星たちの群れの中

「―――、――――」


眠れなかった。
猛烈に眠たくはあったのだが、どうにも気絶していた時とは違いある程度体調がよくなったことで倶利伽羅がないことを嫌でも実感してしまい、不安や焦燥感の為か一睡もできなかったのだ。ここは窓がないのか、あまり日が昇ったという感覚がなかったのだが部屋に昨日の医者がやってきたのをきっかけに、私も体を起こした。起きていた私に一瞬少し驚いたような顔をした彼だったが、また昨日と同じように脈を取ったり点滴を確認したりと笑顔で処置を始めてくれた。包帯の下の傷は多分もう綺麗に消えているだろうから、それはなんとか身振りだけで治療を断った。治っているということを、なんだか知られてはいけないような気がしたのだ。そしてこの直感が後に正しかったのだと知るのだがそれはまだ先の話だ。そうして医者と入れ替わるように昨日のナースが部屋にやってきたので、限りなくないに等しい英語力でなんとか昨日の事を謝罪した。
酷くたどたどしい言葉だったが何度もソーリーと続けていれば伝わったのか、笑顔で何か言ってくれた。残念なことになんと言ったのかは分からなかったがふわりと暖かく笑ってくれたことにホッとさせてもらった。
そしてそれから時間が少し経った今、昨日会った確か“リナリー”という少女が笑顔で部屋に入ってきて、冒頭。流石にこれはわかる、挨拶だ。オウムの様にそれを彼女に返せば、ニッコリと笑いかけられる。寝不足のせいか眼球がほんのりと熱を持っている。それを誤魔化すように瞬きを多く繰り返しながら彼女を見れば、笑顔で手に持っていた盆を傍のテーブルに置いた。見れば湯気の立つお粥と、もう一人分の洋食の食事だった。
多分だが、お粥は私のための物だろう。もう一つの洋食のほうはきっと、ここで一緒に食べてくれるということ、なんだと思う。


「――、―――――、――」


「え、あ、…」


ベッドに腰掛けたまま食べやすいようにと、昨日の様にベッドを起こされる。それをやってくれた彼女に英語でお礼を言えば、どういたしましてと返される。さぁ冷めないうちにと言わんばかりにスプーンを渡され、小さくいただきますと呟いて、暖かいそれを口に運んだ。青菜だと思って食べたそれは独特の風味で、何度か食べたことのあるそれの名前は出てこなかったがなんだか中華っぽい味がする気がして、兄の料理を思い出した。家事を出来る人間がいなかったせいか分からないが物心ついた時にはもう兄が我が家の食事を担当していた。兄が高校に入学した時と同時に、中学を編入という形で転校し、兄二人と3人で暮らし始めてもそれは変わらなかった。昨日のスープもそうだったがここの料理もおいしい、と思う。
元々食べるのが遅いというのも相まって、普段以上に遅い食事を彼女は黙って待っていてくれた。少しすくなめに盛られていたおかげで残すことなく食べきることができ、そのことにホッとする。同時に差し出されたコップと白い紙に乗った錠剤。恐らくはナースが用意してくれていたものだろうとそれを受け取り、少し躊躇ったがそれを飲み込んだ。これで毒だったら人間不信になる自信があると思いながらも水を喉に流し込む。昨日眠れない中でずっと考えていたのだが、あんなに長い時間考えていたにも関わらず結局わかったのは、今の状況を全く把握できていないということだけだった。
ここがどこなのかも、彼らが何者なのかも。



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投稿日:2017/0428
  更新日:2017/0428