猩猩緋の鈴に続け


 悠々とグリーンビットにたどり着いた面々は、島の異様な光景に息をのむ。海は闘魚にやられたのであろう、船の残骸が多くみられ濃霧の向こうには巨大化した植物が密集している。生態系はどうなっているんだとレイルスは呆然と景色を見渡す。
「野生丸出しの森〜!?」
「……薔薇って木じゃなかった?」
「そうね、木だけどあんなに立派に一輪だけとなると薔薇じゃないのかも」
 高い位置にドーンと咲いている真っ赤な薔薇を見てついぼやいたレイルスにロビンも深刻そうに頷く。その他の植物も揃って巨大化しており、レイルスは本気で地質調査が必要なのではと数時間前にカフェの店主に話した内容を思い出して顔を顰める。見えるだけでもカボチャらしきものや、キノコらしきものもある。ああも巨大化する品種はないため、らしきもので濁したが見てくれは明らかにカボチャにキノコ。レイルスはぐりぐりと再びこめかみを抑えた。改めて森を見上げる。
「食べたら死にそう」
「そこじゃねーだろ!なんだよこの巨大な植物群!!」
 頭の中で巨大性についてはひたすら考察したため、口に出さなかったレイルスだがそれにウソップがツッコミを入れる。確かに毒々しいカラーリングばかりだが。毒ガスとか出してないよなとウソップはシーザーのこともあり一歩後ずさる。
「おーいジョーカー俺だ!引き取ってくれぇ!」
「慌てるな、あそこが約束の南東のビーチ……15時にお前をあの場所に放り出す」
 ローが刀で指した先に、大蛇のようにうねる薔薇の蔦とやっぱり大きな花弁。自重で折れないあたり、蔦も相当頑丈なのだろう。大樹といっても差し支えないほどの幹の太さだ。その分棘も巨大化しているのを見たレイルスはあの大きさでは外敵から身を守れないだろうと少し冷静になった頭で思考する。反対側に目を向けていたウソップがそこに巨大な海軍の軍艦を見つけ、驚愕の声を上げる。実際軍艦は島に乗り上げたというよりは、跳躍して島に突っ込んだと表現した方がいいほどに綺麗に陸地に上がっている。
「植物の傷がまだ新しい、あの船はついさっきここへ到着したようね……船体も思ったほど損傷してないわ」
「あの闘魚の群れの中を進んで平気だったのか……」
「ああ、闘魚がいるから乗り上げたのか」
 ウソップの言葉にレイルスがなるほど、と声を上げる。「どういうことだ?」とウソップに聞かれたレイルスは口を開く。
「普通に停めてたらああなるから、あえて乗り上げたんでしょ」
 指差す先には海の藻屑と化している大量の船の残骸。サニー号でもしここまで来ていたらと思うと想像してしまったウソップは「ヒ」と短い断末を上げてぶっ倒れた。刺激が強すぎたようである。
「海兵たちがここに辿り着くのも時間の問題ね」
「でぇええ〜!?取引がバレてるのか!?それは聞いてねぇぞ!」
「馬鹿科学者お前声でっけぇよ!」
「俺は賞金首だ!ボスであるジョーカーが七武海をやめた今!俺を守る法律は何にもない!!海兵のいる島に錠付きで放り出されたら俺はァ!!」
 飛び起きたウソップが凄まじい勢いでシーザーをぶん殴るも、それ以上にシーザーには現状が耐えられないらしい。レイルスは何を今更法に守って貰えるつもりでいるんだこいつは、とシーザーを白けた目で見てしまう。そのままローにも食ってかかるシーザーの声はどんどん大きくなっていてレイルスは右手で右耳を塞いだ。そんなシーザーを綺麗に無視してローはロビンとウソップに向き直る。
「あと15分だ、お前ら狙撃と諜報で俺の援護を頼む……誰が潜んでいるかわからねぇ、異常があったらすぐに連絡を」
「わかったわ」
「ちょっと待て、レイルスはどうすんだよ!」
「ドフラミンゴ来るなら待つけど」
「それがいっちゃんダメだろアホか!」
 平手でパシンと頭を叩かれたレイルスは大袈裟に頭を揺らして「あて」と痛がるふりをする。ウソップがいかにシーザーに容赦をしていないのかがわかる弱々しい音にロビンがにっこりと笑った。
「鉱屋、お前もそいつらと行け」
「なんで言う事聞くと思ってんの」
「バラすぞ」
「卑怯者!」
 あーんと泣いたふりをするレイルスにいやなんだよお前ら仲良しかよ、と内心でウソップがぼやく。ハートの船上での日常会話だと知ったら「物騒すぎんだろ!」と驚くことになるのだが、それはまだ先の話である。こんな場所でパンクハザードの時のように足でもとられてしまえば流石のレイルスも生きた心地がしない。これからどうも自身を狙っているらしい敵が来るのであれば尚更。加えて海兵もいるとなればレイルスもすごすごとローの言葉に従う。ローはここまで見越した上でレイルスを連れてくる判断をしていたので今回の件はローが一枚上手だった。
 しかしレイルス、内心ではどっかで抜け出して戻ってくるかと企んでいた。魂胆が顔に出ていたので、ロビンとローは顔を合わせて頷き合う。おいこのバカから目を離すなよ、大丈夫しっかりと見張っておくわ。ローが麦わらの一味にみなまで言わなくても意思が通じるクルーがいてよかったと心底思った瞬間である。

 - return - 

投稿日:2022/0625
  更新日:2022/0625