暮靄に吼える犬
俺もあいつ嫌だけど一緒に行くぞ!とレイルスの背中によじ登って張り付いたチョッパーが鼻息荒く気合を入れている。それを見たウソップがなんだなんだと声をかけてきたため、レイルスがシーザーに話を聞きに行く予定だと言うことが全員に伝わった。レイルスがやりにくそうに鼻をしわくちゃにする。
「おーしフランキー!標的は今どうしてる!」
「まだサンジが出した飯うまそうに食ってるぜ」
フランキーが窓から外を見てそう伝えればウソップが「あいつ味わって食ってるな」とちょっと萎びた声を出した。
「遺伝子のことを聞くの?」
「それはチョッパーが見つけてきてくれてた資料で大方わかった」
「え、何それチョッパーお手柄じゃない」
「やるなぁ」
「そんなに褒めたって嬉しくねーぞこのやろが!!」
レイルスの背中に張り付いたままデレデレと上機嫌に花すら飛ばし始めたチョッパーに一味は手放しで賞賛を送る。ゾロとナミはこれで貸し一つだな、と内心でニヤリと笑う。レイルスがごね出したらこれを盾にいくらでもふっかけられるだろうなんて思っていた。実際レイルスは義理堅く、そうした恩をしっかり返したがる質である。海賊相手に喧嘩をふっかけてきたレイルスが悪い、ゾロは子供が見たら泣き叫ぶであろう顔で笑みを深めた。不穏な空気を感じたのかレイルスはブルリと背筋を粟立たせる。
「じゃあ何を聞くんだ?あいつが素直に話すとは思えないが……」
「どこに私のDNA売り捌いたか」
「ヨホホホ、確かにそれがわからなければ今後どうすればいいかわからないですからね」
明け透けなレイルスの言い回しに、フランキーが嫌そうに顔を顰める。なんだってそんな胸糞悪いことになっているんだと何度目かの悪態をつく。ブルックの言葉に頷きながらもレイルスの顔は険しいままだ。その様子を見ていたゾロは「どんだけあいつが嫌なんだよ」と呆れながら問いかける。ぐいぐいと眉間を揉みながら、レイルスは口を開いた。
「実験内容もそうだけど、資料とかデータの書き方って結構人間性って出るんだよ」
「へぇ、んでシーザーはどんなやつなんだ?」
「私が嫌いなやつ」
「はは、そりゃいい」
バッサリとしたレイルスの言いように、ゾロが快活に笑った。
「そんなに嫌ならほっときゃいいじゃねーか」
ルフィが鼻に指を突っ込みながら無責任なことを言う。ルフィもシーザーをサニー号に乗せておくのを我慢している。作戦に必要だと言うから乗せているが本当ならもう顔も見たくないのだ。
「そうは言うがなぁ、こればっかりはあいつしか知らないだろうしな」
「うし、明日にする」
フランキーの言葉に何か決意ができたのか、レイルスはぽん、と膝を叩いてあっけらかんと問題を先送りにした。ウソップが「意外だな」とレイルスをジロジロと見る。決めたら即行動、今を生きる!といったルフィに近い人間性を持っているとばかり思っていたが意外にもこういう人間臭いところもあるらしい。ウソップは少し親近感を抱いた。
「なんでだ?」
「こういうときに無理に話聞きに行っても話切り上げたくて殴りそう」
「さよなら親近感」
いやだ怖い、シクシクとウソップは己を抱きしめて泣いたふりをして、サンジに「キモイぞ」と言われて余計に傷ついた。ローはそう言いつつもそう簡単に手が出るタイプじゃないだろうと思ったが時間も時間だ、レイルスは頭を稼働させると余計に寝ないことを知っていたため「じゃあ寝ろ」とレイルスに釘を刺した。
「寝ろって……まだこの時間だぞ?餓鬼でも寝ねぇよ」
実際モモの助もまだ起きている。「エイヤー!」と彼の掛け声が甲板から聞こえているのでまだまだ眠気も遠いようだ。
「そいつに寝る前3時間は脳みそを使わせるな」
「寝る前にご飯食べるなじゃなくて?」
なんだそれは、と不思議な言い回しにロビンが首を傾げる。
「頭を使った分だけこいつは寝ない……入眠まで3時間かかる」
3時間後には確かに深夜近くなる。不眠の話を聞いていたチョッパーとサンジは内心で納得して、しかし、とレイルスを見る。
脳みそを使わせるな、などと無茶を言う。常に頭をフル回転させているようなレイルスだ。短い付き合いでも十分すぎるほどレイルスの思考能力を知っていた面々は無理だろ、と顔にセリフを貼り付けた。ローは意味深に頷いて口を開く。
「首を切り落として暗闇に放り込めば3時間で寝る」
「そんなことしたの?」
「さっきから物騒なのよあんた!!ロビンはワクワクした顔しない!」
死んだ生首と一緒に眠るのはゴメンだが、生きている生首ならば心が踊る。ロビンは期待した目でレイルスを見つめた。そうまでしないと寝ないのか、とチョッパーは絶句している。チョッパーが医務室に行くと、必ず目覚めていたレイルス。まだ船に慣れないのかと様子を見ていた過去を思い出す。チョッパーにとっては居心地がいいレイルスの体温も、自律神経の乱れからだと言われればどうして2年前に気がつけなかったのかと自責の念に捕らわれそうになるも、そんなことをしても意味がないと言うのもわかりきっていたため後悔の気持ちを飲み込んだ。
「じゃあさっさとレイルスは女部屋いくわよ」
「寝れないってこんな早く」
「生首と寝たくないのよ!」
「あら、私はそれでもいいけど」
ナミに引っ張られ、ロビンに背中を押されるレイルスは「冗談でしょ?」と色々な意味を含め笑っていた顔を引っ込めた。何せナミが真顔だったのだ。レイルスはヒクリと頬を引き攣らせた。
投稿日:2022/0508
更新日:2022/0508