罪の誘惑
「今回のこれは…町の異常と関係ありそうではあるんですが」「なんだ」
「ペヨーテに睡眠作用はないので…幻覚に関しては間違いないんですけれど…」
店主が全く口を開かなくなって、結局はルイーズが本部に連絡を取って烏羽玉の事に関して詳細を調べさせた。その結果に舌打ちを零しながらじゃあどうして村の連中は眠ったままなのだと頭が痛くなった。
事件を一度整理しようとルイーズが書類を広げだしたので確かに一度頭から考え直すことも必要かと息をつく。隣の部屋の餓鬼にはゴーレムを付けているし、目の前で縛られている店主に話を聞かれたところで全く持って困らない。そろそろこいつには迎えが来るだろう、牢へのだが。
「まず、現場はあの山の洞窟。岩肌が突然鏡の様に変化したと思ったら淡く光りながら見るものの望みを映したというのが最初に教団が捉えた情報です」
「最初に眠りはじめたのもその証言をした村人の男だったな」
「えぇ、彼が眠りについてから既に一か月が過ぎています」
洞窟で幻を見て、そうして暫くそこに通い詰めるようになると洞窟の入口付近で眠りこけた状態で発見される。健康状態で体に異常がないのにも関わらず被害者は全員誰一人として目覚めていない。挙句ファインダーの一人は幻覚に囚われて正気を失っている。
そこにあの洞窟の近くの小屋で飲食店をやっていた男が使用していたペヨーテと呼ばれる幻覚作用のある植物。これで解決になってくれればただの人災として終わって無駄足だったがまだ眠りから覚めないという点が引っ掛かる。肝心の店主は知らないの一点張り。
「やっぱりこいつに吐かせるのが早いな」
「ひっ…」
「か、神田さん抜刀は抑えてください」
室内ですから、と収めてくるルイーズに舌打ちを零しつつ目を見開いてガタガタと震えている店主を一睨みするだけに留めておけばびくりと大げさなくらいに体を震わせて俯いてしまった。どうあっても口は開かないらしい。
それか、本当になにも知らないのか。
「おい」
「………」
「おまえ、殺されたくないんだったらどうしてあんな植物を食事に混ぜていたのかだけでも吐いた方がいいぞ」
「か、神田さん…」
困った様に声を漏らすルイーズだったが今度は止めてはこなかった。場合によっては十分に死罪もありうるほどだというのを店主自身も理解はしているのかバッと顔を上げて魚の様にはくはくと口を開閉し始めた。それを認めて広げた書類の一つを手に取りながら男が口を開くのを待つ。あまり気は長くないのでそれまでに男が話さないのであれば多少は斬ってもいいだろうと六幻をいつでも抜ける様に構えながら。
部屋の中に静けさが満ちる。紙を捲る微弱な音と暖炉の火がはじける音だけが嫌に耳につくほどに部屋から音が失せ、代わりに重たい空気が満ちた。これはかかるか、とまた苛立ちを覚えたがしかし、その静寂に耐えられなかったのか男はぽつりぽつりと落としていくように口から言葉を零していった。
「き、客が、来るようになる、と、思って」
なんともくだらない理由だった。そのせいで深く眉間に皺が寄ってしまったが店主は顔を俯かせているため気が付いていないのか震える声でそのくだらない話を続けた。
儲けが少なくこれでは店をやっていけなかった、どうしても客に来てほしかった、あれを混ぜればまた人が来てくれると思った。などなど。斬ってやろうかと思った、本気で。
「また、ということは以前はあの店も繁盛を?」
「そ、そりゃ…親父があの店をやってた頃なんかしょっちゅう町の連中があの店に…そうだ、薄情な村の連中が全部悪いんだ、足場が悪いだ不便だなんだと文句ばかり言いやがって、どれだけうちの店が村のためにあんな場所で苦労していたか分かっている癖に、なんだってあんな」
ルイーズの質問に唐突に饒舌になった店主の眼はどこか虚ろで焦点が定まっていなかった。それを見て、ああ、こいつもこいつであの植物を使っていたのかと予想する。病院であったファインダーに近しいものを感じたので恐らくは間違いではないだろう。クソが、証人がすでにまともではないのでは本当に話にならない。こいつ自身がもう既に現と幻像の境界が分からなくなっている状態では言質をとることは難しいだろう。せめてあの植物をどこで入手したのかさえ分かればまた変わってくるのだがそれもこの状態では無理だ。
「ああ、ああ、そうだ、あんな場所に店が出来ちまったのがそもそもよくなかったんだ、なんでこの村の連中がよりにもよってあんな、あんな、どうして俺が」
「もういい、黙らせるぞ」
「え、あ、ちょ」
ルイーズの制止も聞かずに叩いてくれと言わんばかりにこちらに晒されていた項目掛けて腕を振り下ろした。
投稿日:2017/0502
更新日:2017/0502