Third

いつも通りの昼下がり、今日もまた見廻りをサボりながら団子屋でぼーっと行き交う人々を眺めていた。すると、あ、と聞き覚えのある声が聞こえてその方向をちらりと見ると、棗が立っていた。
艶やかな黒髪を綺麗に結ってピシッとしたスーツを着ている。

あぁ、初めて会った時もこんな格好してたっけな。

いかにも大人な女性といった風の棗はひさしぶりに見た気がする。
こうしていると、確かに俺みたいなガキより土方の方がずっとお似合いな気さえしてくる。

「またさぼってんの?」

棗は笑いながら俺の隣に腰掛けて、団子を1つ注文した。
どうやら少し居座る気らしい。

「それを言うなら、あんたもサボってますぜ。」

「あたしは休憩中ですー。いつもこんなことしてる沖田くんとは違うんですー。」

「・・・えらい上から目線ですねィ」

「いや、別にそんなことは、」

「うるせェ。鳴かせやすぜ。」

「人の話を聞いて!っていうか、昼間っから何言ってんの、あんた!なかせる、の字が違うでしょう!」

「細けェことをぐちぐちグチグチ。あーうるせェ女。夜だけにしときなせェ。」

「ちょくちょく下ネタ挟むのやめてくれる?!しかも結構ディープ!」

「なに?ディープなのしたい?うっわぁ、マジで引くわー。」

「誰も言ってないでしょうが!標準語やめて!なんか倍傷つく!」


棗は確かもう20歳を超えている大人のくせに、ガキみたいな言い合いを続けていると、俺見ていた棗の瞳がちらりと俺の後ろに視線を投げた。
すると、棗の顔はサッと驚いたような表情に変わる。

一体何でィ。

俺もつられるようにして後ろを振り向くと、タバコをふかしながら歩く土方の姿があった。

・・・あー、そういうことかい。

しかし、土方と棗の面識はないはず。というより、土方は棗の顔を知らないはずだ。
俺が再び棗の方を見ると、すでに棗はいなくなっていた。

「おい、総悟。てめぇまた見廻りサボってやがんのか!」

「見廻りだけが市民を守ることにはなりやせんぜ、土方さん。俺もちゃーんと仕事してまさァ。」

「あぁ?団子屋で団子食う仕事なんかあるか!」

「違いやす。さっきまで相談受けてたんですよ。」

「・・・相談?」

土方は訝しそうに眉をひそめて俺を睨みつける。

「あんたに手紙を送り続けてる、バカな女にでさァ。さっきまでここにいたんですがねィ、あんたが来たから逃げちまった。
あーあーモテる男はつれェなぁ。」

わざとらしく大きく肩を下げると、土方は居心地悪そうに頭を掻いた。

「あー、あのな、」

「20歳過ぎてんのに俺よりガキっぽいやつですぜ。まぁあんたがロリコンかどうかは知りやせんから、なんとも言えやせんがね。・・・土方がロリコンとか、うぅぇ気持ち悪ィ。」

「言ってねェよ!」

土方は大きく溜息をついて、再びバツが悪そうに頭を掻く。

「・・・あのな、総悟。1つ言っておく。」

「あの女と付き合う気はねェ、ですか?」

「いいや、そうじゃない。手紙を見る限り、あの女はれっきとした大人だ。そして、大人っつーのは大抵世の中のことをある程度分かってるんだ。1つのものを得るためにゃ、他のもんを捨てなきゃなんねぇっつーことを分かってる。」

「・・・なんの話してんでィ。」

「俺はあの女のやり方に賛同はできねぇが、分かんねぇこともねぇ。総悟お前は、」

「知ったような口きいてんじゃねぇよ。」

俺が土方の言葉を遮ると土方は何故か少し驚いたように押し黙った。

「顔も見たことねぇくせしやがって。手紙ごときであいつの何が分かるんでィ。これ以上説教はごめんだ。答え出さねぇであやふやにしてるあんたにゃ、あいつの事で説教はされたくねぇや。」

俺は隊服のポケットから小銭を取り出し、団子の皿の隣に置くと、立ち上がってその場を離れた。








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