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来て欲しいような、欲しくないような。


いや、正直言うと怖くて来て欲しくなかった金曜日。


今日僕は学校の授業が終わったら、再び日晴君の家に向かう。


そこで、もしかすると



別れを告げられるかもしれない。



日晴君は芸能人の男の子。

当たり前だけど、女の子にモテるに違いない。

芸能関係の綺麗なモデルや女優さんとだって、きっと接触する機会はある。


そして先日見せてしまった、男の僕の体。


見せてしまった態度。



フラれてしまう可能性の方が高い…


そんな事ばかり考えていると、勉強に身が入るはずなんてなくて。


手元にあるノートも頭の中もまっ白。



万里ちゃんにも言われたんだ。

勇気を出してちゃんと話さないと…



時計の針は残酷にも止まってくれる事はなく、授業も終わり。


今日は好都合なのかバイトも休みの日。

好都合…なのだろうか…


どうしよう、急遽バイトが入った事にしようかな。


日晴君の家に行くのが怖い。








悩んでいたら、いつの間にか外は暗くなってしまっていた。


ついに日晴君の住むマンションの下まで来てしまったけど…


スマホを確認してみても、何も連絡は来ていない。

普段の日晴君なら心配して必ず連絡をくれるはずなのに…


その不安もあって、なかなか足を踏み出せなかったけど。


ゴクリ


やっとスマホに文字を打ち始める。


『遅くなってごめんね。今マンションに着いたよ』



この文章を送るだけでも、こんなに緊張してしまうなんて



そう…し…



「りんちゃん!」


「っ!」


ボタンを押そうとした瞬間、名前を呼ばれて前を見るとマンションの入口に日晴君が立っていた。


「ご、ごめん…。来ないかと思って不安になったから下に降りてきたら…姿が見えたから」

「…っ。う…ん、遅れて…ごめんね」

「大丈夫っす。さ、早く中に入って」



こんな所を誰かに見られでもしたらマズイ。

僕は日晴君に手を引かれて、ようやくマンションの中に足を踏み入れた。



先日と同じエレベーターのボタン、先日と同じ部屋番号。


そして



先日と同じように、僕の働いてる店の花が部屋に飾られている。

先日と同じ流れなのに何故か空気が重いのは


日晴君が一言も喋ってくれなかったから。


僕ももちろん何も言えるはずがない。



だって

今から僕は…



彼に別れを告げられてしまうかもしれないから。



「………。」


「………。」




気まずい。

そして怖い…



もうこうなったらいっそ…


僕から言ってあげた方がいいの…だろうか。



だって全ては…全部相手任せにしてしまった僕に責任がある。


最後くらい…僕が…日晴君のために…




目の前の大きな背中を見ていると足が震える。


勇気を出せ…僕…。


本当に…日晴君の事が好きなら…


最後くらい、役に立っ…






「ごめんなさい!!!!!!」





「…………っ…」





日晴君は、ついにその言葉を僕に言った。



ついに言われてしまった。



覚悟は……してた。



もう、ダメなんだと頭ではわかっていた。



それっ…なのに………




「僕の身勝手でりんちゃんを傷つけて、泣かせてしまった事……本当に申し訳なかったっす!!」



そんな……


謝らないで…


僕…そんな事言われ…




「………へ?」



何かの矛盾に気づいて、脳が停止する。



…泣かせて?



僕…




日晴君の前で泣いたっけ…?



「えっ…?」


「ん??」


「あ、えっと…日晴君に告白された…花屋さんでのあの時?」


「……はい?花屋??」



話が噛み合わない。


お互い何を言っているのかわからなくてぽかんとする。


訳がわからない彼が、もう一度口を開いた。


「いやっその…先週の話っすよ…?りんちゃんがここに泊まりに来た時の」


「先週…?僕、泣いてなんか…ない…けど…」


「え、自覚なかったんすか??めっちゃ泣いてたじゃないっすか」



頭の中が混乱する。


僕、いつ泣いたの?


「や、だから…その………。俺と…してる時っ……つーか…///」



「………。」





「僕、泣いてたの!?!?」


やっと意味がわかって、顔がぶわぁぁっ!とわかりやすく赤くなってしまった。


「は、はい…」


「じゃぁ、日晴君は僕にお別れの話をするために呼んだんじゃないの?」


「えっ、何を言ってるんすか!そんな事あるわけないでしょ!」



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