グリフォンの咆哮

私の寝泊りしている部屋、恐らくは医務室だと思うのだが、ここには窓が存在しない。もう暫く太陽を拝んでいないようなと思ったときにそれに気が付いて気分が鬱蒼としてしまった。時間の感覚も狂っているのかもしれないと思ったがここ最近はリナリーさんが毎食用意してくれているので、なんとなくは把握できているつもりだ。
未だに、分からないことばかりだけれどここ数日で確実に分かったことは私が奥村螢であって片方の兄と同様に悪魔の血と炎を継いでいるということを、どういうわけかここの人たちは全く知らないのだという事だった。そのことがなにを示すのか、それを考えるにはまだ私には情報も考える頭もきっと足りない。正直このことを断定できるまで考えられたのだって自分的には凄いと思っている。自分を馬鹿だとまでは思わないがそこまで頭が回るとも思っていない。本当に頭の回る人というのはこういう場面でもっと自分に良いように立ち回れるだろう。私の様にされるがままになんてきっとされない。
そもそも言葉に隔たりがある時点で圧倒的に私には不利なのだ。これでも詠唱師のマイスターは持っているのだが基本的に仏教の経典だったり、原本が英語のものも日本語で暗唱するタイプだったので英語なんて話せないのだ。詠唱師のマイスターは基本となる3つの宗派の指定された経典を暗唱できるかどうかが最低条件となる。言わずもがなキリスト教、イスラム教、仏教である。それに加えてあと2つの宗教を個人で選び、5つの経典を問題なく暗唱出来て初めて詠唱師を名乗ることが許される。キリスト教の経典は当たり前だが日本語で覚えた。だからこそそんな私を英語圏に連れてきたって語彙力は0のままだ。悪魔関連の英語だったら覚えてはいるけれど、アミュレットとかカースとか。因みに前者はお守り、後者は呪いだ。
なにを言いたいかというと、たとえ詠唱師のマイスターを持っていたとしても日常会話には支障が十分出るという事だ。詠唱師の誰もがバイリンガルだと思わないでほしい。まぁ、けれども多少はリナリーさんの言う言葉を聞き取れる様になってきたというのは大きな進歩だろう。勿論そこにはリナリーさんの多大な気遣いがあるのは分かっている。ゆっくりと話してくれていたり、恐らくは簡単な単語を用いてくれたりだとか。
だからといって、私の状況が良くなったという訳ではないんだろうけれど。そこまで楽観的な質でもないので自分の立場というのは分からないなりに分かってきてはいる。
恐らく、リナリーさん達は私がなんなのか分かってはいない。だから警戒されている。そして私の扱いに困っている、多分。向こうの対応を見ているだけでここまでは察することが出来た。ここがどこでどうして私を知らないのか、祓魔師ではないのか。いつになったら私はこれらを知る権利を得られるのだろうかと真っ白いシーツを握りながら歯を食いしばって叫びたい気持ちを押し殺した。



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投稿日:2017/0502
  更新日:2017/0502