暗やみに輝くともしびとして

医務室に向かう途中でドクターを見かけたので胃が痛くなりながらもその資料を手渡す。どうか俺に怒鳴らないでほしいと思いながらも顔色を窺ってしまうのは致し方ない。それだけの内容が記載されているのだし、なにより病人といっても過言ではない少女を引っ張り出すというのだから。


「…ほー」


「怖いっすよその反応は」


あ、これはかなりのお怒りだ、と思ったが腰が引けてしまっただけで徹夜明けの体では反射的に逃げることもできそうになかった。しかし、そうはいっても俺もこれが最善策だと思ったのも確かだ。他に案が思いつかないというのもあるし黙ってここに閉じ込めていてもなんの解決にもならないどころかいつ中央府が手を出してくるとも分からないのだ。そんな環境に置くよりは絶対に外に出してしまった方が良い。万が一があっても色々な意味で神田なら対応できる。あいつがAKUMA以外のものをむやみやたらに殺さないのも長く見ていれば分かるからこそ、そんな彼が斬ったとしたらそれは彼女があちら側だったというだけだ。任務にエクソシストとして様子見で派遣した、となれば多少ごたごたはあるだろうがエクソシストであると判明したことを一緒に報告するのだから実力を見るためと言いくるめれば何とかならなくもないだろう。


「結局輸血もなしか…」


「え、してないんすか」


「あぁ、知らないのか…色々あってまともに回復してないよあの子」


思ったほど怒りを見せなかったドクターに驚きつつもそれ以上にその言葉に驚いてしまう。そんな状況なのに大丈夫なのか本当に、と思わなくもないがだからと言って今更どうにか出来るとも思えない。報告でしか知らないが彼女が現れた現場は血の海だったと聞いた、加えて手首の太い血管からの継続的な出血と足首に同様の怪我。俺があった時は車椅子に乗っているくらいだったしあれだってつい先日の事だ。ドクターがとりあえずいくか、と歩き始めたのでそれに伴いながら段々と不安が募ってくる。まさか神田、邪魔だからって斬ったりしないよな。大丈夫だよな。そもそも歩けるんだろうか、あの子は。そのことを問えばそれは問題ないという答えが返ってきてホッとすると同時、では回復しているではないかと思ってしまう。それが顔に出ていたのかドクターからため息と共に疲れた目を向けられた。


「食事免疫血液量体温体力、絶対的に栄養」


「ゴメンナサイ」


指折り一つずつ項目を上げていく彼に思わず頭を下げてしまうくらいには重傷だと分かった。未だに胃が戻っていないのかと暫く飲まず食わずの状況に置かれていたことを思い出してゾッとする。ホントに、本当に大丈夫なんですよね室長。
それでも少しずつ食事も食べられるようになってきたのに加えて眠れるようになったからまだましだ、と言われてそういえば小耳にはさんだ程度だが不眠の報告があったと思い出す。


「よく、死にませんでしたね…」


「、そうだな」


なにか一瞬考え込むような顔をしたドクターを横目にして首を傾げたがなにもないような顔で結局歩みを進めるだけだったので追及はしなかった。リナリーよりも年も下だと言っていたはずだ。見るからにそうであるし教団のなかで最年少ではないのだろうかと思いつつも、あれ、とふと思う。ドクターって見張りかねてなかっただろうか、一応正体不明の少女であることには変わりはないのだから彼女の監視は二十四時間体制だったはずだ。いや絶対にそうだ、その任にこの人が買って出ていてリナリーがそれに加わったりしていたという話は聞いている。基本的にあの医務室は彼の根城であるし、あそこ勤めのナースも本来はいないのだ。今回は手が足りないことに加えて女性の方がなにかと都合がいいだろうという事で手伝いに駆り出されていた医療班が一人いたはずだが、俺は今さっきそのナースに会っている。


「ドクター、あの子今一人にして」


「してるな」


「なにやってんだあんたは!」


怒鳴らずにいらいでか。




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投稿日:2017/0502
  更新日:2017/0502