輝く者が天より墜ちた

寒い、これに尽きる。
横になってしまってから後悔した、体が触れたところから凍ってしまうような冷たさで一気に体温を奪われてしまったのだ。それでもずっと同じ体制で座っていると体が軋んで痛かったし、なにより腕に巻き付いている鎖が重たかった。肉が裂けたままのせいで下手に身じろぎでもすれば悪化してしまうのが目に見えていたし、もう痛いのは散々だ。
色々と考えなくてはと思ってはいたのだが結局はそうやって現状を少しでも良くしようという方に頭を持っていかれて、結局はこのざま。
歯が閉じたままではいられず勝手にガチガチと音を鳴らし、この寒さを表現しているようだ。本当に寒いとこうなるんだと新しい発見をした。寒がりな方ではあったのだがここまでなったのは初めてで本気でこのまま凍って死ぬんじゃないかなんて思ってしまう。

あぁ、寒い。
こんな時、兄がいたらまずはすぐに寒がっている私に気が付いてくれて、マフラーなんかをグルグル巻いてくれて。それを見て、なんだ寒いのか?なんて少し馬鹿にしたように笑いながら今度は手袋を投げつけられて。
私はマフラーも手袋ももうつけているから、自分のぶんの上からそれらをつけて、着ぶくれてしまう。そんな姿を見て兄がまた笑う。小さい頃はそんな兄の手を取って、腕にくっついて、じゃあ私があっためてあげるなんて言ってじゃれながら帰った記憶がある。

なんだかもう、そんな兄に、兄達には会えない気がする。

どうしてだかわからないが漠然とそう思ってしまって、だんだんとそれが確信に近いものに変わっていく。どうしてこんな風に思ってしまうんだろう、そしてどうして私は半ば諦めてしまっているんだろう。もう会えないんだと、納得しかけているんだろう。それなのに涙も絶望もできないのはこれが単なる嫌な予感というだけで、本当の事実ではないからだろうか。

あまりにも寒いからこんなこと思うんだろうか、本当に寒い。息を吐いてみてもその息は白いのかどうかすら、暗闇のせいでわからない。白いんだろうな、だってこんなに寒い。あぁ、今私はどんな顔をしているんだろう。
笑い方が神父さんに似ていると言われたときに、口では嫌だなんて言ってしまったけれど本当は嬉しくて照れ臭かった。
あんな笑い方をもうずっとしていない気がする。
そんなはずないのに、この前だって兄と買い物に行った時に内緒でアイスを買って、兄が変なことを言ったから大笑いしたのに。その前にだって、兄が眼鏡をしたままうたた寝していたせいで顔におかしな跡が付いているのを見て、笑ったのに。私が兄の友人に自己紹介をしようとして緊張して噛んでしまったときだって、笑いあったのに。

神父さんの笑った顔が懐かしい。
最後があんなことになってしまったけれど、それ以上にいつだって笑って笑って、たまに怒ってまた笑って。そんな神父さんだったから簡単に笑う顔を思い出せるのに、その笑顔が遠くて切なかった。あの日の、神父さんの最後の日のことを夢に見てしまうことだって多かった。そのたびに兄がそばで笑ってくれた、だから私も笑った。

でも、そうやって笑いあった日が離れていってしまっている気がした。俗に言う、これらが走馬灯だったと知ったのはだいぶ後だったがこの時はただただ寒くて、それだけだった。


2014.6.6



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投稿日:2017/0428
  更新日:2017/0428