは違う。


「フフッ。王子様って柄じゃないですもんね。完全に悪人顔ですし」


普段の反撃のつもりで言ってやると、眉をひそめてしかめっ面になる。

顔の半分に影が落ち、目が完全に睨み付けモード。

今まさにその顔が『悪人面』ですよ。



「…うぜぇ」

「いつものお返しです」

「………。」



じっと目を見て黙ってしまった彼。

表情は悪人面のまま。

あれ?もしかして怒らせてしまったのかな。


「バレルさん…あの……ッ…」


前に一歩踏み出されたと同時に彼女は後ろへ一歩下がる。

もう一歩下がると、背中とロッカーが重なってしまった。


…ッ……え…あの……その顔っ…


「バレルさん…?あの…ちょっと待っ…ンッ!」


顔が近づいてきて、案の定。

キスをされたと同時に驚いて肩がビクンと跳ね上がる。


「ンハッ…ちょ、ちょっと!////ここ職場ですよ!?」

「…あぁ?」

「誰か来たらどうするんですか!?」

「俺ひとりだって、何度も同じ事言わせんじゃねーよ」


再びロッカーに押し付けられて、屈んだ彼にキスをされる。

冗談じゃない。

絶対に人が来ないなんて保証はどこにも…



「クチュッ…チュッ」

「んんぅ…チュッ…んは…///」


いつもみたいに舌を入れられ、ふいに気持ち良いと感じてしまう。

誰か来ちゃうかもしれないのに。

ダメ、こんな所じゃ…


「怒らせたのなら…ごめんなさいっ…。もうからかったりしませんから」

「……は?」

「は?って…」

「今ので俺がんな事してると思ってんのか?」

「違うんですか?」



無表情のまま、可愛らしい顔を片手でムギュッと掴む。


「んぎゅっ」

「テメーな…。ここに来られる度、どれだけ俺が仕事に集中出来ねーかわかってんのか」

「ふぇ?…ご、ごめんなひゃい…別に邪魔をするつもりで来ているわけしゃ」

「そーいう意味じゃねぇ」

「…っ」


バッと荒々しく手を離し、口を耳元に近づける。



「欲しくなんだよ。意味わかんだろ?」

「………ッ…////」


あの横暴なバレルとは思えない甘い言葉。

じわり浸透するように台詞が耳に広がり、途端に腕に鳥肌が立ってしまう。



「責任取れよ。休憩時間が終わるまで」

「えっ…バレルさん……ちょっと待っ…!///」


ロッカーに押し付けられたまま抱き締められ、

スカートを捲り太ももを触られる。


「ま…待ってくださいってば!ダメです!」

「黙れ」

「違っ…///そう…じゃなくて!今日はダメなんです!」



その言葉にようやく手を止め、横目だけで彼女の顔を見る。


「………。」

「バレルさん…///えっと……あの…」



口に出すのが恥ずかしいけど…今日はそういう事をやってはいけない日。

どう説明すればいいのかわからずに、口をもごもご動かしていると


「…なら先に言え」

「っ…」


彼も理解してくれたようで、ようやく体を解放された。


「ごめん…なさい…」

「仕方ねーだろ」

「それに…バレルさんの制服…汚れちゃうと困りますし」

「…………。」


黙ったままの彼。

目が合うと恥ずかしくなり視線を外へ向けてしまう。

この日はなるべく彼のお家には行かないようにしていたが、まさかこんな場所でしようとするなんて思っていなかったから。


「あ…あの…///…じゃ…あ…私、お仕事の邪魔になるので」


とりあえずバレルさんの傍から離れよう。

バッグを取って、後は宣言通り…彼の仕事の邪魔になるだけだから…


ガッ!

「…っ!」


離れようとすると、すぐに片腕を掴まれてしまった。

「帰れると思ってんのか?」

「えっ…だって…」

「休憩時間終わるまで責任取れっつっただろ」

「バレルさん?な…に………ッ…////!」


彼はその場で自らの制服のベルトを外し始める。



「…あ…の……///」

「前にもやらせただろ」

「…えっ…でも……こんな所じゃ…///」

「誰も来ねーっつったろうが」








それは先月のお休み。

彼の家に泊まらせてもらった日の出来事。

ご飯を一緒に食べたりお話をしたり、それから抱き締められて何度か愛し合って。

そんな最中、それを突然この人に要求された。





「口でしろ」






その言葉には「はぁッ!?」と、どちらが不良かわからないような声で返してしまった程だ。

やっと目で見られるのが精一杯になってきたという所なのに、口に入れろだなんて言語道断。

何度も全力で拒否し首を横に振り、枕を投げつけて顔をぶん殴って足でみぞおちを蹴って…(我ながら酷い事をしたと思っている)

