白昼の冠
ゆるりと体の拘束が緩んだ感覚に、レイルスはゆっくりと起き上がる。息を殺すようにして静かに、レイルスは室内をぐるりと見渡した。ドフラミンゴの部下たちは揃って絶望に顔を染め声を荒げている。体にかかっていた糸をほろいながら、ドフラミンゴの観察を始めたレイルスは唯一スートの間の中で冷静だった。「10年、我々は耐えてきた!!」
怒りのままにキュロスに掴みかかろうとしたバッファローに剣を突き立ててキュロスはがなる。怒り、焦燥、動揺。各々が感情に飲まれている中、まるで見定めるように凪いだレイルスの目が転がったドフラミンゴの首を凝視する。
「これより、全ての偽りを断ち切らせてもらう!!」
辻褄は合う。ドフラミンゴが死んで、レイルスにかけられていた能力による拘束も解けた。だが違和感と不自然さが猛烈にレイルスの警戒心を煽っていた。
「よくも、よくも若を〜!!」
一瞬にして戦闘が始まってしまった広間で、レイルスは体を小さくしながらそっとローの近くへと寄る。動きにくい服だと顔を顰めるレイルスに気がつくことなくローはドフラミンゴを凝視して呆然としていた。
「トラ男〜!!レイルス〜!!助けに来たァ!!よかった生きてて!」
口を開こうとしたレイルスの前に、鼓膜をつんざくような大声で呼ばれた2人はハッと顔を同じ方向へ向ける。視線の先には女性を抱えた状態のルフィがおり、砂埃を立てながら猛進してきていた。所々ボロッとしていたがそんなことなど気にならないほどの満面の笑みだ。
ルフィを追ってきたのであろう敵もスートの間に駆け込み怒鳴り込んでくるが、ドフラミンゴの姿を見て絶句し動きを止める。そういった敵の反応の一部始終をしっかりと目にしたレイルスは改めてドフラミンゴへ目を向ける。
「待ってろよ、今助けてやるからな!レイルスも生きてるな!!」
「死んでないね」
レイルスの目がルフィに向いていないことにローは違和感を覚える。しかし勝手にローを助けようとしているルフィに気が向いてしまい、その違和感を見失う。
「せっかくだが、俺とお前らの同盟はもう終わったんだ、ここから失せろ!」
「え!?お前勝手だな!そういうのは俺が決めるから黙ってろ!」
「どっちが勝手なんだ!」
こんな場面でも言い争っているルフィとローに痺れを切らしたヴィオラが「早く鍵を!」とルフィを急かす。ちら、と後ろを振り返ったレイルスは彼らがローの手錠の鍵を手にしていることに一驚した。
「同盟を切ればまた敵同士……俺を逃せばお前を殺すぞ!」
「動くな!海楼石に触れねぇから外すの難しいんだよ」
「俺のいうこと聞いてねぇだろお前ら!!」
思わずローは歯を剥き出してルフィへと怒鳴った。全くもって話を聞いていないルフィはヴィオラに「お前代わりにやってくれよ!」と鍵を渡そうとしている。
「だめよ、私も能力者だから」
「じゃあレイルスやってくれよ!」
「それどころじゃないと思うけど」
ローの手枷が外れたとしても、能力を無理に行使して余計に死にそうだ。完全に熱くなっているローにレイルスは渋い顔をする。以前こっそりとペンギンが「キャプテンの能力って場合によっちゃ寿命縮めるらしいから無理させたかないんだよ」と愚痴っていたのを知っているレイルスは現段階での状況と、ローの頭に登りきっている血を下げるためにも荒治療にはなるが海楼石というのは良いのかもしれないと暴論を頭の中で繰り広げた。ドフラミンゴが死んだという状況と幹部だらけの混乱仕切った部屋という危機的環境がローをパニックにさせているのだ。ルフィがこの場にいて、ローを助けにきたと宣言したこともその暴論を後押しし、結局レイルスはドフラミンゴに向き直る。
レイルスの視線をずっと感じていたドフラミンゴも、レイルスの発言によってニヤリと口角を吊り上げる。床に転がった首から、笑い声が溢れる。同時に地面が波打つように動き、ドフラミンゴの転がっていた首がゆっくりと持ち上がった。
「な……!ピーカ!」
揺れ動いた地面がまるで生きているかのように、グネグネと動きながら顔を形どる。ドフラミンゴの首は、ちょうど形成された顔の横に控えるようにして目下にいるキュロスを見下ろした。レイルスはピクリと眉根を寄せる。ここにきて、初めてドフラミンゴが死んでいたことに動揺しない部下が現れたことに1人思考を巡らせていた。
「フッフッフッ……想像以上にしてやられたな」
ぐる、とレイルスが再度部屋を見渡せば敵味方関係なく全員が驚愕の表情を浮かべている。やはり幹部でも位があるのだろう、情報の管理が徹底している。ドフラミンゴが分身を操れるという事実を、たった今現れた石男――ピーカだけが知っていたというのが何よりの証拠だ。味方でさえも完全に信用していない、ドフラミンゴという男の内面を垣間見てレイルスは大きく息を吐き出した。それ程までに慎重で計算高いという事実は厄介この上ない敵である証明だ。
「ミ、ミンゴが生きてる!?」
「おもちゃどもの混乱によって国中が大混乱……どういうわけだか革命軍も潜入しているようだ」
革命軍、その言葉にレイルスが素直に「え?」と驚きの声をあげる。いや、だがこのタイミングだからこそなのかとすぐにレイルスは考えを裏返す。ドフラミンゴによる裏の取り引きは、表には出ていないものの裏では名が知れ渡っているという。それに加えて七武海脱退のニュースが飛び交ったのだ。海軍に揉み消されてしまう前に証拠を掴まなければ、各国――表の人間でドフラミンゴと取引をしていただろう要人達を逃すことになる可能性が出る。その前に革命軍がここに情報を求めてくるのは理にかなっていた。
「これはまずい事態だ……鳥カゴを使わざるを得ない」
背後でローが息を呑んだ気配を感じたレイルスだが、視線はドフラミンゴからそらさない。ドフラミンゴは、まるでローとルフィを守るように壁になるレイルスを見て「健気だな」と嘲った。その忠信にも似たぶれない芯。状況を冷静に判断し、正解を導く頭脳。レイルスの中心をドフラミンゴに挿げ替えてやればどれだけ使える女となるだろう。手中に納めてからどんな手で可愛がってやろうかとドフラミンゴはレイルスを見下ろした。
投稿日:2022/0923
更新日:2022/0923