白昼の冠
「外壁塔の庭まで落とされた!クッソミンゴの野郎……!」
城壁を見上げてギリギリと歯を食いしばるルフィの横で、ヴィオラは手の中に収めたものを驚愕の目で見つめた。
「ウィットン!驚いたわどうしてあんなところに……!」
「わ、私のこと知っているのれすか!?」
「ずっと見ていたのよ、トンタッタのことは……!でもあなた戦士には……」
「私だって戦えます!」
「なんで小人がいるんだ?」
いつの間にかヴィオラの手の上にいた小人に、各々が驚きで目を見開く。キュロスなどウィットンがまさかドフラミンゴの目の前にいたことにギョッとして「なんてバカを!」と頭を抱えた。戦いたいというウィットンを嗜めるため、隊長であったキュロスは村長とともに何度も苦労を強いたのだ。
「それが、鉱……エルリックの背中から出てきたのよ」
「は、はぁ!?」
レイルスのドレスが動いた時、ヴィオラは元から大きな目をさらに見開いて、そこを注視した。そしてひっそりとギロギロの能力を使ったのだ。声がでなかったのは奇跡だろう。なんとレイルスの中に、トンタッタ族の一人――ウィットンが入っていたのだ。レイルスはウィットンを自分の心臓の穴に詰め込んでいた。
人体に四角く穴が空き、しかもそこが心臓の位置であることにもヴィオラは驚愕する。しかしすぐに、真横で海楼石で捉えられているローの存在を思い出しハッとした。ウィットンはヴィオラの声に気がついてレイルスのドレスから這い出ようとしていたようで、すぐにそこからひょっこりと顔を出す。敵の影になるようにレイルスの背中に身を隠したヴィオラは慌てて口に人差し指を立てる。会えて感激、そんな表情をし感涙していたウィントンもヴィオラの険しい表情にキュッと口を締めた。レイルスもウィットンの動きに気が付いたのだろう、腰に当てていた手を静かに背中に回し、ヴィオラにだけ見えるように指先で「はよ持っていけ」と言わんばかりの仕草を見せた。
元からウィットンはリク王かヴィオラのところへ向かいたいとレイルスへ伝えていた。レイルスの中で急にバタバタと暴れていた為おそらくこの女性がそうだろうとは思っていたが、レイルスも半信半疑だったためしっかりとウィットンを回収してくれたらしいヴィオラに安堵していた。もしグリーンビットでコートに入れたままだったらと思うと恐ろしい。嫌がるウィットンを無理やり体の穴に押し込んだ甲斐があるというものだとレイルスはそんなことを思いながらドフラミンゴと対峙していた。服と一緒に下着まで変えられて居なかったことも幸運だった、ベビー5がブツブツ文句を言いながらレイルスを着替えさせている時ウィットンは恐怖で可哀想なほど泣いていたのは余談である。
ローはまさか自分の開けた穴に何かを、ましてや小人を詰め込むなんてとんでもないことをしたらしいレイルスの行動を聞いてヒクリと頬を引き攣らせた。ルフィだけが「面白ぇことすんなぁ」とケラケラと笑った。見聞色で気が付かなかったのはレイルスの心臓の鼓動と勘違いしたからだろう、ローもルフィもそしてドフラミンゴも見事にウィットンには気が付かなかったためレイルスは図らずも最善策を取っていた。
「それより大変なんれす!お城の中にマンシェリー姫がいるのれす!!」
「え、えぇ!?」
ことの重大さにすぐに気が付いたヴィオラとリク王、そしてキュロスは驚きの表情をウィットンへ向けて大声で叫んだ。
レイルスが気を失っているときにドフラミンゴの部下がマンシェリーを連れてきて、ジョウロを使ってレイルスの怪我を癒したこと、マンシェリーはグリーンビットに帰りたいと仕切りに訴えていたこと。涙ながらにウィットンの口から語られる事実に、ヴィオラは難しい顔をする。
「でも、私が王宮にいた間にマンシェリーはどこに……」
ドフラミンゴの部下を装って10年もの間、王宮にいたヴィオラであったがこれまでマンシェリーは一度も見ていない。ギロギロの実をもつヴィオラにさえ見つからないなど、いったい何処に閉じ込めているというのだろう。
「でもこれでトンタッタの姫が工場に囚われているわけではないと分かった、そして非常にまずい状況だとも」
「ん?」
キュロスが重々しく口を開いたためルフィが首を傾げる。
「トンタッタ族の姫君、マンシェリー姫はチユチユの実の能力者……もしドフラミンゴ達が彼女の能力を強制的に使えば」
「敵を倒しても倒しても、すぐに傷が治って復活するわ」
「は!?ズリィじゃんかそんなの!」
まさかの能力にルフィは声をあげ、ローも初めて聴く能力について思考を始めようとするも上空に登る糸を目にして一瞬にして脳内が真っ白になった。
「は、始まった……鳥カゴだ!」
