グリフォンの咆哮
こっそりと、誰もいないのを見計らってリナリーさんから貰っていた包帯を自分に巻かれているものと取り換えた。外側はまだ綺麗なままだったが内部になるにつれて乾いた血が赤黒く付着していて包帯自体が固くなってしまっていた。それをみて手首だけでも洗いたいと思ったのは必然で、医務室に備え付けで付いているトイレに向かった。手には新しい包帯と倶梨伽羅を持って少しだけ足早に扉を開けて静かに閉める。悪いことなんて一つもしていないのに、どうしてか罪悪感に似たものを感じた。もう治ったと、言った方がいいのだろうか。古い蛇口を捻って水を出せばきゅい、という音と共に冷たすぎるほどの冷水が我先にと流れ落ちてくる。持っていた包帯を鏡の前の小さなスペースに置き手首を流水に突っ込めば背筋がぞわりとさせられるほどの冷たさが皮膚に走って反射で顔を上げてしまった。目の前の鏡に映っている自分と目が合って、その唇がぎゅっと噛まれていて変な顔だと思った。声が出なかっただけましか、と思いながら適当に手首を擦っていく。石鹸も置いてあったが、なんとなく使わなかった。足首はここで洗うこともできそうにないし諦めようと粗方綺麗になったであろう手首を軽く振って眺める。なんとなしに指先が真っ赤になっているのを見つけて、その指で頬をなぞってみる。思っていた以上に冷えた人差し指は顔に水滴を残して少しだけ温くなった。鏡に映る自分の頬が、まるで涙を流したかのように濡れているのを見て思わず水をぶっかけてしまいたくなったが流石に耐えた。
手を拭くタオルも壁に付いてはいたがやはり使う気にならず、適当に着ていた服で拭ってしまう。こんな所見られたら兄に口うるさく言われるに違いないがハンカチもないのだから仕方ないだろうと内心で言い訳をした。鍵か付いているここでもう包帯を巻いてしまおうと一つを手に取って未だに氷の様に冷え切っている手に巻いていく。古い方の外側は綺麗だと思っていたがこう見れば白さだったり糸のほつれ具合からあれも限界だったのだなとベッドの上に放ってきたそれを思い出しながらリナリーさんが替えるようにとこれをくれたことに感謝をする。でなければきっと医者であろう人かナースの人に無理やりにでも替えられていただろう。本当なら毎日でも替えるものだし、なによりあれだけ血も出ていて錆びた金属に触れていたのだからどう考えたってよろしくないだろう。勿論替えるようにとナースさんは包帯片手に迫ってきたこともあったが、ことごとく拒否を示していたので次第に諦めてくれた。諦めてくれたというよりは、医者の人に止められていた、のだと思う。それこそあの時は焦ったな、何人もの人が見ている中で包帯ととられそうになった時は。今思えばあの時にはだいぶ傷口も塞がっていただろう。
なんとか両手首を巻き終えてその上をなぞってみる。点滴も今朝取ってもらえたし、包帯も今こうして替えている。
あと、何が変わっていくのだろうかと少しだけ寒気を感じながらそんなことを思ってしまった。
投稿日:2017/0502
更新日:2017/0502