裏切りもののヘレル

色々なことがあってぐったりしつつも、リナリーさんに連れられて恐らく彼女の部屋のシャワールームを貸してもらった。着替えを渡して中の使い方と思われる言葉を告げてそのまま私を洗面台のある小さな部屋に置いていった彼女はもうここにはいない。何か言っていたのでもしかしたらその中に彼女がどうしているか言っていたのかもしれないが生憎その答えは分からなかった。

すこし躊躇って、なんとなく耳を澄ましてみる。静かな無音が返ってきて恐る恐る倶利伽羅を手放す。そして腕の包帯から緩める、自分に纏わりつく血の匂いにはうんざりしていたからここに連れてきてもらったのはとてもありがたいのだ。
緩んだ包帯の隙間から見えるのは、綺麗な傷のない自分の手首。心底化け物じみていると思うが便利だと嘲笑えば叱られたことがあるので、もうそんなことは言わない。ぱさりと病人服を脱げば視界の端にゆらりと揺れる尻尾。なんとなしに腕に絡めれば思っていた以上に血が固まっていたのかザラザラと嫌な感触が皮膚に走る。ふと鏡を見れば映るのは血の気の失せた自分の体と、人としてはあり得ない異形の尾。こんな自分に慣れてきてしまった自分に苦い思いをしてしまうがしょうがないのだ、しょうがない。
もう一度扉に目を向けてシャワールームへ入れば花のような香りが鼻を通る。きっとリナリーさんの物だろうが、これらにも指を指して何か言っていたのだから使ってもいいということだと、思う。

シャワーヘッドから体を遠ざけてノズルを捻れば案の定先に流れてきたのは冷たい水でぶわりと体に冷気がまとわりついて思わず身を震わせた。暫くすれば湯気を上げ始めたそれに指先を潜らせてみる、暖かい。
頭からその雨に浸ればじわじわと温まる体にホッと息をついてしまう、本当に暖かい。

分からないことだらけだった。
きっと、きっとだが彼らは私を知らない。決定的にそう言い切れる要因は無いのだが彼らの態度や聞き取れない言葉、こちらを見る目。それらがすべて知らないものに対して向ける様に思えたのだ、それこそ今の私と同じような。
でも、きっと彼らはエクソシストなんだと思う。初めに刀を突きつけられながら“悪魔か”と憎々しげに言われたのを私は覚えていた。だからこそエクソシストなのに、エクソシストだからこそ彼らから向けられるものとしては可笑しいものだらけなのだ。
自分から滴るお湯が赤く汚れる。排水溝に吸い込まれていくそれは小さな赤い渦を作り消えていく。足首の傷のあった部分に目を向ければそこも綺麗な白い皮膚。
垂れ下がった尻尾を手繰り寄せる様にして持ち上げればまだ血がこびりついていた、指の腹でなぞる様にして解せばそこを通った湯は一気に赤に染まる。でもだめだ、これ以上は取れない。結局はBODYと書かれているボトルに手を伸ばす、初めから借りてればよかった。
泡立つ石鹸の香りと感触が心地よくて、少しだけ泣きそうになってしまった。


2014.12.30


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投稿日:2017/0502
  更新日:2017/0502