魚の内臓


あからさまな程に、教団とのコネクションとそうして得られるであろう情報を期待してる口ぶりで、ただではイノセンスを回収できそうにはなかった。エクソシストを出せと言うくらいなので教団の事を把握しているのだと思っていたが、知ってはいても実態に関してはよく知りえていなかったらしい。いかにイノセンスをこの場所に置いておくことが危険であるかを話したのだが、どうやら信じてもらえていないようで右に左に流されてしまう。またこちらも同じように公爵への“御礼”に関しては流させてもらっていたのでお相子なのかもしれないが。求められているのが金銭なのであればまだ対応できたのかもしれないが、生憎な事に相手が求めているのは教団との繋がりだ。そうなってくると一からこの戦争の話をする必要があるし、そのうえで協力をしてもらわなければならない。そもそもスポンサーになりたいというのであれば順序というものがあるし、エクソシストが勝手にスポンサー受け入れの判断をしていいわけもない。


「ごめんね、わからなかったでしょう?」


実は最初に公爵のほうから螢にも声をかけていただが、自分に話しかけられていると思っていなかったのだろう、見事なまでに無視してしまっていた。すこし笑ってしまいそうになりながら、彼女は英語が分からかないのだと正直に伝えれば相手も気を悪くすることはなかったのでまったく問題はなかった。隣に座りながらも上の空でいた螢にこちらの話は分かっていなかっただろうと、屋敷からでてそう声をかければ首を傾げながら頷いてくれた。
朗らかな天気、活気あふれる街。体調も戻ってきた様子の螢の幼さの混じる動きに、微笑ましくて口角が上がってしまった。しかし、反面に事態はあまりよくはない。もしあれが本物のイノセンスだったとしてAKUMAがそれに気が付いてしまったら。AKUMAがこの街にいないとは限らないのだ。いつもの任務以上に気を張らなくてはならない。活気ある街だからこそ、人が多いからこそ尚更に。


「お疲れ様です、いかがでした?」


角を二つ曲がり、これから暫くの宿であるホテルのある通りに出る。街路樹の下でポツンと一人立ってこちらを待っていたのは今回の情報を教団に持ってきたファインダーのナバイアだ。あの公爵に何度か直談判してくれたらしいが何があったのか、出禁にされたらしい。詳細は語ってもらえなかったが気まずそうにしていたので話したくはないのだろうと深くは聞くことをしなかった。
任務で一緒になるのは初めてだが物凄く気をつかってくれているのか、どこかでショッピングでもしながら時間を潰してもらうよう言っていたのにも関わらず、別れた場所から移動していないのをみて、ああやっぱりと思った。


「だめだったわ、噂の鉱石がどこにあるのかすら話してもらえなかった」


「エクソシスト様でもだなんて…」


様々な理由で、様々な考えで教団のファインダーに所属している人が多くいる。例えば家族をAKUMAに殺されたから、例えばエクソシストになりたかったから、例えば神様を信じているから。その理由に起因してエクソシストへの態度は千差万別である。気味悪がったり恨まれたり、讃えられたり。恐らく彼は、私達エクソシストを神様のように思ってくれているのだ。言葉からは敬意と畏怖を、態度からは人に向けるべきではない類の崇拝に似た信念を感じる。それに思う部分があることは確かだが、だからと言ってその思想に言及をしていいわけではないのだと私はこの服を纏ってから痛い程思い知っていた。それでも今、その言葉が螢に理解できない事だけが少しだけだが救いのような気持ちになったのも確かだった。
低い鐘の音がゴーン、ゴーンと空気を揺らした。音の方向に視線を向けると教会の鐘の音だったらしく、鐘の真下にある時計が丁度17時を指していた。そろそろ街頭にも灯りがつき始めるだろう、自分の影の長さを見て予定を頭の中で整理する。本当は公爵家の周囲を見張っていたいが外周が大きいため何か異変があったとしてもすぐに気が付けない可能性が高い。それに実際その鉱石がどこに保管されているのかすら把握できていないので、下手にローズクロスを付けている私が近くにいてはAKUMAを刺激してしまう場合だってある。どちらにしろ、公爵家には明日も行く約束は取り付けてあるのだ。万が一その公爵に夜間に見つかりでもしたら目も当てられない。


「とりあえず今日は大人しくしていましょう」


「ではホテルに戻りますか?」


「ええ」


「私はどうしたらいいでしょう」


その質問についに苦笑してしまいながら、「ゆっくり休んで」と伝えれば声を震わせて感謝を述べながら頭を下げられてしまった。ちら、と螢の顔を伺ってみたが彼女の顔はこちらにすら向いておらず、通りを歩いている人たちをボンヤリと眺めていたようだった。




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投稿日:2020/0531
  更新日:2020/0531