死海に揺蕩う

結果として、今回の件は不運に不運が重なって、という結論で民間人に対する情報開示は一端はまとまった。町の医者がヤブだろうがレストラン二軒と繋がっていようが被害が一つの町に留まっていた不可解が残ろうが、それは教団が関わるような問題ではない。何度も洞窟まで来ていた理由は無意識にも幻覚作用をもたらす薬物を求めてだろうとあの店と、隣町の店に訪れようとした結果、閉塞的空間で幻覚が膨張したのだろうという予測を科学班は立てたらしい。根本からして教団が関わる問題ではなく警察を早々に呼んで件の隣町のレストランの店主とやらはお縄についた。こちらの町の医者に関しては協力者(ブローカー)の可能性も捨てきれないという事で一旦身元は教団預かりになったらしいがどちらにしても未遂に終わっているため俺の出る幕ではない。一つ前の任務も空振りでいい加減もっとちゃんと調査してからエクソシストの派遣を依頼しろと思わなくもなかったがそれを口にするのはやめておいた。
昏睡状態に関しての餓鬼の発言は、俺の中だけに留めている。事件としては医者を拘束し問題の薬物を混入させているレストランを取り押さえただけでそれ以上被害者が出ることも無く、昏睡に陥っていた町の人間も目が覚めたというのが大きい。加えて病院の中から餓鬼の言っていたナナカマドがどうしてか見つかった時点で医者が意図してそうしていたということも判明し、同時に餓鬼が言っていたことが事実だったのだという裏付けにもなった。どう考えてもこんな餓鬼が知っていていい情報でなかったことは確かだ。洞窟前まで走って、黒く変色した雪を持ち帰ってきたルイーズには流石に一部だけは話したが教団にもナナカマドがどうだとかいう話はしていない。報告としては医者が何らかの方法で昏睡を促していたとし、それ以上は特にしていない。まあ、医者に関してはそのレストラン二軒と繋がっており、ペヨーテを横流ししていたという情報が取れたのでその罪状だけで十分豚箱にぶち込む口実ができたというのもあり、無駄に報告を増やしてこちらの手間になるよりはよかった。
どちらにしろ医者が口を割るか、それか教団のファインダーの犠牲者であるあの男が教団で科学班のサンプルになるかでそのうちどうせ判明するだろう。どうせ遅いか早いかの問題である上AKUMAに関係すらしていないのに俺にこれ以上労力をかけるな、そういう思いで俺は口を閉じている。

既に報告をしてから一週間がたち、流石に顔色が戻ってきた餓鬼ではあるがあれ以来やはり会話はない。あれ以上聞く気もなかったし知りたくもないという思いは変わらず、無駄に時間を過ごすしかない現状にうんざりしていた。それもこれも移動の命令が出ないのだ。恐らくはコムイの野郎が噛んでいるのは間違いなく、この時間にでも“話せ”ということなんだと嫌でも理解させられた。それくらいにはここの滞在は無駄に長く、ルイーズすらも首を傾げているくらいだ。
だから仕方が無く、本当にいやいやであるが重い腰を上げたのだ。しかし絶対にあいつからの話は聞かねえと決意はした。もう本当にこりごりだ、他の奴にでも押し付けろと餓鬼が日本語しか話せないことを棚に上げてそう思った。



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投稿日:2017/0502
  更新日:2017/0502