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彼との初めてのお泊りでのデート。


途中までは本当に夢のような時間だった。

一緒に食べるお弁当。

一緒に見るテレビ。

あんな遅い時間まで同じ部屋で2人で過ごして。


そして彼は、僕とそれ以上の関係になりたいと望んでくれた。

嬉しい。

僕もそうなりたいと願い、僕達は同じベッドに入った。






それなのに…





「今日はここまでにしましょ」




彼は途中で行為をやめてしまった。


僕はあの時痛みに耐える事に必死で、自分の事しか考えてなかった。


日晴君が全部リードしてくれたのに、僕は全部任せっぱなし。


彼を喜ばせる事もしていなければ、声を堪えてじっとしていたなんて、日晴君も萎えるに決まっている。


そして改めて思ったのかもしれない。


僕は男性が喜ぶような、女性の体じゃない。


あんなに近くにいた日晴君が一気に遠くへ行ってしまった気がした。


このまま…お別れになってしまったらどうしよう。

そんな事考えたくもなかったけど、最悪の展開がグルグル頭を回る。


「りんちゃん?りん!!」

「…ッ!」



ふと顔を上げると、目の前に見知った顔があった。


「りんちゃん、大丈夫?顔色悪そうだっち」


ショートヘアの目の大きな女の子。

諸星万里ちゃん。

僕の住む快晴村での一番の親友だ。

幼い頃、男なのに女の格好をして周りから偏見の目で見られていた中、何の壁も作らずに接してくれた初めての友達。

幼馴染というのか親友というのか。

そんな彼女が心配そうに僕の顔を覗いていた。


「い…いや、なんでもないよ」

「あ!それ何かあった時の返事だっち!嘘ついてるね、りんちゃん!」

「…っ」



放課後のチャイムが鳴り響いている。

周りは生徒たちが騒がしく、なんとなく落ち着かない。



「もしかして…例の彼の事??」

「えっ…///あっちょ、万里ちゃん、ここではそれは…!」

「やっぱりそうなんだっちね!?もしかして暴力男だった!?話聞くから、とりあえず屋上行こ!」

「っ…」


実は僕は日晴君と付き合う前から、彼の存在は彼女にだけは話していた。

なんでも話せる友人。

口は軽そうだけど、万里ちゃんは絶対に2人の秘密は誰にも話さない事は知っていたから。


そしてお付き合いが出来るようになった今、彼女は自分の事のように喜んでくれていたけど…


カタッ

カタッ


階段を上がると、騒がしかった声が徐々に聞こえなくなってくる。


2人で話す時、いつも僕達は屋上に向かうのだ。



「で…何があったの!?」

「……///」


改めて聞かれても、事が事だし万里ちゃんには言いづらい。

でも…彼女にも彼氏がいるわけで…。

こういう話が、きっとわからないわけではないし…


そもそもこんな事、親にもバイト先の人にも話せるわけがない。



僕は顔を真っ赤にしながら、先日の出来事を話した。

あまりにもリアルな部分はオブラートに包みながらだけど…


そして話を聞き終わった彼女は少し考えた後、ようやく口を開いた。


「それは別れるべきだっち!」

「えっ……ぇっ…」

「なーんて……っ!?!?りんちゃん泣いてる!?ちょ待っ!冗談だって!!」


予想外の反応に彼女は思わず肩を揺すってくる。


「っ…ごめん…。僕…頭真っ白になっちゃって」

「いや、まさか泣いちゃうなんて思ってなくて。変な事言ってごめんっち」


万里ちゃんとは長い付き合い。

彼女の表情、声のトーンでいつもなら冗談だってすぐわかるはずだったのに。

何故か自分でもビックリする反応をしてしまった。


「それにしても、りんちゃんは日晴君が本当に好きなんだっちね。まさか涙を流してもらえるなんて、彼は幸せ者だよ〜」

「う…うん。日晴君の事は…本当に好きなの」


僕がぽつりと呟いて、万里ちゃんはふとこちらを見る。


「大好きで…心から好きだと思える存在なの。
日晴君が、男である僕を受け入れてくれた時は嬉しすぎて…こんなに幸せで罰が当たるんじゃないかと思ったくらい」

「りんちゃん…」


「でも、そこで終わっておけばよかったのかもって…。
日晴君に求められて、舞い上がって…どんどん強欲になる自分がいて…
ふと…彼に拒絶されてしまったかもしれないと気づいた時には、体に高い所から突き落とされたような痛みが走った…

やっぱり…日晴君も男の子なんだから、相手はちゃんとした女性がいいのかもって…。僕が…全部彼に任せてばかりで…彼の気持ち全然考えてなくて」

「………。」

「凄く…後悔してる」



秋の風が冷たくなってきた屋上の空気。

僕は言葉を紡ぐ度に…だんだんとそのトーンは小さくなっていった。


「今日はここまでって、言われたんだっけ?」

「う…うん…」

「それから連絡は?」

「何も…来てない。お店にも全然来なくなっちゃったし…」


んー……と空を見上げて考える彼女。

そしてぽつりと僕にその言葉を投げかけた。


「日晴君さ…そんな事で嫌いになるかなぁ?」

「え?」


「だってさ、うち出会った当時からの状況聞かせてもらったじゃん?実際はテレビでしか見た事ないけど、りんちゃんにゾッコンって感じだったし」

「そう…かな」

「じゃなかったら有名人でスクープでもされたら困る人が、リスク背負ってしょっちゅう店の傍で待ってたりしないっしょ?」


それは…そうだけど…。


「その、今日はここまでってセリフも別に拒絶の意味じゃないと思うっちよ。例えば…その…

初めてのりんちゃんの体に負担をかけたくなかったとか」

「……っ」


ふと伏せていた目を開ける。


「テレビで見る感じ、派手に見えるけど日晴君根は良い人そうだし。まぁ、ウチは会った事ないっちけどね」

「万里ちゃん…」

「一度ちゃんと会って話してみなよ。
それで本当にりんちゃんに冷めたとか言いやがったら…

ウチがこの高校の男子全員にそれを言いふらす!我が校のマドンナを泣かせたと知られれば…アイツにもう明日はないっち」


意地悪そうに笑う万里ちゃん。

これは本当に冗談を言う時の顔だ。

その言葉に僕の顔にもようやく笑みがこぼれた。


「ははっ。マドンナって…僕男だよ?」

「ったくコレだよ…。本人は自覚ないのね〜…」


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