「私は行おう」、それは罪だ
いってきますと出ていったアレン君の背を見送って、そっと息を吐いた。よかった、リナリーはあの異例のことは流石に話さなかったらしい。経験からあまり口外してはまずいと悟ってくれたようだ。本当に賢い妹を持ったと嬉しく思うと同時、だからこそ抱え込むものも大きくなってしまいそうで不安にもなる。後者は同時に螢ちゃんにも言えることだった。幼いにも関わらず聡すぎる、危うさを覚えるほどに。あの子のことで公になっていないことは少ない訳じゃない。そもそも、あの彼女の現れた場面に居合わせた人間以外は螢ちゃんの存在すら認知していない。その数少ない一部のなかでも、またさらに秘密が重なっていってきてしまっている。Dの血の事に関しても、二つのイノセンスの可能性にしても、あの抜けない刀に刻まれていたマントラについても。教団内でマントラに詳しい人間はクロス以外にはいない。だからあの文字がなにを意味しているのかすらも現段階では分からない。あれがマントラだと分かったことだって正直奇跡的だ。クロスの魔術を見たことがなければきっと結びつかなかっただろう。だが一つ、確実に言えることは、そんな呪術のかかっているのであろう武器を、普通の少女があんなにも大切にして持っているという事が可笑しいという事だ。
状況が、環境が、彼女のことを覆っていきどんどん異常にしていってしまう。もうとても、螢ちゃんのことを普通の子とは言えないところまで来てしまっていた。
「室長、ドクターから報告っす」
「あ、ああ…ありがとう」
「…ちょっとは寝てくださいよ」
「はは、まさかリーバー君にそんなことを言ってもらえる日が来るとは驚きだなぁ」
「茶化さないで下さいよ!あんたここしばらく本当にずっと寝てないじゃないですか!」
眉間に皺を寄せて怒りを露わにするリーバーにありがたいなぁと思いながらもそれでも時間が足りない現状を理解しているため、結局は何も言い返せなかった。ヴァチカンの目もいい加減誤魔化すことが厳しくなってきている。向こうからアクションを起こすのも時間の問題だろう。そうなる前に打つ手は全て打っておかなければ、でないと彼女を護ることは出来ないだろう。先手を打つにしても、そろそろ頃合いだ。一番避けなくてはならないのは螢ちゃんをエクソシストだとヴァチカンが認知したうえで連行してしまうことだ。“危険分子”エクソシストとされてしまえば何をされるか分かったもんじゃない。因みに中央府への報告はまだ一切行っていない。彼女はまだ伏せっているという事にしているのだ。実際そういっても間違いではないのだがその間に行った調査の詳細はあと二日以内にはまとめて提出するつもりだ。問題は、どこまで記して報告するか、だ。
「本当に頭が痛いよ」
「じゃあ寝てくださいって」
投稿日:2017/0502
更新日:2017/0502