死海に揺蕩う

教団から連絡があったとルイーズから言われたのはもういい加減この町から勝手に移動してやろうかと思い始めた頃だった。


「おせぇ」


『いやあ、ごめんね神田くん』


あはははは、なんて声が割れるくらいの音声で笑うコムイに電話を切ってやろうかと思ったが舌打ち一つで済ませたのは単にさっさとこの何もない場所から去りたかったのと、あの餓鬼の子守がうんざりだったからだ。普段ならばこれだけ次の任務まで間が空くのであれば必ず教団に戻されていたのにもかかわらず、あの餓鬼がいるだけでこの扱いである。別に教団に戻りたかった訳では全くもってないのだが、それがあの餓鬼のせいとなると腹が立つ。これだけこの場に留められたのだから俺は間違いなく次の任務になる、ルイーズは恐らく報告で戻るだろうが恐らくそれにあの餓鬼もくっつけてとなるだろう。とにかく俺にAKUMAを斬らせろ、いい加減まともな任務に行かせろ。
常時ならばべらべらと要らないことを話してそれにぶちぎれてやっと本題に入るコムイが、それをしない当たりからしていい予感はしていないのだが。


「殺すことになったか」


『、君は本当に包み隠さないというか…僕びっくりするよいっつも』


疲労が隠しきれていない声にイラッとしつつ、相当参っているのだと察してまたムカついた。余計なものを懐に入れようとなんてするからそうなるんだ、根っからのお人好しもここまでくると呆れてくるが仮にも俺の上に立つ立場のこいつがこうで、俺に火の粉がかかるのが心底嫌なのだ。現に相当面倒を喰う羽目になったのだ、いい加減にしろと言ってやりたいがその厄介によって俺も少なからず生かされているのも理解できているのでそれも口にはしなかった。それこそそんなことをこいつに指摘したって辞めないのだから言っても無駄だ。ただ、肝心の時に決断が下せるのなら文句は言わないでおこう。


『中央府は彼女をエクソシストとしてとりあえずは迎え入れるそうだ。けれど今の状態ではエクソシストとして戦えない、だからある程度こちらで戦えるかを判断して、それから連れていくことになったよ』


「使えるようになるまで待たせるのか」


『待ってくれるらしいよ、怪しいもんだけどね』


引っ掛かる話につい言及してしまう。あの中央があんな事を起こした得体のしれない餓鬼を一時とはいえ放置することを許した。しかもコムイの言い方からして戦力として鍛え、エクソシストとして使うことまで認め、一任したということだ。今すぐにでも中央に連れて来いと言ったような態度だったと聞いていたのだがそれが一変している。まあそこにこぎつけるまでにここまで連絡がなかったあたりからして相当揉めたのはたしかだろうが、そもそも今回連れ出したことすら許されたというのだろうか。


『神田君が斬らないでいて、且つ逃げてもないってことで敵意はないと判断されたよ、ありがとう』


「こっちに中央が来なかったのは」


『はは、流石にそれは僕の仕事だしね』


成程引き留めたと。口八丁で言いくるめたのかなにか提示したのは分からないが俺の考えを見透かすようにそう答えを寄越すコムイの疲れた笑いを聞いて今度こそ呆れ返った。戦争なのだ、斬り捨てればよかったものを。


「精々あとから後悔しないこった」


『手厳しいなあ』


可笑しそうにくすくすと笑うコムイに次の任務を聞こうとして、しかしその前にあ、と声を零したので黙って促せばまた馬鹿な事を言い始めたので耐えきれず受話器を下ろしてしまった。
さっさと失脚でもすればいい、中央に対して随分と無茶な要求を押し通したらしいコムイを救いようもない馬鹿だと思ってどっと疲れを感じた。



 - return - 

投稿日:2017/0502
  更新日:2017/0502