ローの狼狽え具合に全員会話を止めてローの視線を追う。王宮から、白い糸が煙のように真っ直ぐに立ち上っている。直線を描いて空へと立ち登る糸はある一定まで浮上して、そこから四方八方へ円を広げるようにして広がっていく。
「鳥カゴ?どういう意味だトラ男」
「……ドフラミンゴはこの国の真実が漏れる前に、今この島にいる奴らを皆殺しにするつもりだ」
少しだけ震えるローの声が、それが真実なのだと物語る。皆殺しという言葉にリク王は途端に顔を青ざめさせて上空を見上げた。
ドレスローザのあちこちで悲鳴が上がり出す。
一般市民、海兵、海賊。立場を問わず突如武器をとり、周囲の人間を無差別に攻撃し始める人間が出てきたのだ。武器を持って人を傷つける人々も、悲痛な声をあげて涙を流している。止めてくれと叫び、体が勝手に動くと嘆く。そんな状況を把握できていないレイルスは空へと飛んでいき跡形もなくなった偽物のドフラミンゴから解放されてゆっくりと立ち上がった。
レイルスが捕らえられて大人しくしていた理由は複数あるが、そのうちの一つであったウィットンを抱えていたことがなくなったため多少ではあるがレイルスを縛っていた枷が軽くなっていた。残る懸念と言えば、レイルスの体にまだ残っているかもしれないドフラミンゴの糸だ。目視できないものがまだ巻き付けられているとすれば、城の中を探索したとしてもドフラミンゴに行動が筒抜けになる可能性がある。そんなことを考えながらレイルスは改めて自身の体を見下ろす。なんとも走りにくそうな靴に顔を顰めたレイルスを見てドフラミンゴはククッと喉を震わせた。
「気に入らなかったか?様になっているが」
「そらどうも」
レイルスの佇まいを改めて一瞥したドフラミンゴは上機嫌に笑う。元から気品はあったがドレスを着せることによって姿勢もしゃんと伸び、見合った動きをとっている。
「ピーカ、どうせだ大地ごと移動させろ」
ドフラミンゴの言葉に、石造のように固まっていた男の顔が、スルスルと床へと溶けていく。なんの能力なのかわからないが、全くもって理解不能な光景にレイルスは舌打ちをこぼしそうになった。普段であれば確実に鳴らしていただろうが、ドレスを着ているせいか多少そういった粗雑な言動が控えられているのだ。本当に多少だが。
地響きのような音とともに、景色が遠ざかっていく。どうやら城の建つ地面ごと迫り上がっているらしく、城下町がぐんと小さくなった。かと思えば地面が傾斜し、レイルスは思わずよろめいた。転びそうになったところを体が宙でぴたりと止まる。
「危なかったなァ」
やはり体に糸は残っている。人差し指一つ動かしただけで支えられた体にレイルスは顔いっぱいに不快感を表す。そんなレイルスの様子すら面白いのだろうドフラミンゴは満足そうに笑った。糸の存在を仄めかすだけで縛れる、賢いというのも時には重石になるというのをドフラミンゴはよくわかっていた。王宮の移動が終わり、ベビー5が用意した電伝虫を手に取ったドフラミンゴは普段通りの声色で声をドレスローザへ投げかけた。
「ドレスローザの国民達、及び客人達……別に初めからお前達を恐怖で支配しても良かったんだ」
しかし語られる言葉は人々を混乱に陥れるには十分な内容。信じていた王がその残虐性を露わにしたのだ、理解が及ばないものも多くいるだろうとレイルスは壁に寄りかかり空を見上げた。なるほど鳥カゴ、外から見れば島そのものが鳥カゴに見えるだろう。
「真実を知り、俺を殺してェと思う奴もさぞ多かろう……だからゲームを用意した、この俺を殺すゲームだ。俺は王宮にいる、逃げも隠れもしない。この命を取れれば当然そこでゲームセットだ」
おもちゃにしていた人間を解放され、開き直ったかと思ったがそうではない。ドフラミンゴはどこまでも人々の心理をつき人を突き動かす能力に長けていた。
「たがもう一つだけゲームを終わらせる方法がある、今から俺が名前をあげる奴ら全員の首を君らが取った場合だ。なおその首一つ一つには多額の懸賞金を支払う……やるかやられるか。この国にいる全員がハンター……お前らが助かる道は誰かの首をとるほかにない!」
極限状態に追いやって、そして己への絶対的自信を見せつける演説。ドレスローザの国民は助かりたい一心で、近くに見える賞金首を狙う。荒くれ者たちも金に目が眩み同様に賞金首を狙うだろう。混戦は想像以上にやりにくいもの、それをわかった上でドフラミンゴはこの場を一瞬で整えてしまったのだ。戦場の掌握、そして相手の戦力の敵意を分散。賞賛ではないものの、レイルスは上手いなと思わざるをえなかった。
投稿日:2022/1015
更新日:2022/1015