猩猩緋の鈴へ続け
助けてくれと叫ぶそれ。レイルスはロビンの手に捕らえられた小人をマジマジと見つめてしまう。シルエットはカブトムシのようだが確かにロビンの手に収まるほどの人間がそこにはいて、レイルスは瞼を多めに開閉させる。巨人がいるなら小人もいるのか、そうなのか。諦めたようにレイルスは納得し必死の形相で逃げようとしている小人を見つめる。それでも衝撃は大きいのだろう、小人を凝視したまま身体は完全に停止したままだ。なんなら表情もスコンと抜け落ちているため見る人が見れば「怒ってる?」と思われるような顔になっていた。「あなたが、海兵の身ぐるみを……?」
驚きながらも小人に話しかけるロビン。手の上に乗せられた小人は怯えたように震えている。ウソップが「安全なんだな!?」とロビンへと近寄る。
「小人なんているわけねぇじゃ、ってうぉ〜!!小人いたぁ〜!!」
「多分、まだ近くに仲間の小人がいるはず、さっき声が聞こえたの」
ロビンに捕まったままの小人の視線が不自然に地面へと向けられる。不審に思ったレイルスが倣うようにそちらに視線を向ければ、きらりと何かが反射した。なんだ、と目を細めてそれが小さな銃口だと気がついたレイルスは慌てて声を上げた。
「ウソップ、ロビン!伏せて!」
「麻酔花!」
ロビンの顔、ウソップの鼻の穴に小さな弾薬がぶつかって弾ける。レイルスの顔にもそれは向かっていたが、声を上げると同時に伏せていたレイルスはギリギリそれを回避する。地面に伏せると同時に地面に手を叩きつけたレイルスは倒れる2人を見ながら舌打ちをこぼす。バチバチという錬成の音とともに地面が一気に隆起した。
「わ、わぁ!!」
「なんだこれは〜!!」
ボコボコと不規則に壊れ始める地面に翻弄されたのだろう、小人達がわらわらと姿を表す。足元に転がり出てきた1人を目に捉え、即座に手で捕まえたレイルスは倒れる2人を横目にして立ち上がる。隠れる暇がなかったのだろう、数名の小人がレイルスを恐ろしいものを見る目で見上げてきた。
「そう、動かないで」
「は、はなしてくらさい〜!」
ビーン!と独特な鳴き声で涙を流し始めた手の中の小人をレイルスは見下ろす。青い髪をおさげに結ってカンカン帽を被った女の子。心苦しくはあるが背に腹は変えられないだろう、レイルスはこういうところで躊躇いなく外道になれた。
「2人に手を出したら……わかるよね?」
「ウィットンに何をする気れすか!」
なるべくにっこりと笑ってやれば手元の小人がぶるぶると震え出した。声にもならない悲鳴を上げる様子にやりすぎたか、と少し思うもこればっかりはしょうがないとレイルスも心を鬼にする。
「グリーンビットの住人……だよね?」
ウソップとロビンを見ればどうやら眠らされているようで、いきなり殺すほど物騒ではないと知り少し安堵する。あれ、とレイルスの手に収まったままの小人ウィットンはその手がそんなにぎゅうぎゅうと強く締め付けてこないことに気がついて首を傾げた。
「まあいいや、その2人に何かあったらこの子大変なことになるからね」
「な、どこにいくんれすか!ウィットンを離せ!」
「どこって……海岸の方」
人質にされたー!あれと思っていたウィットンはもしかしたらいい大人間なのかもなんて呑気に思っていた自分を叱咤した。他の小人達もまさか眠っている仲間2人を置き去りにしてウィットンをそのまま連れ去られるなどと思ってもいなかったためガーンと顎を外すほどに驚いた。
「ま、まつれす!」
「仲間を離すれす!」
「自分の仲間はどうするんれすか!?」
「ウィットン〜!!」
「ビーン!みんなに迷惑かけちゃったれす〜!!」
今生の別れの如く嘆く彼らに流石のレイルスもげっそりしてしまうも、ちょうどいいと思ってしまったのも本音だったためレイルスは悠々と海岸――ドフラミンゴが来るであろうビーチへと足を進めたのだった。とんでもない女である。
「離してくらさい〜」
「あの2人の無事が確認できたらね」
片手が塞がってしまうのは都合が悪いと、レイルスは小人をポケットの中に仕舞い込んだ。ウィットンは先ほどレイルスが地面を錬成した際に手首を盛大に捻ってしまっており、力が入らず深めのポケットから体を持ち上げることができずにいた。
「ウィットンだっけ?」
「ビ……」
「この森って小人が育てたの?」
「……そ、そうれす」
「へえすごい」
胸ポケットに入れられているウィットンはその言葉に思わずレイルスの顔を仰ぎ見る。立ち止まって周りを見渡しているレイルスの目がサングラスの下からうっすらと覗いて、その目の色がひまわり畑の色に見えたウィットンはつい口を開いてしまう。
「……どんな植物だって育てられるんれす、私たちは緑の管理者れすから」
「管理者ね……それでもこの枯れた土地でよくここまでやったね」
「へ?」
驚きの声を上げたウィットンにレイルスは目を落とす。キョトンとした顔がこちらを見上げていてつい笑顔を零す。
「見ればわかるよ、特に隣のドレスローザがああいう性質の土地なら予想も立てやすい……ここ、元々は一本も植物の生えないほどの場所だったんじゃないの?」
レイルスのいう通り、長い歴史をかけてここまでの森にしたのはトンタッタ族の努力と、かつてこの地に訪れて育て方を教えてくれたクリケットの知識があったからこそ。元からこの土地は緑が一つもない場所だった。見事その歴史を言い当てたレイルスは続けて言葉を紡ぐ。
「地面を見ても……さっきのキノコのところは湿気が多くなるように日陰なのに加えて枯葉が集められてたし、海岸沿いの薔薇の根元は空気が通りやすいように整備されてたし」
「そ」
「土も場所によっては入れ替えてるのか……それでここまで共生を成り立たせてるんだからすごいよ」
「そそそ」
壊れたラジオのように「そ」を繰り返すウィットンは顔が驚愕に染まっていた。
「あ、あなた……」
「……」
「いい人れすね!!」
キラキラした目で見上げてきた小人にズル、とレイルスの足が薔薇の蔦に引っかかった。
投稿日:2022/0702
更新日:2022/0702