輝く者が天より墜ちた

「だいたい、どうしてあそこで急に襲い掛かったりしたんですか!」


「うぉ!ちょ、アレ、アレン、ゆさ、揺さぶん、なー!」


ぶんぶんと首を前後に揺さぶられながらギャーギャーいうだけで答えようとしないラビに、ちょっと強くやり過ぎだろうかと思って手を緩めれば思った以上に頭をシャッフルしてしまっていたようでキュー…と変な音を出しながら目を回してしまっていた。

謝りながら、でもラビがあんなことするからと心の中でだけ付け加える。無抵抗の弱り切った女の子にしていいようなことではなかったのだ。加えて、その後に牢屋に連れて行ってしまうなんて本当になにを考えているんだと思う。


「アレン君、ラビをそんなに責めないであげて」


「、リナリー」


時折下唇を噛みしめる様にして、口を開いてはまた閉じてしまうリナリーにやっぱり納得はできそうになかった。優しい君がそんな顔をしなくてはならない理由がわからない。無理に納得しなければいけないことがわからない。


「どうしても、ね」


重々しい雰囲気でコムイさんがリナリーの肩を慰める様に抱き込みながら、リナリーの言葉を引きつぐようにして真剣な、でもやっぱり眉間に眉を寄せながら話す。コムイさんまでがそうやって無理に納得しようとしている、だから納得できない。


「ヘブ君の所にあんな風に突然現れたとなったら、それを防げずに進入を許してしまった我々に非があると、そう思われるのはわかるだろう。そうなってしまうと中央府があの子の身柄を引き渡すよう言ってくるのもきっと時間の問題なんだ」


「中央…」


うん、と首を縦に振りながらリナリーの頭を撫でているコムイさんはそれでも割り切るような言い方で一つずつ、この場にいる皆に言い聞かせるように言葉を続けていく。


「アレン君のおかげで彼女がAKUMAではないことは分かったけれど、敵じゃないとも限らない」


「それは…」


「それにね、ここ本部に簡単に侵入を許したとなると他の支部だって不安になってしまう。本部のしかも特に警備の厚い場所になんて聞いたらきっと、自分のところはもっと簡単に押し入られるんじゃないかってね」


不意に上を見上げたコムイさんの目線を追っても見えるのは普段と変わらない室長室の高くそびえる沢山の難しそうな本や分厚い資料だけだった。


「もちろん、君たちの反応を見て、僕自身の目で見てあの子は無害そうで普通の子に見えた。けれどそれだけじゃここに入ってこられないのだって事実だ」


疑うしかできない。それはこれが戦争だからだ、世界をかけた戦争だからだ。でないと僕らが負けてしまう、この世が終わってしまう。そういう戦いに身を置いている。忘れたつもりはなかったけれど、目に映ってしまった理不尽にその部分が曇ってしまっていたという事を理解して唐突に気持ちが萎んで行った。
「そんな分かりきったことまでぐだぐだ喋ってんじゃねぇよ」と神田が悪態をついたがそれに言い返すような気持ちはこれっぽっちも残っていなかった。
もし、中央府にAKUMAでないと分かっているあの子が連れて行ってしまうとして、どうなってしまうんだろう。敵として認識されてきっと尋問もされる、最後には実験に使われてしまうんだろうか。きっと近からず遠からず、そんなところだろう。
あぁだからリナリーはあんな顔をしていたのかと申し訳なくなってしまう。僕だけのためにこんな話させてしまうだなんて、嫌な思い出だろうに。
グッと胸が苦しくなったが続くコムイさんの言葉でそれも飛んでしまった。


「ま、でももみ消すけどね!」


「…………は?」


これには他に話を聞いていた面々も驚いたのか、リナリーが驚いた表情でコムイさんを見上げた。「え、でも…」とどこか期待の混じったような声で兄の言葉の続きをまっていた。


「ヘブ君が言ったんだろう、“イノセンス”って」


「え!?じゃ、じゃあエクソシストだったんですか!?」


「可能性は半々、かなぁ」


どこから取り出したのか刀を片手にしたコムイさんになんでそんなものを…と思うがあれ?とそれをもう一度見直す。似ていたからか一瞬は神田のイノセンスだと思ったが明らかに作りが異なっていた。見たことのなかったそれだったが、いや…ともっとじっと見つめればあの時あの場にあったように思う。
半々とはどういう事だろうか。その思考を読んだかのようにコムイさんは答えをくれる。


「ヘブラスカは“イノセンス、かもしれない”。そういったそうだよ」


ね?とリナリーを覗き込むようにして問いかけると、だいぶ顔色のよくなったリナリーがええ、としっかりとした声で返し続ける。


「イノセンスに似ている、そういっていたわ」


「うーん、気になる言い方をするなぁヘブ君も。…それでも十分なんだけど、加えて、」


「俺たち的にも中央府に連れていかれちゃ困るんさ」


突然肩に腕を回され、のしっとラビが乗っかってくる。いつの間に復活していたんだろうと思うもその言葉にほうが気になってしまった。
ラビ達、ということはブックマンとして困るということ。それは裏歴史に関わるという事なんだろうか。それを敢えて口にはしないがきっとそうなんだろう。ラビも無難な事しか言わなかった。


「あーんな派手な登場しておいて中央府になんて連れてかれちゃどうなっちまうか分かりゃしない。あいつの正体もここで起こったことも全部真実はわからないままさ」


それじゃつまんないだろー、とぐりぐりと頭を思いっきりわしゃわしゃとされてやめてください!と抗議したがかえって酷くぐちゃぐちゃにされただけだった。
つまらないって…とも思ったがきっとラビなりに言葉を選んだ結果なのだろうととくにはつっこまなかった。
それに日本人だなんてね…と独りコムイさんが呟いた言葉は、腕に抱かれていたリナリーと神田しか拾わなかった。僕には、届いていなかった。


 - return - 

投稿日:2017/0428
  更新日:2017/0428