暗やみに輝くともしびとして

剣を下げておくためのベルトの意味を理解できなかったのかそれを握ったままベッドから顔を出した少女は服を身に纏っても酷い顔色のままで、ドクターからいつでも外に出せるように準備をしていたから予め予想はしていたとはいえやはり反対したい気持ちでいっぱいだった。しかも向かうのは寒地であるときくし、低体温状態の続いている彼女にはどう考えても厳しい地であろうことが理解できてせめて暖かすぎるほどの防寒具しか用意できない自分が不甲斐なかった。ここでそれを身に纏っても暑がらないあたりから、やはり体温は戻っていないのだ。簡単に気候に左右されてしまうであろう彼女の事を思うとまだこれでも足りなかっただろうかとすら思ってしまう。コートの内側はふんだんにボアが使われているし、裏地も入っていて簡単には風を通さないだろう。フードの淵にはグレーのファーが覆っていて、袖口にも同様になっているそれは大変温かいだろう。ダメ押しにポケットには厚手の手袋を入れているしマフラーだってカシミアとファーを織り交ぜたものを選んだ。


「それは、あれを括っておいて、そしたら持ち運びやすいでしょう?」


ベルトを指さしてから剣を指させば私の指につられて一緒に動く小さな顔が可愛らしい。大きな瞳のコバルトが漆黒の睫毛に縁どられているのを見て何度見ても整った顔立ちだと思わされる。同じ日本人である神田さんもきりりとした近寄りがたい美しさを持っているが、彼女のそれは神田さんの物よりは柔らかい。しかし同じようにどこか芯を持っているようで日本人は皆こうなのだろうかと思った。
剣を丸裸でぶら下げているのも考え物だろうと独断で用意した筒状の袋をコートの上から手に取って近くへ置けば、賢い少女はそれを理解して小さく頷いてくれる。ゆっくりと袋を手に取ってそこへ剣を落としていく様子は少女の雰囲気のせいなのかどうしてか何か神聖なものにも見えて少しだけ緊張した。問題なく収まってくれた剣にホッとしつつベルトをそこへ括っている少女は少し手こずっているようで手を貸してあげたくなったが我慢した。


「螢ちゃん、大丈夫?寒くない?」


「それだけ着こんでるのに今寒かったら問題だろう」


「でも、」


「俺も逆に着させ過ぎだと」


口々に横から口を出してくる男二人にどうして分からないのだろうと思ってしまったがドクターは分かったうえで言っているのだろうなと理解できたので余計に質が悪いと思った。リーバー班長に至っては全くそこまで考えが及んでいないだろう。普段ならば頭の回転が速いこの人であるからそこまで考えられただろうが目の下の隈を見るあたり徹夜が続いていたのだろう。睡眠薬でも盛っておこうかと思ってしまうくらいの顔色であったので後でドクターに打診しておこうと頭の片隅で思案した。
かちゃかちゃと暫くベルトと格闘していた彼女の攻防が終わったのはわりとすぐできっちりと巻かれたベルトに安心を覚える。しかし同時に、彼女がここを出ていく準備が整ってしまった事を指していることを痛いくらいに理解してしまって顔を歪めてしまいそうになる。詳しくは聞いていないが、エクソシストとして任務へ赴くことになるのだろうことを思えば、どうしてこうも幼い子がそんな運命を背負わされているのだろうかと思わずにはいられない。
だからどうかと願わずにはいられない、どうか彼女の旅路が穏やかなものであり、無事に帰って来られるようにと。

2015.9.24



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投稿日:2017/0502
  更新日:2017/0502