Fourth

それから何1つ変化のないまま数日が過ぎた。
ついこの間も、棗からの手紙を土方に渡したばかりで、俺は特に何も考えず、ふらりと棗の家に立ち寄った。
インターホンは鳴らさずドアノブをひねってみると、無用心にもドアは開いた。

女一人で住んでるつーのに、セキュリティのかけらもねぇな。

俺はそのまま中へ入って靴を脱ぎ、リビングの方へ向かった。

あー、今日も寝過ぎて疲れちまった。夜はちゃんと寝ねぇとなぁ。

欠伸をしながらリビングへ入り、目に飛び込んできたのは黒い髪の棗の後ろ姿。



そして、やはり黒い髪をした、土方の横顔。



「・・・!総悟・・・!」

俺に気づいた土方が、目を見開いて俺の名前を呼んだ。
すると、棗がもの凄い勢いで俺の方を振り向く。
その棗の顔は驚きと焦りが入り混じったような顔をしていた。

頭の中では妙に冷静で、あぁこれが修羅場か、なんてことを考えていた。

「・・・お、おきた、くん・・・。」

棗は震える声で俺の名前を呼ぶ。

何、どうしたらいいか分んねぇって顔してんでィ。それはこっちの方じゃねぇかよ。

「・・・あー、すいやせん。俺は帰るんで後は勝手に仲良くやって下せェ。」

くるりと回れ右をして玄関の方へ向かうと、後ろから走る音がして近づいてくると思ったら俺の腕を掴んだ。

「お、沖田くん、待って!」

腕を両手で引っ張られたもんだから、耐えきれずに後ろへ少したたらを踏んだ。
棗の予想外の行動に驚いて後ろを振り返ると、棗のすぐ後ろには土方も立っていた。
棗と土方の並ぶ姿を見て、一気に気分が下がるのが分かった。

「・・・離せ。」

下がりきった気分のままに声を発すると、驚くほど低い声が出る。俺の声に棗の肩がビクリと揺れた。

「あんたらがくっついたなら、俺の用は無くなりやした。これで面倒が減ってせいせいすらァ。」

俺は棗の手を力づくで振りはらい、再び玄関へと進む。

「面倒が減ったくせに随分機嫌が悪りぃな。」

「・・・何言ってんでィ。これでも上機嫌ですぜ。」

「だから、そうは見えねぇっつってんだよ。」

いつの間にか土方は俺の前に出てきていて、先にドアノブを握った。

「なんであんたが帰ろうとしてんですかィ?」

「そりゃあ、俺はもう関係ねぇからさ。」

そう言い残すと、土方はすぐにドアから出て行った。

重い空気が狭い空間に漂う。
俺はよく状況が飲み込めないまま、そこに立っていた。
その空間を先に破ったのは棗の方で。

「・・・お、きたくん。」

「・・・こりゃ、どういうことでィ。」

「土方さんとはね、なんもなくって。あの、その、」

「なんもあるもねぇもないだろ。てめぇはやつに惚れてんだろうが。なに引き止めもせずに帰してやがんだ。」

・・・なんで、俺の方を引き止めたんでィ。
まるで土方より、俺の方に惚れてるみたいじゃねぇか。

「・・・ごめん。」

「は?」

棗は小さな声でポツリと呟いた。

「あたし、ずっと沖田くんに嘘ついてた。」

「・・・。」

「ほんとは土方さんに送ってた手紙、何にも書いてなかったんだ。」

「・・・はぁ?なに言ってんだてめぇ。」

「書いてあったのは一通目だけ。




‘私は沖田総悟さんが好きです。だから、なにも言わず手紙を受け取り続けて下さい’




そう、書いただけ。」

俺はゆっくりと、後ろにいる棗を振り返った。棗も俺が振り返るのと同時にゆっくりと顔を上げる。

「私がずっと好きだったのは、沖田くん、君なんだよ。」






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