アイアンブルーレイニーデイ






雨の日は一段と気分が下がる様な気がしてならない。

舞尋は連日続く雨で憂鬱な気分になっているのに対し、沖矢はソファーに座って黙々と読書をしていた。

眠ろうにも今日は多く寝てしまったためにうまく眠れず、どうしようかと うんうん唸り始める。

しかし思いついたように勢いよく立ち上がると、慌ただしい様子でリビングを出ていった。

どうしたのかと沖矢は読書を中断すると、リビングの出入り口からひょっこりと舞尋が顔を出した。

「おや、出かけるんですか?」

猫耳がついたレインポンチョを着た舞尋を見て、沖矢はそう訊ねる。

『退屈だしお腹すいたから、トオルのところ行ってくる!』

スバルは読書にお熱だから つまんない!と言い残し、舞尋は工藤邸を出ていった。

残された沖矢は読書に集中していたとはいえ舞尋をそのまま放っておいてしまった自分に苦笑するが、彼のところに行くなら特に何も起こらないだろうと判断し 読みかけの本に視線を戻した。





降りしきる雨は、止む気配を見せずに降り続いている。

そのことを不満げに思いながら、早く止まないかなと思っていると 行く先が妙に騒がしいことに気づいた。

首を傾げながらそちらに向かっていると、前方から走ってきた人物にぶつかった。

倒れそうになるのを何とか踏みとどまるが、ぶつかった人物の方は謝罪もなくそのまま走り去っていった。

態度が悪いなと怒りが湧いたが、微かに残っていた匂いに舞尋は眉を顰めた。

嗅ぎなれてしまったしまっているその匂いは銃を撃った後に出る硝煙の匂いだ。

どうしてと思っていると、今度はコナンが後ろから走ってくるのが見えた。

「舞尋さん!」

『コナン! どうしたの?』

「人が撃たれたんだ! こっちに犯人らしきやつが来なかった!?」

『………さっき その犯人にぶつかったけど、もう見失っちゃったよ……』

眉を下げた舞尋が謝りながらそう言うと、悔しそうな表情をしたが謝ることはないと言ってくれた。

一旦現場に戻ろうと、二人は人が撃たれたという現場に戻った。

コナンは電話BOXの側に倒れている男に駆け寄ると、必死に彼に呼びかける。

「しっかりして、おじさん! 誰に撃たれたの!?」

男は苦しみながらも、左胸を弱弱しく掴んだ。

それから何かを伝えようとするも、力尽いて息絶えてしまった。

『………?』

「……なんだ………?」

その行動に眉間に皺を寄せていると、一緒にその現場を目撃したらしい少年探偵団の三人も追いついてきた。

彼らは亡くなった男を見て、驚きに顔を歪めた。

その様子におかしいと気づいたらしく、周囲には人だかりができ始めた。





現職の警察官が殺された。

その日のうちに事件はニュースになり、現場を目撃したコナンたちと犯人と思しき人物を目撃した舞尋は、警察署にて事情聴取を受けることになった。

彼らの後ろには迎えにきた小五郎と蘭、二人についてきた安室の姿があった。

「何度もすまないが、我々にも聞かせてもらえるかな? 犯人の特徴を」

「若い男でした」

「いんや、キレーな姉ちゃんだったよな」

「違うわ、中年のおじさんよ」

「じゃあ、その人の差していた傘は?」

「黒い傘です」

「緑だよ、緑!」

「え、青だったと思うけど………」

「お前ら、本当に見たのか?」

目暮と高木の質問に三人は答えるが、どれもバラバラの証言であることに小五郎は訝しがる。

佐藤はコナンと舞尋に視線を向けた。

「コナンくんと舞尋ちゃんはどう?」

その質問にコナンは自身が見た犯人の特徴を思い出しながら答える。

「レインコートと傘は灰色っぽかったけど、男か女かは分からない。でも、傘は右手で持ってたよ」

『私もコナンと同じ。あと、ぶつかった時に硝煙の匂いがしたよ!』

「ということは、銃は左で撃ったのね」

「犯人は左利きか………」

コナンと舞尋の証言で犯人は左利きであること、舞尋が見た人物が犯人であることが分かった。

そこで小五郎が目暮に亡くなった警察官について訊ねる。

「ところで警部殿。奈良沢警部補が左胸を掴んで亡くなったことについては……」

「あぁ。彼は胸に閉まった警察手帳を示したものと、我々は解釈した。
 今、手帳に書かれているメモの内容を徹底的に調べているところだ」

そこで千葉が入ってきて、犯人が使用した銃についての報告をする。

「目暮警部、現場に落ちていた薬莢から使用された銃は9mm口径のオートマチックと分かりました」

「9mm口径か………」

「女にも扱える ありふれた銃ですね……」

「ですが、皆さんに怪我がないことが幸運でしたね」

「本当ですね。みんな巻き添えにならなくてよかったわ。コナンくんも」

安室の言葉に蘭も頷き、心配そうにコナンに声をかける。

「うん………(くそ……信号が赤にさえならなきゃ、逃がしゃしなかったのに………!)」

コナンも頷き返すが、心中では犯人を取り逃がしてしまったことを悔いていた。

その後 事情聴取が終わり、少年探偵団と蘭は小五郎の車に 舞尋とコナンは安室の車に乗って帰路についた。

「本当に怪我はないんだね、舞尋」

『ないよー』

安室も蘭と同じように心配げに舞尋に訊ねるが、舞尋は苦笑いをしてそう返す。

本当に怪我などしていないのに、なぜそうも訊ねてくるのだろうか。

「君の性格上、確実に追うだろうと思ったからね」

「そういえば………」

安室の言葉にコナンも思い返したのか、舞尋を見る。

舞尋はよく猪突猛進に動くことがあるのだ。

今回はしなかったようだが、もししていたら今頃どうなっていたかは分からない。

『………とりあえず、二人がすごい失礼なのは分かった』

「いや、そういうわけではなくてだな……」

『じょーだん! ただ、怒りよりも驚きの方が勝ってただけだから!』

それだけ!と 話を終わらせると、工藤邸に着いたのを確認して車を降りた。

「………舞尋!」

『とにかく、だいじょーぶだから! ありがとう』

舞尋は二人に軽く手を振って、工藤邸に入っていった。

玄関を通ってリビングに入ると、帰宅に気づいた沖矢が舞尋に駆け寄ってきた。

「おかえりなさい。事件に巻き込まれたと聞きましたが………」

『ただいまー! 怪我はしてないから、大丈夫!』

安室たちと同様、心配そうに聞いてきた沖矢に呆れ混じりに舞尋は答えた。

それでも頭や顔に触れて 本当に怪我がないかを確認してから、沖矢は安心したように息を吐いた。

「ちょうど夕飯が出来上がったんですが、食べますか?」

『! 食べるー! お腹ペコペコだよー!!』

沖矢の言葉に舞尋は目を輝かせる。

出かける前までは覚えていたのだが、今日は色々なことが起こって空腹であったのを忘れていたのだ。

沖矢が作った料理の匂いを嗅ぎ取った舞尋は、先程の出来事など忘れてしまったかのように夕飯の準備を手伝い始めた。

―――――その翌日、再び刑事が殺されたということがテレビのニュースで報道された。



title by.酔醒
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