無計画な自由

 コロシアムではついに決勝の決着がついていた。おもちゃ達が人間に戻る混乱の最中にメラメラの実を奪い、その身に宿したサボはコントロールの難しさに顔を強張らせながらも、どこか楽しげに笑ってあたりを見渡す。地下にこんなにも広い空間があったとは盲点だった。革命軍もこれまで何度もこの国に調査に来ていたが、どうやら例のおもちゃにされていたらしいと記憶に浮かび上がってくる数名の無事を願いながら息をつく。前国王の孫であるレベッカも、これからのドレスローザには必要な人間だろうとコロシアムから地下まで連れてきたが状況が全く読めないらしく目を回してる。見かねたコアラが説明しているのを横目にサボはん?と首を傾げた。仲間が1人足りないのだ。
「なぁあいつは?」
「サボくんのこと待てないって言って先に王宮に行っちゃったよ!」
 ガー!と怒るコアラに藪蛇だったかとサボはすぐに口を閉じた。それでもコアラの怒りは収まらなかったらしく、「頑固なところも無茶するところも勝手するところもそっくりだよ君たち!」と悪態をこぼしていた。
「でもなぜあなた達革命軍がこの国に……?」
「これだ、この国の武器が世界の戦争を助長してる」
 レベッカの疑問に積み荷に大量に積まれた武器を視線で示しながらサボは事実を告げる。武器がなくても起こる時は戦争は起こる。しかし力を手にした人間というのは、欲、恐怖、多くのものに負けて他者への攻撃を厭わなくなるものだ。しなくてよかった戦争、武器がなければ話し合いで解決していただろういざこざ。そんな多くの手遅れを見てきた革命軍だからこそ、根本を断つためにここにいる。まさか自国にこんな場所があるとは思ってもいなかったレベッカは余計に顔色を悪くする。革命軍3名はそれでも話すことをやめない。これからのためにも、事実は知っておくべきなのだ。
「だが、武器の生産は別の場所みたいだな……一体どこから運ばれてくるのか、それがわかればドラゴンさんへの良い手土産になるんだが……出荷入荷のリストなんかは地下にはなかったのか?」
「うん、そういったリストはまとめて王宮で管理してるみたい」
「だから先に行ってんのか」
「そういうこと」
 メモ帳をパタンと閉じて、心底疲れた声を上げたコアラは諦めたように目を瞑る。そんなコアラのことなど見えていないかのようにサボは「俺たちも急がないと」と肩を回す。亡き兄弟の形見が優勝商品と聞けばしょうがないが、作戦に無かったコロシアムへの無断参加を強行したのはサボだ。おかげでどれだけ革命軍が振り回されたと思っているのだろう。少しも反省の色を見せないサボに怒りで拳を握りこんだその時「コアラ!」と女の声がコアラを呼んだ。玩具の呪いから解放されたロビンである。
「あぁ!ロビンさん!?」
「ふふ、やっぱりそうだったのね!元気だった?サボ、ハックも変わりないようね」
 ロビンに気がついたコアラがバッと走り出してロビンに抱きつく。ぎゅうぎゅうと抱きついてくるコアラににっこりと微笑みながら、ロビンはその頭を撫でて懐かしそうにサボとハックにも声をかける。サボ、レベッカと同様にコロシアムの決勝に出場して地下まで着いてきていたバルトロメオは、突然目の前に現れた憧れてやまない麦わらの一味の1人に声にならないほど感動して足をガタガタに震わせた。当たり前のように号泣である。
「ルフィには会えた?」
「うん、もう一人にはまだ会えてねぇけど……いるんだろ?一緒に」
 サボのいうもう一人を知るロビンは少し苦い顔で頷く。
「レイルスね……それがドフラミンゴに捕まったらしくて」
「え!?……待って待って待ってサボくん!!」
 最後まで話を聞かずに走り出そうとしたサボを、すんでのところでコアラがコートをガッシと掴むことで押さえ込む。ずるずると足元の砂を巻き立てながら、サボはコアラに振り向いて「離せ!」と声を上げた。
「状況が分からないのに行ってどうするの!?」
「バカ言えこのままここで待ってられるか!」
「だから一旦落ち着いて状況を把握してから」
「恩人だぞ!?まだ礼も言えてない!」
「王宮にいる仲間に!連絡をとって状況を!把握してから!!」
「向かいながら連絡する!」
 一ヶ月ほど前、サボはエースの墓の場所をなんとか突き止めてそこへと向かった。その場所では不死鳥のマルコが墓守をしており、サボがエースの兄弟だと知ると当時のマリンフォードでの話を聞かせてくれたのだ。エースは白ひげにて、ルフィの話と同じくらいサボの話もしていたらしい。まさか遠い昔に死んだとされていた自分の話まで仲間にしていたとはサボも思っておらず、そのことを知って少し泣いたのは余談だ。
 よって、マリンフォードでレイルスがエースの穴をレイルスの腕を使ってまで塞いでくれたのだという話を聞かされていた。「独り言だよい」と言ってエースの墓に語り掛けていたマルコは屁理屈のようだが他言無用というレイルスとの約束をきちんと護っていた。少し前までレイルスもいたとマルコから聞かされて、すれ違いだと知った時の悔しさがサボのなかで爆発するように今噴き出していた。レイルスはハートの海賊団から離脱後、マルコに渡されていたビブルカードでそこへ向かったのだ。ちなみにその際には小船で新世界の海を1人で渡ろうとするレイルスを見かねた青雉が、巨大なラッコのような生き物をレイルスへ貸して見送るという珍事があったりした。巨大ラッコは小船を抱えて荒波だろうが凪だろうがスイスイと泳いで行き、レイルスを無事に目的地に送り届けるとあばよと言わんばかりに足鰭で海水を巻き上げてレイルスを水浸しにして去っていった。恩人が「ラッコに乗った船に乗って最後はラッコに遊ばれて置いて行かれていた」なんてマルコから聞かされたサボはそれはもう存分に墓前で笑ったのだった。そして会えなかったことへの悔しさを肥大させた。
「また会えなかったらどうすんだ!」
「あ、こらサボくん〜!!」
 コアラを振り切ったサボは、倒れて瀕死のウソップを踏みつけて走り出してしまった。

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投稿日:2022/0916
  更新日:2022/0916