猩猩緋の鈴に続け

 森の中をスタスタと進むロビンとレイルスにウソップは信じられないものを見る目を向けて2人を止める。
「危険な森だ!待て!俺から離れるな!!」
「まあ、頼もしいこと言ってくれるのねウソップ」
 完全にへっぴり腰になっているウソップにキレキレのロビンである。思わず吹き出したレイルスは「よろしく〜」と呑気に続けた。森の中に入れば植物の異様さが余計に目につく。植物は育つ環境によって大きく特性を変えるものではあるが、一見してなんの変哲もない無人島でこうも巨大化する利点がレイルスには見当がつかない。自然の理に反した育ち方は、明らかに手が加えられたものだ。それか、あまり考えたくはないが悪魔の実の能力か。かつて懸念したようにこういう事象にぶつかると悪魔の実が原因なのではと考えがちになってしまっているためレイルスはかぶりを振ってその思考を振り払う。
 ちょうどその時、レイルスとロビンの目に人影が映る。歩みを止めた2人に気がつかなかったウソップがロビンにぶつかった。
「急に止まんなよロビ」
「誰だ!麦わらの一味か!!」
「あぁ〜!!バレた〜!」
「声でっか」
 シー、と人差し指を立てたロビンが、その指先を前方へ向けながら身をかがめる。青と紫のボーダー模様という奇抜な色合いのキノコの群生先に数名の男がいる。台詞からも推察できた通り、海兵らしい男たちは銃を構えて警戒している。しかし、どうやらこちらに気が付いている様子ではない。棒立ちで突っ立ったままのウソップ手刀で膝カックンを喰らわせたレイルスは崩れ落ちるウソップを横目に小声でロビンへと話しかける。
「ドフラミンゴの部下と海兵って現時点で戦うメリットある?」
「七武海を抜けたから敵対するのはあり得るけれど……シーザーの奪還も済んでいないのにドフラミンゴ側から海兵に手を出すのは愚策だわ」
「ローと海兵ぶつけて漁夫の利狙うのが定石だもんね」
 目前のドット柄の薔薇を手で押しやりながらレイルスはじっと海兵を見つめる。2人の様子に地面に膝を強打して悶えていたウソップも疑念で顔を上げて首を傾げる。
「……あいつら誰と話してるんだ?」
「私たちが島に来ることを承知のようね」
「おまいたちはいい人れすか、悪い人れすか?」
 舌足らずな言葉遣い。先ほど闘魚を引っ張り上げていた謎の人物たちと同じようなその言葉にレイルスの右眉がピクリと上がる。無人島であるこの島に今日わざわざいるということを考えると、ドフラミンゴの仲間、海軍のいずれかの所属下にいる可能性が一番高い。しかし様子から見て海兵でもなく、現時点での敵対理由のないドフラミンゴの仲間でもなさそうだ。全く違う何者かがこの島にいる?人の手を加えられているだろう植物を見るに住人がいると考えるのが一番妥当か、とレイルスは予想を立てた。
「俺たちは市民を守る海兵だ、いい人に決まっている!」
「じゃあその武器をくらさい!」
「武器は渡せない!これから任務がある!!」
 しかし、一向に海兵が話している何者かの姿が見えない。声はそんなに遠いわけではないのにどういうことか。レイルスは薔薇からそっと手を離してジャケットの中身を確認する。ジッパーを少し下げて数本、取り出したのは試験管。ガラス管の中で無色透明の液体が7割ほど揺れていた。
「なんだよそれ」
「ホルマリン」
「殺意を包め!」
 小声で問いかけてきたウソップにレイルスが試験管を揺すって答える。確かに毒であることは変わりないが、分量さえ間違わなければちゃんと相手を卒倒させることができるのでレイルスは不服そうに「眠らせるだけだよ」と付け加える。この島の住人なのであれば下手に刺激せず穏便に済ませたい、そう思っているレイルスであるが手段が武力行使であることには変わりないのでやはり性格が表れていた。
 ドーン!海兵の1人が空に向かって威嚇射撃をした。何者かもわからない相手に対してそれは過剰防衛だろう。突然響いた銃声にウソップが「きゃ」とレイルスの背中に張り付いた。音に驚いた野生の鳥がざわめき、空へと飛んでいく音が辺りを包む。
「おい!お前マントは」
「え!?」
「うぉ!俺の銃が!!」
 海兵が慌て出したと思ったら、みるみるうちに身ぐるみを剥がされていく。驚きの光景に3人はギョッと目を剥く。結果として武器だけと言わず下着と靴だけの格好になった海兵達がパニックからか大量の汗をかいて走って逃げ出していくのを驚きのまま見送ることとなった。それほどまでに一瞬の出来事だったのだ。舌ったらずな声は未だ鮮明にその場にとどまっている。
「な、何が起きてんだ」
「早すぎて見えない」
「穏便に済めばいいけど」
 そういって徐に立ち上がったレイルスは先ほどまで海兵達が右往左往していたところまで進んでいく。
「お、おい危ねぇって」
「思い知ったか!悪い大人間!」
「あ!」
 しかし歩いて進むレイルスを追い越してロビンが走り出す。何かを見つけたようで視線が一点からずれない。
「『千紫万紅・花畑』!」
「おお」
 ニョキニョキと地面から、大量の手が生えてくる光景にレイルスは感嘆の声を漏らす。異様な光景ではあるものの、そもそもこの森がイレギュラーの集まりのようなもの、ロビンの腕が生えたところでそこまで異色ではなかった。
「捕まえた!!」
「な、何を!」
「多分、小人!」
「小人」
 これまでなんとか持ち堪えていたレイルスの脳が停止した瞬間だった。

 - return - 

投稿日:2022/0626
  更新日:2022/0626