明けの明星

「いま神田君が迎えにいっているから、僕らは医務室のほうにいっていようか」


君も会いたいだろう?と笑いかければ、はい!と笑顔で言われてしまい思わず頬が緩んでしまう。神田君という単語には器用に嫌そうな顔なんてして、本当に仲が悪いのだから困ったものだ。
自分はこんな子達を戦場に送っているという現実に心臓を潰されそうになってしまうような心の痛みは、最近では慣れてきてしまっていたがこういう時に、ああそれなりに疲弊していたのだなと実感もする。ほっとするような安堵に似た喜びだ。そんな場に身を置かなくてはいけない彼らでも、変わらずに優しくあり続けていてくれることが自分の助けにもなっていた。
もう医務室にいるであろう神田君と彼女、そしてラビ君を思いながら腰を上げようとしたとき、まさにその人物が此処の扉を乱暴に開いたから出鼻をくじかれたように浮かせた腰をとすんと落とした。


「コムイ、あの女……なんでいやがる」


「なんですか何か文句でもあるんですか」


「どうして君らは顔をあわせるとそう……で、どうしたんだい神田君」


間違いなく神田君はあの女、と言った。
彼女に何かあったのか、わざわざ此処まで来るとは彼らしくない。もしかしたらラビ君に言われて来たのかもしれないが、それでも少し違和感を持った。


「お前、あいつを地下牢につないだのか」


「地下牢?いや、僕が頼んだのは……監禁室、だけど…」


本当なら地下牢が妥当だったのだろうがそれは渋られた。怪我はないと報告はあったが明らかに体調のわるい顔色だったし、地下牢なんて自分が室長になってからは使おうなんて思ったことがなかったから、現状あの場所がどうなっているかわからない。
着任してすぐの頃に見にはいったが、地下水路の下にあるそこは一切の光は入らず、水路のせいか酷く寒く湿っぽく、いかにもな雰囲気があったのは覚えている。監禁室ならば常に見張りがいるため容態が悪化すればすぐにでも対処できると思ってそうしたのだがそんな場所に一時とはいえあんな子を入れておこうなんてするはずがない。


「お前に言われて監禁室にいっても、そこに入れられた形跡すらなかった」


きっとラビくんだろう、彼ならそれが分かる人だ。どういう理由で監禁室なんて以前に覗いたのかは分からないが記憶していたその場所になんの変化もなければ彼は気が付ける。そして、何故だかは全くわからないが話の流れからしてそうなのだろう。こんな時をいち早く理解できてしまう脳を恨めしくも思ってしまうがこれが自分の武器で、これだけが自分の武器だった。


「彼女は、3日も地下牢に…?」


言っていてゾッとした。どうしてそうなってしまったのだ。地下牢なんて、あの年の子が1日だって入っていたら気が可笑しくなってしまうような場所だ。それにあそこは鍵が厳重すぎるせいもあって入れられたものに食事なんて出はしない。ただ冷たい石が敷き詰められたそこは本当に何も置いておらず、眠ることすら容易にできない。そんな場所にいてどうにもならないはずがなかった。


「医務室だ」


端的に告げてそのまま出て行ってしまう神田君の後を、転ぶようにして追った。


 - return - 

投稿日:2017/0428
  更新日:2017/0428