白昼の冠

「それで?『本人』はどこ?」
 ドフラミンゴの鳥カゴという言葉の意味を知っているのであろう部下とローが絶句している中、レイルスは腰に手を当てて転がる首に問いかけた。レイルスの言葉に、ドフラミンゴに斬りかかろうとしていたキュロスはゾッとしながらも立ち止まる。本人。と言うことは、目の前のこれはなんだ。手応えはあった、まさしく人を斬る感覚に間違いなかった。
「一体どこで勘付いたんだ?」
 首を傾げるレイルスの動きに、美しい金髪がさらりと流れる。ヴィオラはその背中に惨たらしい火傷の傷を見て思わず口を手で覆う。そして同時にレイルスのドレス、背中の部分がずるりと動いた瞬間を目にした。
「首を切り落として血が一滴も出ない人間を私は知らない」
 レイルスの言葉に、ハッとその場の全員がドフラミンゴへと目を向けた。
「なるほど、確かにそうだ」
 目覚めた時点でレイルスはその可能性を頭の隅に常に置いていた。グリーンビットにてドフラミンゴの足が、糸が解けるようにバラけていたのを見ていたのが大きい。あの時点でレイルスは目の前にいたドフラミンゴが偽物である可能性をしっかり考えていたのだ。もちろん、海水に濡れたことで本体がそういう反応をする体という線も有り得たが、濡れても能力が使えるというよりも濡れて能力が解けたと考える方が自然だ。そもそもドフラミンゴがシーザーやドレスローザ本島にいる麦わらの一味、そして目の前で別れたローを優先しなかった時点でレイルスの中の違和感はひどい警鐘を鳴らしていた。
「部下のことも信用してないようで」
「あまり背負わせないためだ」
 ああ言えばこう言う。元から部下にバレた時の言葉を用意していたのだろう。お手本のように綺麗な言葉が首から出てきたのでレイルスはふぅと息をつく。それで?と質問の問いを視線で促せば落ちている首から笑みが消える。
「とは言え自分の首が落ちる様を見るのはあまりいい気はしない、それも力任せなせいで切り口が荒い……手本を見せてやろうか?」
「お兄様!!」
「こうやるんだ」
 やっと現れた本人と思わしきドフラミンゴが、登場とともにキュロスへと蹴りを繰り出す。咄嗟にルフィに庇われたキュロスは、その攻撃によって王宮が両断されたのを視界の端に捉える。凄まじい威力を持って振われたドフラミンゴの脚によって王宮上部が崩れ落ちる。レイルスもこれにはギョッとしてたたらを踏んだ。立て続けにキュロスを庇って床に臥せっているルフィに、ドフラミンゴが2人に襲いかかる。転がってそれを避けたルフィは、今度はこちらの番だと言わんばかりに殴りかかるもドフラミンゴの覇気に防がれる。ルフィの背後に迫る影を見てレイルスは咄嗟に声を上げた。
「ルフィ後ろ!」
 本体へ攻撃している間に、首のないドフラミンゴがルフィを背後から襲う。レイルスの目にも見えるほどの太い糸で背中から斬りかかられたルフィは血を流して苦しむ。一切の容赦を見せないドフラミンゴは、落下してくる無防備なルフィに、武装色を纏った拳を叩きつけた。吹き飛ばされたルフィが壁に衝突し、クラクラと目眩を起こしたように腕を空へと投げ出す。普段打撃の攻撃が一切効かない分、一度しっかり食らうと持ち直しに時間がかかることがあるのだ。
「リク王……10年前、あの夜の気分を覚えているか?愛する国民を斬り、平穏な街を焼いた日」
「…………未だ夜な夜な魘されるわ、覚えていたらなんだというのだ!」
「これから起こる惨劇はあんな小規模なものじゃない」
「馬鹿なことを!何をするつもりだ!!」
 10年前、リク王は自身の手によって多くの国民を斬り伏せ穏やかな街に火を放った。ドフラミンゴに操られ体の自由が効かない中、愛する国民の悲鳴を聴きながら殺してくれと叫び続けた夜。あんな地獄はもうないと、あれ以上に苦痛なことなどないと10年経った今でも思う。目を瞑るだけでも鮮明に浮かぶ火の手と国民の血。それなのにも関わらず、ドフラミンゴは「あんな小規模」と称したのだ。グッと顔色を悪くしてリク王はドフラミンゴに詰問するも、ドフラミンゴはニッと口角をあげるのみ。
「逃がしてやるよ、お前ら」
「何を」
「ピーカ!邪魔者どもを外へ」
 レイルスの体がぐい、と何かに引かれたのはその時だ。まるでロープに腕ごと縛られたかのように、右手を胸元に縮ませて「何」と抵抗するように顔を不快感でいっぱいにしたレイルスは軽い体を簡単に空へと飛ばして首のないドフラミンゴへ衝突する。シュルシュルと切断された首から細い糸を吐き出していた分身だが、レイルスを受け止めるように片腕を伸ばし、レイルスの腰に腕を回した。
「レイルス!」
 ルフィが焦った声をあげるも、すでに床が波打ち始め、侵入者達を排除しようと上下する。壁からニョッキリと生えた石の腕が、全員を掴み取って場外へと摘み出す。力づくで動こうとレイルスが腕を力一杯動かそうとすれば、ギリギリと巻きつく糸が肌へと食い込んでレイルスの肌に複数の傷を生む。じわ、と血を溢れさせたレイルスを視界に捉えたルフィがレイルスを咎めるように大声をあげる。
「レイルス!大人しく待ってろ!」
 怒鳴るように呼ばれたレイルスはドフラミンゴの腕の中でびくりと体を反応させた。そんなレイルスに面白そうに視線を向けたドフラミンゴは、小さく静かに地獄への幕明けを宣言する。
「さあ、全てを終わらせよう」

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投稿日:2022/1002
  更新日:2022/1002