「私は行おう」、それは罪だ

「リナリー!」


「アレン君、おはよう」


「おはようございます」


食堂から出てくるリナリーに声をかければ笑顔で足を止めて挨拶をされるので駆け寄ってそれに返す。本当は任務に行く列車まで珍しく時間があったので食堂に行ってジェリーにお弁当でも頼もうかと思ったのだが途中でも買えるのでリナリーの足を進める方向に共に進む。


「もしかしてアレン君も任務?」


手に持っていた資料を見つけたリナリーがそれを見てそう問いかけてくるので笑って頷く。その笑顔が少し乾いたものになってしまったのは仕方がないだろう。場所を聞かれたのでハンガリーのペーチ周辺だと答えればリナリーにも笑顔の渇きが移った。どう考えてもやはり遠い。神田の方が近いだろうにと思ったがどうやら神田は現在ベルギーにまで戻ってきているとのこと。まぁもともとエルバンに着く前に戻ってきているのだからベルギーにいたってなんら可笑しくはないだろうが、もう少し向こうにいてくれたら僕が行く必要もなかったのではと思わなくもない。しかしベルギーにきつつもAKUMAはばさばさと倒しているのだろう、一度ホームに戻って疲れを癒すことも大切だ。それに今は螢がいるのだから帰ってくるのならばさっさと帰ってくればいいとも思っていた。できれば僕がる時が良かったけれどと願っては仕舞ったけれどそれはもう仕方のないことだ。


「…ん?も、ってことは他にも誰か?」


先ほどコムイさんにリナリーは任務に出ないと聞いたばかりだったので彼女ではないのだろうと思いながらそう問えばラビも先ほど発ったばかりらしい。彼の任務地はデンマークらしい。羨ましい、船ですぐじゃないか。
という事はリナリーとブックマンが教団に残る形になるのか、と考えながらだとしたら神田が戻ってきてからもリナリーが任務に出ていくという事態にはならないだろうと同時に思う。基本的に教団には最低でも二名から三名のエクソシストが常に残る様に任務を組んでいる。勿論緊急の場合は在中しているエクソシストが出ることもあるがそれはイギリス本土での任務であったり他のエクソシストが応援を要請した場合に限る。僕がここに来てからそんなこともなかったし、ラビがデンマーク、僕がハンガリーとなればその近辺なら僕らに任務が回ってくるだろうし、他にも多くのエクソシストがヨーロッパに任務に出ていたり各地を転々としているのだから問題はないだろう。


「よかったです、リナリーが教団に残ってくれる状況で…」


「へ?」


「だって考えてみてくださいよ、神田だけがここにいたとしても絶対に螢に会いすらしませよ」


「あー……言われてみれば…」


「絶対にです、断言できます」


「そんなに力強く言わなくっても」


くすくすと笑ってるリナリーには悪いが本気だ。あの男に螢を任せられるはずがない。この時ほどどうして神田が日本人でラビが日本語を話せないのだと思ったことはない。本当に、どうして神田なんだ…。隣でリナリーが「本当に二人とも仲悪いんだから」とムッとしているがこればっかりはしょうがないんですという他ない。神田が悪いんだ全部。


「だからリナリー、戻ってきたら僕に日本語を教えてくださいね」


「神田、教えてくれるかしら」


「リナリーになら教えてくれますよ」


僕とラビは相当粘ればなんとなかるだろうとお互い話していたのだがその機会も遠くなってしまった今ではリナリーが神田に教えられたものを教授願う方が効率がいいだろう。いや、元からそうした方が絶対によかったな。
色々な国に行ったことがあるつもりではいたが日本語は挨拶の一つも知らないという状況だ。ボンジュール、グーテンモルゲン、ナマステ、ボンディア。ぱっと思いつくだけでもこれだけ出てくるというのに日本語についてはどんな発音であるのかすらも予想できない。神田は英語で話しているところしか見たことがないし、師匠も色々な国の言葉を話せる人ではあったが日本語は話す機会すらもなかったので当然話せるのかどうかも知らない。

あ、いや、聞いたことは、あるのか。
一番初めに螢とあった時、あの時彼女と神田は確かに聞き覚えのない言語で話していた。あの時のあれが、日本語か。柔らかい音だったような事だけはボンヤリと覚えているがそれ以上に状況が状況だったこともありそこまでハッキリと記憶していないというのが正直なところだ。
先は長そうだ。しかし彼女がどこから来たのか、それだけでも分かれば螢を元いた場所に返してあげられるかもしれないのだ。僕らはそんなことすら彼女から聞けないままでいる。そのことが少しだけ怖いことだと思いながらひやりと体温が下がったような、そんな気がした。だってそうだ、言葉が通じないからと言ってそんなことすら誰も聞いていないだなんて非常だ。日本はもう壊滅状態だと聞くから日本以外のどこかに彼女の帰る場所があるのかもしれないのに。だれもそのことを彼女に聞いていない…?どうして。


「アレン君?」


「あ、いえ……すみません、ちょっと用を思い出したのでこれで」


「え?」


リナリーの不思議そうな声を背中に受け止めながら、確実に螢の元へ向かっていたのであろう足を翻して僕はその場から逃げる様にして去った。こんな気持ちのまま、あの子に会いたくないとそんな風に思えてしまって結局はそのまま僕は任務に急く様にして出発した。

2015.9.14




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投稿日:2017/0502
  更新日:2017/0502