しかし最後には彼が「嫌なら俺からする」とトンデモ発言。

そんなの更に有り得ない。

それなら自分がした方がマシだと思い、仕方なく首を縦に振った。





あの日の記憶が鮮明に蘇ってくる。

それと同時に恥ずかしさで脳が溶けてしまいそうだ。

だってあの時…




「バレル…さん…あの…やっぱりしなきゃダメなんですか?」

「…………。」

「わ…わかりました…」



お付き合いを始めてからは、彼のお家以外ではキスさえされた事なかったのに…

この人はスイッチが入ってしまうと止まらないというか。

男の人だから仕方がない。

安易に職場へ来てしまったのが間違いだった。


もう私が悪いんだ…

自らの罪を認める。


ゆっくりとスカートを畳んでしゃがみ込み、まだ恥ずかしいのか目を逸らして手を伸ばす。

何度やっても行為にあまり慣れない彼女。

そこに更に惹かれている事に自身は気づいていない。



「誰も来ねーよ」

「そういう問題ではありません///」


言葉を交わしながら、ローラはひとつ小さな息を吐いた。







「んっ…////…ふ…」


口に含むと改めて実感出来る

男性の体。

…大きくて息が出来なくなりそう。


以前言われたように舌を動かして刺激すると、彼もそれに反応してしまう。

気持ちが良いと感じてくれている。

その証拠に徐々に荒くなる彼の息遣いが微かに聞こえた。

私しか聞く事が出来ない…バレルさんの特別な声。



「ンッ!…クチュックチュッ///…んあっ…ンッ///」

「ハァッ…クッ…ハァッ…ぁ…」



口の中で感じる官能的な熱。

最初は人が来ないか気になって仕方がなかったはずなのに、徐々にその感情は変わっていく。


そう…確かあの日も。





「ンッ////…ふ…!」


クチュッ!クチュッ!


「んはっ…///…んっ!」



頭に温かい何かが重なっている。

彼の手だ。


「ンッ///ふ…バレッ…///…んぅ」

「ハァッ…ふざけんな…。なんだその顔は…」


見上げた顔に、色っぽい声。

バレルさん…私も…頭がおかしくなってしまいそう。

凄くエッチな音。声。

自分を抑えられず、我慢が出来なくて夢中で繰り返してしまう。




あの日と全く同じ。

あの日だって最初は「無理」の一点張りだったはずなのに。


いざ彼と繋がると、私も抜け出せなくなってしまう。

私しか知らない、バレルさんの味。




グチュッ!グチュッ!



薄暗いロッカールームから聞こえる小さな音。

そして女性の抑えた声。

彼も自ら腰を動かし、ローラもしゃがんだまま口を離せない。

もう人が来るかどうかなんて気にしてられない程、気持ちが良くなってしまっている。


「ンッ///…ふ!んぅっ、んぅっ…」

「ッ…はぁ…制服汚すなよ…」


これは遠回しに「全部飲め」という指示。

限界が近づいている証拠。

もう感覚でわかる。

ますますお互いを刺激し合い、そして…


「んっ!!んぅぅぅ////」

「グッ…!」



ギュッと強く衣服を握りしめる。

喉を鳴らす音で、全て飲み干した事がわかった。


「はぁっ…はぁ…」

「ンハッ…///あっ…はぁ…」


ようやく口を離す事を許され、頭から手が離れる。

口から糸を引き、まだこんなにも熱い。

目の前に映ったソレは、入れる前より大きく感じて、背中がゾクゾクとして。

更に鳥肌が立ってしまった。




「はぁっ…ぁ…はぁっ…///」


彼女はふらつきながら立ち上がる。

慣れない行為を精一杯して、限界のはずなのに…


「…ンッ…フッ///」


お互い引き寄せ合うように唇を重ねる。

背中に腕を回し長いディープキスをしてしまう。

体を強く締め付けられ、角度を変えて何度も夢中で。

お互い「好き」の感情がおさまらない。


次にここを訪れる時は、彼とこんな事をするなんて最初は想像もしていなかった。

誰が来るかもわからない、貴方の職場。


最中に上着のリボンを外され、ブラウスの二つ目のボタンまで外される。


「バレッ…あっ///」


首筋に顔を埋められ、生温かい感覚が。

彼の舌が肌に触れ吸い付かれる度に、体が嫌らしく反応して抑えていた声が漏れてしまう。


「チュパッ!クチュッ…クチュッ」

「ふぁっ…アッ///…ん…んぅ!」


鎖骨の下に紅い跡を残され、彼はそっと唇を離した。

すっかり息が上がり、頬がピンクに染まった小さな顔。

お互い近い距離で見つめ合う中で、微かな声でローラは囁いた。


「今日…お家で待ってますから…」

「………。」

「終わったら早く帰って来てください」

「…あぁ」









「オイ!バレル、いつまで休憩してんだ!」


最後にキスをしようとバレルが屈んだ瞬間、唇が触れる前にホールから声が聞こえた。


「…チッ」


タイミングの悪い呼び出しに眉間にシワを寄せて舌打ち。

これは本当にイラッとした時にやる舌打ちだ。

仕方なく「お預け」という形で今回はローラの体を放した。


年配のおじさんの声だ。

あの店長さんかな?


彼はチャックを閉めベルトを装着し直し、しわくちゃになってしまった乱れた制服を整える。

これで普段通りのウェイター姿にやっと戻ってくれた。



「フフッ。お仕事、頑張ってください」

「………。」


彼は軽くこちらを見て、不快そうなため息の後に

「痛っ!」

私の頬を軽くつねってホールへ戻って行ってしまった。


これも「仕返し」のつもりだろうか。

全然怖くない。




ローラは同じように乱された服装を整え、休憩室に置いたままにしていたバッグを手に取る。


帰る前に何気なく自分の唇をなぞった。

まだ唇や口の中にねっとりとした舌触りが残っている。



こんな目に遭って最初は散々後悔したけれど、私はやっぱり今後もこのお店に通ってしまうと思う。


まだ胸が激しく高鳴っている。

こんな場所であんな嫌らしい事をして、気持ち良くなってしまう私は…

バレルさんよりエッチなのかもしれない。


「どうしよう。早く夜にならないかな…///」


私は彼から貰った合い鍵を握って、その場を立ち去った。




fin


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