裂け目に潜む
今回の任務はこの近辺の山で起こっている不可解な現象についての調査だった。報告はこうだ、山にある一つの洞窟内でそれは起きたらしい。その洞窟は村人が隣町へ行く際よく利用する経路であるらしいのだが、村人曰く洞窟の岩肌がある日突然鏡の様に変化したのだという。その鏡は不思議な事に淡い光を放ち、そしてその村人が好意を寄せていたという隣町の酒場の看板娘と自分が会話をしているという光景を映し出した。初めはその村人も不気味に思ってその洞窟へ寄り付かなかったらしいのだが、その時目に映った自分の理想が頭を離れず、いずれ足を運んでいくようになっていった。次第にその村人の様子が可笑しくなっていき、会話も噛み合わなくなってきたころにはもう既に手遅れで、そして最後にはその洞窟から出てこなくなり、心配して探しに行った村人が眠りこけた状態で洞窟の入口付近で発見したそうだ。そうやって見るものが望む光景を映すその鏡に憑りつかれた様に洞窟へと通う者が出てきてしまい、最初の村人と同じ末路へと向かっていく。入口付近で眠った状態で発見された人間は未だ誰一人として目覚めていないと報告されているが命に別状はないらしい。恐ろしく穏やかな表情で眠り続けているとのことだ。眠りについて目覚めない人数は12名、長いものではもう一月以上その状態らしい。そして、洞窟に通い詰めているのが3名。そして情けないことにその3名のうちの一人は教団のファインダーという事だ。ここの噂を聞いてすぐに教団に報告し、下見をと洞窟を見に行ってものの見事に被害者の仲間入りをしたらしいそいつを馬鹿だとも思うが話は多少聞きやすいなと思えば役に立たないという訳でも無いか、と納得した。「明日は眠り続けている人々が集められている病院へ向かいます、彼らの容体を見ていただくことも必要だと思われますし…」
「そいつらに共通点はないのか」
「いえ…今の所これといったものは…洞窟へ一人で入ったことくらいでしょうか」
「そうか」
「病院には現在洞窟へ通い詰めになっている3名も入院しております」
そっちがメインだなと思いながら頷けばルイーズは部屋から出ていった。大方外で見張りでもするつもりだろう。
言葉の通じない餓鬼には今の会話は分からなかっただろうが念の為話の最中も気を配っていたが、やはりどんな言葉にも反応を見せなかった。これは本当に日本語以外は介さないらしい。舌打ちを一つ零して資料を引っ張り出す。見張りも兼ねているため、当たり前だが部屋も同じにされた。流石に寝室は複数あるが部屋が同室なのには変わらない。ちょっとでも不審な動きを見せたら速攻斬ってやると出来もしないことを思いながらもう一つ舌打ちをする。こいつに聞いておく項目の書かれた資料を広げ、一緒に転がり落ちたペンでガリガリと書きなぐる。日本語のみの会話、刀は形見、単語でそれを記していけば未だに全く項目が埋まっていないことが嫌でも分かって嫌気がさした。基本的な個人情報の聞き出しから、俺がこいつを見たうえでの記入欄もある。性格、AKUMAを見たときの反応、イノセンスを解放できるのか。なんで俺がこんなことを。
こいつのイノセンスはあの刀ではなかったらしいというのは資料上で知った。あれだけ見掛け倒しなのも珍しい。あの忌々しくも全く解けなかったあの赤い紐がそうだったのだと記されている欄を見てその機能に目を走らせる。武器への加工はガチガチにしたらしいがしかし結局形状はほぼあのままだという。基本的には中遠距離型のタイプらしいが、今回の任務でそれをお目にすることはないだろう。しかもシンクロ率すら計測していないと来ている。確実にコムイもこいつにイノセンスを使わせる気はない。しかし、その次の行に書かれる言葉に今度こそ紙を握り潰してしまった。
―――イノセンスの制御方法の教授
あの野郎、戻ったら本気で斬る。
投稿日:2017/0502
更新日:2017/0502