黎明の子

それにしても中々目立つ三人だと、歳の近そうな彼らを見ながら思う。
真っ赤な髪と眼帯、真っ白な髪にオシャレなのか顔に入れ墨、あと美少女。
後者二人には見覚えがあったが真っ赤な人には見覚えがない。こんなに目立つ人であればきっとそうそう忘れないだろうし。美少女のほうはちらりとしか見た記憶がなかったのだが声はハッキリと聞き覚えがあった。
後のときの記憶も少し朧げになっていたので白い頭の彼の顔にあんな目立つ赤いものあっただろうかともやもやと考えてしまう。あの目の方が印象的すぎたしなによりあの時の体調は最悪だったのだ、記憶が飛んでいてもしょうがないと見切りをつけて考えるのをやめた。顔を拭いたことで意識も少しすっきりしたようでさっきよりもくらくらしない。それは医者が打った薬が効いてきたからなのだがそれを知る由はない。

ボンヤリと巻き直された包帯を見つめる、やっぱり緩くて少し寂しい。
これを巻いてくれた男性はしきりに小さな声で何かを言っていたが全く聞き取れなかった、しかしその手つきや声の雰囲気から落ち着かせるように、そんな空気を感じ取れた。というより小さい子供をあやす様な、そんなものだったものだったのでなんだか少しだけ毒気を抜かれてしまった。それでも、やはり状況が分からないうちは体は緊張を緩められそうになかった。


「―――、――」


「――――、−、――――」


三人で話していると思ったらまれにこちらに向いて何か言っているので私になにか話しかけてくれているのだろうが分からないものはわからない。そんなことをしばらく繰り返していたがなんの反応もなく、終始笑いかけてくれていた彼等だったが微塵も笑わない私に困った様な顔でお互いを見やっている。そんな顔されたって私だって困る。わからないし、なによりこんな状況でへらへら笑えそうにない。しかしツインテールの美少女が視線を合わせる様にして屈んで視線を合わせてくる。もう行くのだろうかと予想しジッと見つめ返す、恐らく年上だろうと勝手に思っているが知る方法も、知るつもりもそこまでなかった。


「―――」


自分を指さして、ゆっくりとなにか短い単語を一つ。
どうせ聞き取れないだろうなんて思っていたせいで聞き逃してしまい、なんのリアクションもせずにいればまた、もう一度。それが彼女の名前だと分かったのは申し訳ないことにそれから3度繰り返されてからだった。一瞬どうしようかと思案したものの一向に笑顔のままその言葉を目の前でくり返す彼女を無視することなどできそうにもなく、恐る恐るその音を舌にのせる。


「り、なりー」


「――!螢、――――リナリー」


これまたさっきの帽子の人と同じように予想以上に、あからさまに歓喜されてしまい狼狽えてしまう。少しだけ頬を高揚させて何度もうなずき、髪を揺らす。こちらに詰め寄ってこそしなかったがそれでも両手を合わせて何かを早口にいう様子は乙女そのものだ。
りなりー。恐らく性も名乗ってくれていたのだが間違えがなければリナリー・リー。中国っぽい響きだなと思えばそういえば顔立ちも東洋人の独特の空気を纏っているように思う。一言話すだけでこんなにもオーバーリアクションばかりもらっていればなんだか調子がくるってしまいそうになるが、顔の筋肉は死んだように微動だにしなかった。私はこんなにもポーカーフェイスだっただろうかと考えすぐに否と脳内で即答する。


「――!―――、−!」


次はこちらだ言わんばかりに己に指をさして笑顔で寄ってきたのは赤い髪の男だった。ベッドに腰掛けていてもかなり背が高いのが分かる。よく世話になった紅蓮の長い髪をした自称忍者の末裔な人を思い出したが、その赤よりは落ち着いた色だと思った。あの人は存在が派手だったからそう感じるだけかもしれないが。そんなことを考えていたせいで何度も名前をいわせてしまったらしく、半泣きになって名前を言っているのに気が付いた時申し訳ないが少し引いてしまった。


「…ラビ」


兎か、と思ってしまったが先輩の一人に子猫なんてついている人もいるのでありなのだろうと納得して口にする。残念ながら性は聞き取れなかった。何度か繰り返し言っている単語があったのでそれだろうが発音が難しく音にしがたい。うんうんと激しく首を縦に振って満面の笑みで目じりに涙をためる様子はとても年上には見えない、しかしこの三人の中では年長者だと、思う。
満足した様に微笑んで何か言った後、後ろを振り向く。眼帯の覆う横顔を見上げながらその視線の先を目で追う、白い髪の彼が少し離れたところに立っていた。点滴の落ちる音がぽたんと鼓膜を揺する。自分の右手の肘の内側に刺さった点滴の細い針から液体が侵入してくる、それが気持ち悪くて、でも抵抗しなかったのは多分毒ではないと直感でわかったからだ。そして気が付く、そんな些細な音すら耳が拾うほどこの場が静かになっているのだと。また私はぼんやりでもしていたのだろうかと懸念したがそうではないようで、リナリーとラビと名乗った二人も白髪の彼をジッと見つめていた。
白い髪から覗く額にみえる赤い稲妻に似た文様。よく見れば逆さの星からそれは伸びていて目の下にはその稲妻を横切るようにまた一本。逆さになった星の意味するところは悪魔だ、だからこそ召喚士が簡易に用いる円には星を使用する。あいにく私には微塵も召喚士の素質はなかったのでお世話になることはなかったが。彼は召喚士なのだろうかと思ったが額に陣を描くのはいかがなのだろうかなんてお節介にも思う。あの時感じたような、目の奥の何かは気のせいだったのかと思うほどなんの変哲もない。グレーの瞳は穏やかな色で、瞬きの度に見える赤い線が不思議だ。その表情は、うまく読めない。戸惑っているような、迷っているような困っているような。


「―――、――――」


一歩、こちらに近づいて口を開く。今度は一度で聞き取れた名は多分。


「アレン」


口にしても、彼は二人の様に笑顔になることはなかった。



 - return - 

投稿日:2017/0428
  更新日:2017/0428