モアブの地

可笑しくなったファインダーであるミミットの言葉は正直聞くに堪えなかった。ファインダーらしい事務的な報告というよりは自分自身がどう感じたかという主観ばかりで要領を得ず、興奮気味にルイーズに向けて自分の見たという光景を語って夢見心地だった。


「あぁ、あぁ。ルイーズ聞いてくれ、死んだ妹があの洞窟には居たんだ、いや確かに俺の妹は死んだから俺が見たのはきっとあいつの幽霊なんだ、零体になってまで俺に伝えに来たんだよ言葉を!笑ってこう言ったんだ、兄さんありがとう、どうか幸せになってくれって!あの頃からなんにも変っちゃいなかった、死んだときと寸分変わらず歳も取っていなかったよ、けれどあの笑顔だけは変わらなかった、俺の体のことを心配なんかしてちゃんと飯を食っているのかって。お袋の作ったポトフのことなんか話してよ、また一緒に食べようって約束したんだ、いや、妹は死んでるんだ、喰えやしないけどお袋に頼んで妹の所にポトフを持っていく事にしたんだ。なぁ、だからここから離してくれよ、どうして俺縛られているんだ?なぁ、なぁ!あいつ寒がりだから早く行ってやりたいんだよ」


完全に俺のことは見えていないのか知り合いであるルイーズに笑顔すら向けてそんなことを語った男の眼は暗く落ち込み、どう考えても正常な状態ではない。加えて話を聞く限り、その死んだという妹の事すらも認知が危うくなっているように感じる。眉を寄せてくだらない話を聞かせるなと言ってやりたいところだったが、話していくうちに余計に笑みを深めていく男の様子を見ていたらそんな気すら失せてしまうほどだった。
どうやら報告通りに望む光景が映し出される洞窟という事で間違いないようだ。まるで餌に喰いついた獲物のようなそれに成り下がってしまったミミットという男に軽蔑を感じながらそれを痛々しく眺めていたルイーズに目を向ける。こういったところできちんと割り切れるこいつの長所は今回も活かされているようで顔こそ顰めているが調書を記す手は滞りなく働いていた。
また自分の妹について語りだしたミミットに溜息をついたルイーズは言葉を遮るようにして質問をぶつける。吐き出すように出た言葉はしっかりしていたが表情は硬く苦々しいものだった。


「ミミット、お前の妹も母親も、父親も兄も全員AKUMAに殺されてしまったじゃないか」


しかしその言葉には心底うんざりしてしまった。先ほどの言いようから確実にミミットの中で母親は生きていることになっている、思っていた以上に妄想に取りつかれてしまっていたミミットに舌打ちを零して反応を伺えば、一瞬間があったのちのまただらだらと話始めていた。


「あぁ、そういえばそうだったか、そうかお袋も死んでいたんだったな。だったらそうだな、ポトフは無理だから俺があいつの好きな土産屋の菓子でも代わりに持っていってやろうか、でもあそこは冷える、やっぱりお袋にポトフを頼んだ方がずっといい、だよなルイーズ」


一応言えばその事実はすんなりと受け入れたようでそれには少し驚きこそしたが結局は堂々巡りのようですぐに母親の死を忘れ去ってしまっていた。どうなっているんだこいつの頭はと完全に話を聞く気が失せて医者にもういいと告げれば憔悴した顔でタオルを再びミミットの口へと押し込んだ。成程口を塞ぎたくなるのも納得だった。




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投稿日:2017/0502
  更新日:2017/0502