暗やみに輝くともしびとして
ハッとした時には着替えが足元に置かれていて、ベッドのカーテンを引かれた状態だった。カーテンの向こうで話し声が聞こえていることからまだ人はいるのだろうが状況からしてこれに着替えればいいのだろうと察して重い体をのっそりと動かす。倶梨伽羅には相変わらず鮮やかすぎるほどの赤い蔓が絵を描く様に張り巡っていて、まあこれはこれで封をしてくれているのだと思えばぎりぎり気にせずにいられた。これが羂索だと理解していなかったら発狂ものだが長年触れてきていたあの触れた時の感覚は同じままだ。動いていたけれど、それが問題でもあるのだけれど。一度そのことを頭から追い出して、手に取った服はは病人服ではなかった。白い病人服とは正反対に真黒なそれはまるで喪服にも見えたがよく見れば細かな模様があしらわれたワンピースで一目で上質なものだと分かった。ショートパンツやインナーも黒に統一されていてそしてそれらもやはり上質なものばかりだった。人がいる中でこんな薄っぺらいカーテン越しに着替えるというのは中々気を張ってしまうものであり、二度目ではあったがつい耳を立てて話し声が少し距離のある場所にあることを確認する。ワンピースの中に下着も入っていたようで、複雑な思いになったがそれを使わせてもらう。ここに来て着替えすらも他人に支配されてばかりで、なんだか感覚が麻痺してしまいそうだと思ってしまったのだ。それにどう考えてもあの二人のどちらかが用意してくれたのだと分かってしまって余計にもやもやとしてしまった。
手早く着替えを済ませてしまえば久しぶりにきちんと服を着たことに気が付つく。どこかに連れていかれるという事なのだろうかと考えたが考えただけで答えが出るはずもないので思考を放棄してボタンを留めていく。金色のボタンにはブランド名と思われるロゴが入っていたが読めそうにはなかった。最後に靴下に足を滑らせるようにしてはいていく。ニ―ソックスのため包帯部分が捲れそうになったりしてもう解いてしまおうかとも思ったがなんとかくしゅくしゅに丸めてからそこをクリアした。黒いニーハイの上から足首に触れれば少しだけその部分が着ぶくれの様になっていたが見た目には全く分からなかった。着てみて気が付いたが随分と厚着だ。生地自体がウールでも使っているのかと思うほどであるし、下半身に至っては肌が殆ど露出していない。丈は膝上だがニーハイと中に履いているショートパンツで隙間は無い。ワンピースの袖が肘までであり、首元が少し広いことくらいでほぼ全身を黒く染められたようだった。
全てを身に纏って、そしてベッドにベルトが残されたのを目に留めて今一度自分を見下ろしてみる。ワンピースはウエストのあたりでキュッと絞られており、そこから先はフレアなスカートが広がっている。ウエスト部分にベルトを通すものは存在していないし、他のどの部分にもベルトを使用するような場所はない。ショートパンツかとも思ったがそもそもベルトの形状が腰に巻くには随分と長く輪が多い。
手に取ってそれに指を走らせれば皮の材質が指の腹を滑る。そうしてそこに金具を通す穴がないことに気が付き余計に訳が分からなくなる。ベルト、ではないのは確かだろう。
その時、また一つ廊下から足音が聞こえた。部屋の中に人はいて話をしていたとしても比較的静かな声にその音も拾うことが出来たというのもある。案の定少しして部屋の扉が開く音を耳にして、次いで耳に届いた声がナースの物であると分かる。なにか二言三言話をしたのだろう声が聞こえたが、ナースの声は私の方へ近づいてきた。優しい音でカーテン越しに声をかけられてなんと返答していいか分からなかったのでカーテンをゆっくりと引っ張って隙間から向こうを覗く。ナースはベッドから少し距離を開けた場所でこちらを伺っていて、私が着替え終えているのを見てにこりと笑った。
「――、――――」
似合っている、と言われたんだと思うが視線を落とすことしか出来ない自分にちょっぴり呆れる。いい加減、態度が悪すぎるだろうと思ってもいたのだ。それと同時にこんなに自分が内向的だとは知らなかったのでここ数日は色々と考えさせられていたというのもある。自分では社交的な性格であると思っていたのだが結局はなんだかんだ言って、兄たちの背中にくっついて歩いていただけだったのだな、とか。
ナースの手には色々なものが抱えられていた。ブーツにコートに大きな鞄。それを笑顔を共に差し出されれば嫌でも分かってしまう。私の物、ということだろう。ブーツを床に、鞄をベッドの横のテーブルの傍に置いてそれを履くように仕草で説明されて体をベッドの上で動かす。同時にカーテンを開けたナースはベッドの上にコートをそっと置いた。足をベッドから下ろしてブーツの中に潜らせる。中はもこもことしていて皮の材質も厚い。ひざ下まであるそのロングブーツを片方ずつ履けば床にカツンと固い音を響かせたので裏も雪国仕様なのだろうかとボンヤリと思った。
靴を履いたのを見計らっていつの間にか傍に来ていた先生が白い袋をこちらに差し出してきた。なんだと思う前にはその中身を自ら露見させた先生にいつも処方されていた薬だと知って一つ頷いて見せた。
「――、――――――」
飲んでねという事だろう、そう告げてそれをナースに渡し、ナースはそれをあの鞄へとしまい込んでいた。チラリと見えた鞄の中身は衣服が詰め込まれていて流石になんでこんな大荷物を突然渡されているのだろうと疑問が浮かんだ。
投稿日:2017/0502
更新日:2017/0502