グリフォンの咆哮


ヘブラスカからこれがイノセンスだと言われてから2日徹夜して、その成果としてこのブリューナク(神裁)が出来上がったわけだが出来上がって今更な気がするが螢という少女の承諾を得ずに良かったのかと思った。伝える手立てが全くないという訳でもないというのは報告を聞く限りでは分かっていたはずなのにすっかり失念していたと出来上がった対AKUMA武器を見つめながらそんなことを思った。ブリューナクは、ケルト神話に登場する武器だと言われているが日本人が創作した武器だという説もある。「貫くもの」の意味であるとされており、トゥアハ・デ・ダナーンの太陽神ルーが所持するとされているおり、穂が5本に分かれて5つの切っ先から放たれた光は一度に5人の敵を倒したと言われている神器だ。そしてよくよく元の深紅の紐を観察すれば、すべてで五色使用されているのが分かった。もうこれしかないだろうと改良を重ねた結果、自分でもまぁまぁの物ができたと思っている。
その能力は「必ず勝利をもたらす」、「投げると稲妻となって敵を死に至らしめる灼熱の槍」などと言われ、生きていて意思を持っており、自動的に敵に向かって飛んでいくとも言われる。ドラゴンを模した形は見れば見るほどこうあるべきだったのではと思わされるほどの出来で、つい自画自賛してしまうほどには美しい造形になっていた。
だがしかし、それとこれとは話が別だ。

まだフラフラだったというのに車椅子から転がり落ちて、それでもなお這ってでもあの刀を自分の元に手繰り寄せようとまでしていたのを目の前で見ていたというのに、その一部を何の許可もなく加工してしまうとは…。段々と焦りが肥大していくのを感じてよもや徹夜続きでそこまで頭が回らなかった自分をいっそ呪いたくなった。なんてこった、あの嬢ちゃんになんていやいいんだ。いやそもそも言葉が通じないのに本当になんて言えばいいってんだ。


「お、リーバー君それ出来たんだ、どうだい出来は」


「室長……」


「うわぁ酷い顔色だねぇ、人の事言えないよ君」


コーヒー片手に資料を漁っていた室長にそんなことを言われたが徹夜日数は残念ながら室長の方が長いことを俺は知っているので何も言わない。周りに目がある時に限って全力でふざけたりするものだから分かりにくかったりはするがこの人はやはりここのトップなのだ。それだけ責任感も仕事量も並ではない。加えてあの子供のことがあってからはその責任感に拍車がかかってきてしまっているのか罪悪感からなのか、定かではないが彼女の為に色々と奔走している。勿論普段の業務だって怠っていない。だからこそこの顔色の悪さなのだろうが。


「いや…これ、あの子になにも言わずに弄っちまったんで…よかったのかなと」


「すんごい今更だね?」


なにを言っているんだ、とシラっとした目で見られてくるものがあったがグッと耐え事の深刻さが伝わる様にそれなりの口調と顔を作ってゆっくりと口を開く。


「だって、考えても見てくださいよ…なんの説明もなしにあんな大切そうなもんの付属品をかっぱらった挙句、こんな」


「あ、不味いねうん」


ダメだこの人早く寝かせないと。そう思った俺は悪くないだろう。突然持っていたコーヒーを机に叩きつける様に置いたせいで中身が書類の一部に盛大にぶちまけられたのにも関わらずその上にもう片手に持っていた書類まで重ねようとしたものだから流石に止めた。おいこれあんたヴァチカンへの提出書類だろなんてことしてくれようとしてんだ。
しかし結果的に彼にも事の重大さが伝わったのだ、これはなかなか不味いぞと二人そろって顔を青くさせながら眉間の皺を深くして考え込む。どうしたもんかと思うも手の中のブリューナクは元の形状を全く保っていないものに成りあがってしまっている。勿論性質くらいは引き継いでいるが、面影は…あるにはあるが先にも言ったようにこれは“生きている”のだ。


「リーバ君なんとかして…」


「んな無茶な…」


「だいたいどっから話せばいいの」


「は?どっからって対AKUMA武器にしちゃって悪い、とか…」


「何言ってんの…」


噛み合わない会話に首を傾げて話を促せば成程、なんと未だにあの子供は自分がエクソシストであることもAKUMAの存在も微塵も知らされていないらしい。この数日なにをしていたんだと思った。いくらでも伝えられるタイミングはあったろうに、俺はてっきりヘブラスカの診断があってすぐにでもエクソシストとして勧誘しているもんだと思っていたのに。だからこれの加工を進めていたというのもあったのに。
…え、じゃあまずどうしてこれをこんな風にしてしまったかというところからも話して、そして納得してもらわなくてはならない…と。


「室長あんた今すぐ言ってきてくださいよ…!!!」


「むりぃ」


「コラこのタイミングで寝るな!室長!!」





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投稿日:2017/0502
  更新日:2017/0502