雲から覗く
波に攫われたサニー号はとんでもない太さの蜘蛛の巣に引っかかったことで島の正面に到着した。おあつらえ向きに船着場となっていたそこは入り口のようで、ルフィ以外の全員が罠である可能性を考慮した。レイルスといえば信じられない太さの蜘蛛の巣を凝視しており、一味が船を降りて仲間を探しに行く話を聞いていない。最後まで降りるのを渋ったゾロがそういやこいつはどうするんだと一考する。残していくわけにもいかない、なぜなら仲間でもない女に船を任せられないから。ついでに言うと敵が襲ってくる可能性のある船に怪我人を1人残していくのもどうも後ろ髪が引かれる。それなりに重症な女だ。ゾロがレイルスと残るという手もあるのだが。
「イムちゃん!さぁ俺の胸に飛び込んでおいでぇ〜!!」
「イム〜!冒険いくぞ〜!!」
他の奴らが連れていく気満々である。一つため息をついたゾロはいまだに上を見上げている女を抱えようとし、どこを持っても傷に触ることに気がついて眉を顰めた。足ならいけるか、といまだに海楼石の枷がかけられたままの足をヒョイとまとめて抱き込んだ。肩に座らせるようにして持ち上げられたレイルスはギョッとしてゾロの頭にしがみ付く。ここの人たちは揃いも揃ってどうして声をかけずに抱えてくるのだろう。ついでに馬鹿力ばかりである。触れた足にも包帯の感触があってゾロは眉を顰めた。
「うぉいこらマリモ!丁重に扱え脚に触れるんじゃねぇ!!」
「しょうがねぇだろ血塗れなんだからこいつ!」
「血塗れは語弊がある……」
飛び込んでもらえることを期待して先に降りていたサンジは鼻を膨らませて不服を全力でゾロにぶつける。だったらお前が抱えて降りろよと心から思ったがそれを言うとさらに面倒になりそうだったので賢明なゾロは黙った。再びロビンに上着を貸してもらったレイルスは血塗れなのは右肩ぐらいだともそもそと訂正する。それなりの高さがあったが、ゾロは声すらかけずにあっさりと飛び降りる。ヒ、と短い悲鳴をあげたレイルスは思わず目を瞑るも想像以上に静かな着地に詰めていた息をそっと吐き出した。
「文句あんならテメェで持て」
まだ目を尖らせていたサンジが怒鳴り出す前に抱えていた軽い体を放るように渡してやる。突然のことでも反射のようにレイルスをキャッチしたサンジは当たり前のようにレイルスを横抱きにした。ゾロに怒鳴り足りない気もしたが、それ以上に一瞬香った血の匂いが気になってしまってレイルスの顔を覗き込む。またもや何が起こったのか分からず目を開ければサンジに抱えられていたレイルスは大きな瞳をぱちぱちと見開いていた。先程船で、またロビンから上着を借りたレイルスは心底申し訳なさそうにしてサンジのジャケットを畳んでいた。捨てるしかないだろうそれに謝られてしまい、いまだに申し訳なさそうにして見上げられてしまってサンジは眉を下げる。レイルスにすればたった数刻で借り物の服を立て続けにダメにしてしまったので凹むのもしょうがないことであったが、一味からすれば服がダメになることなんてしょっちゅうなので、気に留めるものでもない。しかしその困り顔も可愛いぜなんて思っているサンジもブレなかった。
「大丈夫かい?」
「え、うん」
ありがとう、そう告げて降ろしてもらおうとしたレイルスだったがサンジはそのままスタスタと歩き始める。流れで同行することになったことについては特段問題はないが、運んでもらうのは違うだろうとレイルスは「歩けるよ」と伝えるも横から見ていたフランキーに「無茶すんな」と咎められてしまう。元から重症、加えて自分達の目の前で怪我を増やしてしまったことを全員が気にしていた。
そんな心情などなんのその。海を漂っているとは言っていたが島であることは変わりない、レイルスは下見も兼ねて見て回りたいなんてことまで考えていた。こんな場所なのに降りる気でいるレイルスの内心は知られていなかったが総意として歩かせられないという部分はあるらしい一味によって、結局サンジに抱えられたまま薄暗い島を進む。内心がバレていればルフィに簀巻きにされていただろう、口にしなかったのは賢明だった。
投稿日:2022/0103
更新日:2022/0103