「私は行おう」、それは罪だ


ユウが任務から帰ってくるという話を聞いてすぐに俺にだけ任務が入った。ユウに聞きたいことが山ほどあったことに加え、ジジィだけは教団に残ることになったことが不満でいっぱいだった。心情をそのままに言葉にしたところ制裁をくらったのでもう同じ轍は踏まないがそれでも内心では納得していなかった。しかし他に向かえそうなエクソシストがいそうにないことも事実だった。リナリーは返ってきたばかり、アレンは違い任務を任せられるらしく俺たちの他のエクソシストはすでに出払っているためここから近い場所で報告があったそこへ向かうには俺かジジィしか向かえる人員がいなかったのだ。きっと俺の後に任務を告げられるアレンも渋るだろう。普段は任務大好き人間だが流石に今回は。
唯一言葉の壁のないユウが戻ってくるのだから多少は螢とコミュニケーションが取れると期待したのだ。勿論ユウの性格は重々承知だ、素直に通訳になるはずもないだろうがそこは上手く丸め込もうと画策していたというのに。それが無理でも日本語を多少でも教えてくれたのならば自分で話をすることが叶うのに。話せるであろうジジィに頼んでも全く受け付けてくれそうにないのでそれは早々に諦めた。ブックマンの仕事も絡んでいるのであろうことは俺でも分かるので馬鹿な事はしない。
任務に赴く前に一度件の少女に会っておこうとコムイに場所を問えば苦笑しつつも以前の医務室にいるままだと教えられた。


「そっか、つーか体調はどうなんさ、あの子」


「うーん、芳しくはない、ね」


「…まぁそうだろうな」


三日三晩飲まず食わずであんなにも寒くて暗い場所で茨の様に皮膚を切り裂く重い鎖で手足を繋がれていたのだ。手足が腐って落ちなかっただけでも相当な儲けもの、それくらいには彼女はあの時消えかけていた。それを螢を見つけた俺は重々承知していた。加えて現れた時の真っ赤な血濡れの姿。彼女自身に傷が見られなかったことから初めは返り血かとも思っていたのだがこの前会ったときにも未だに血の気の足りない顔色をしているあたり、もしや本当は彼女自身の血だったのではと思い始めている。他の奴らがどう思っているかは分からないが少なくともジジィもその可能性は考えているだろう。あの場に俺と同じく駆け付けたのだから。


「ラビ君」


「んー?」


「……いいや、気をつけていってきてね」


「?おう」


苦く笑顔を浮かべたと思ったらきちんと笑顔で送り出そうと朗らかな笑みを向けてきたコムイに首を傾げつつもよくやるなぁと思ってしまった。こういう組織のトップという奴としてコムイは恐らく向いているという訳ではない。それでもこうして己の心を捨てて隠してしまえるくらいにはこいつも覚悟があるのであろうことを知ったのはいつだったか。
足音の響く廊下を歩きながら次の任務の資料を読む。どうやら毎度のごとく出発の汽車までそこまで時間がないらしい。うん、知ってた。
案件を読むうちに成程少し面倒だなと思うもすぐに終わらせられるだろうと当たりをつける。死者が確認されていないことからAKUMAが絡んできている可能性も低い。ざっと流し読みで資料の内容を頭に入れてぱたんと閉じる。
螢のいる医務室は教団の端にひっそりと存在している。しかしながらそこを城としているドクターはかなりの腕前で、教団に長く勤めていると聞く。名前は聞いたことはないが。俺もなんどか手当てを受けたことがあり確かに相当手際はよかったと記憶している。そのドクターが付いていてなお、芳しくないという結果なのだからもしかしたら俺が思っていた以上に彼女は悪かったのかもしれない。それこそあんなに下手くそな笑顔をコムイが浮かべてしまうくらいには。


「おっはよーさー!ってあれ、リナリー来てたんか」


「おはようラビ」


既に螢のベッドの横の椅子に座っているリナリーにあぁまた朝飯を一緒に食べたのかとテーブルに置かれている空の食器を認めてそう確信する。食器の底に少し残っているそれは液体上で、やはり固体のものはまだ早いかと相変わらず青白い顔を見て思う。しかし二つある皿の底の両方が同じものが残っていて、もしやリナリーも合わせたのかと察する。


「螢もおはようさー」


首を小さく会釈させた螢に笑みを向けてどことなく以前よりも雰囲気が柔らかくなったような気がして、リナリーのお陰だろうかと彼女を見れば嬉しそうにニコニコとしているだけでその笑みから情報を得ることは流石の俺でも出来そうになかった。




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投稿日:2017/0502
  更新日:2017/0502