グリフォンの咆哮


戻ったと思ったら早々にコムイに泣きつかれた。なんだ鬱陶しいと報告書の紙を寄越せと突っぱねたのだが「いいよそんなの!」と訳の分からないことを言って来たので頭下げても今回の報告書は出さないと決めた。そうなるともうここには用はないとさっさと退室しようとしたのだがそれも許されずコートを引っ張ってくるものだから本気で刀を抜こうか迷った。
全く話を聞いていなかった俺に気が付いたのかコムイはより一層喚き散らしていたが生憎くだらない話に付き合う暇はない。しかしながら普段ならばそんなコムイの暴挙を止めるストッパーであるリーバーが寧ろ俺に話を聞けと言ってきた。そこで渋々話に耳を傾けたのだが聞かなきゃよかったと心底思った。


「勝手にやってろ」


「なんで!神田君しか日本語話せないんだからお願い!」


知るかよ。心底そう思ったがそれがそのまま顔に出ていたのかコムイの顔が更に悲惨になった。だいだいそんな義理もないのにどうして俺が通訳になんてならないといけないのだ。面倒なことこの上ない。加えてそんな餓鬼の存在も今さっき言われるまで忘れていたぐらいだ。


「殺さなかったんだな」


「…彼女は仲間だったよ」


「それはさっき聞いた」


そういう話ではなかったはずだ。ここの中枢であるヘブラスカの元にあんな派手に爆音と大量の血を浴びた状態で現れたのだ、殺すのには十分な理由だしなにより得体が知れなすぎる。コムイが言うように確かにあいつは日本語を語っていた。だが、だからといって本当に日本人かはまた別の問題だ。日本人だったのならそれはそれで問題だろう。少し考えただけでもこれだけ面倒なのだ、まっぴらだ。
それだけ面倒事を背負ってここに現れたあいつがしかもエクソシストとくれば、それはもう厄介この上ない。いっそのこと殺してしまった方が分かりやすくていいだろう。地下牢に繋がれているのを見つけた時は随分と惨いやり方だなとは思ったが、あれも手違いだどうだと言っていたし、俺にこれ以上首を突っ込ませないでほしいというのが本音だ。裏で何があるかわかったもんじゃないだろうこんなの。そんな手違いがなにもないのにあってたまるかという話だ。


「どう考えたって火種だろう、あれは」


目を細めてそう断言してやればコムイもついに黙ってしまった。火種は火種でも内部で燻って酷ければ崩壊をもたらしかねない類のものだ。こいつがそれを理解していないという事は無いと思っていたが十分考えたうえでその厄介事を引き受けようとしているらしい。切って捨ててしまえばいいものをこうして抱えていくのを見ていると心底馬鹿だと思う。そんな甘いことを言っていられる場所じゃないのだここは。


「俺はごめんだ、他当たれ」


「あっ、ちょっと神田君ってばぁー!」


お前のお人好しに付き合ってられるかと立ち上がって六幻を手に取って、そしてふと思い出す。コムイに頼まれてあの餓鬼が所持していた刀を抜こうとしたのだが抜けなかったのだ。そもそもあの赤い下緒が解けなかった。それだけでも聞いておこうかと思ったが、結局やめた。少しでもこちらから聞いてしまえばコムイの口車に乗せられて巻き込まれる予感があったのだ。未だになにか言い続けているコムイを無視して室長室から退室した。



 - return - 

投稿日:2017/0502
  更新日:2017/0502