白昼の冠

 受刑者リストに上がった麦わらの一味の名前をみて、レイルスはやっとこの国に残っているらしいメンバーを把握した。ルフィをはじめロビン、フランキー、ゾロにウソップ。まさかウソップに最高額の5億ベリーの懸賞金がかけられるとは思ってもいなかったレイルスは場違いにも笑いそうになった。何をしてここまでドフラミンゴの恨みを買ったのだろう、ローよりも高いとは。リストの中に藤虎がいなかったことからも、ドフラミンゴの計算の高さを改めて認識したレイルスは込み上げてきた笑いを自然と殺し目を細めた。
 海軍まで敵として国民に認識させてしまい、国民を反逆者として海兵が粛清しはじめてしまうと藤虎は一気にかたをつけてしまうだろう。それだけの力があるのはグリーンビットでドフラミンゴも理解したはずだ。だが国民が海兵に牙を剥かなければ海軍にとっては保護対象のまま。逃げ惑い血を流す市民を、おそらく藤虎は無視できない。そしてそれはドフラミンゴへ割く時間がないということでもある。なんなら、受刑者の首を藤虎へ取らせようとしているのだろうと察したレイルスはよくも一瞬でここまで思いつくものだと悪のカリスマを嫌悪のこもった目で睨めつけた。

 コロシアムの地下から地上へと向かっていたロビンは鳴き出した電伝虫を手に取る。トンタッタに捕まってしまった時に野生に返されてしまったのだが解放されてしばらくした後、再度戻してもらったものだ。電伝虫の顔を見てゾロだと気がついたロビンはすぐさま応答する。
「ゾロ?今どこ?」
『ああロビンか、今ルフィ達と一緒にいる、王の大地ってとこらしいが……面倒なことになってきたな』
『ロビンか!見たか今の!ムカつくなァミンゴ!ウソップはなんか爆笑だしよ』
 あはははと笑うルフィにトンタッタに運ばれながらもウソップが「あんだと!」と怒鳴った。それにさらに笑うルフィはレベッカへの心配を溢す。ロビン達と行動を共にしていたレベッカは声をあげて「ここにいるよ!」とルフィへと知らせた。ルフィはちょうどいいとばかりにキュロスへと代わろうとするも気がつけばキュロスがその場にいない。あれ?と声をあげる電伝虫にレベッカは「どんな人!?」と詰め寄る。
『どんな人ってお前……何言ってんだ!?あの片足の兵隊がお前のとーちゃんだったんだよ!コロシアムの銅像のおっさんだった!』
 レベッカは衝撃の事実に足を止めてしまう。過去、兵隊との記憶が走馬灯のように頭に駆け巡る。おもちゃは夜になるとおもちゃの家へと帰ってしまう。だからいつも夜は一人だった。それがひどく寂しくて、寒くてとても嫌で。いつか兵隊さんと一緒に住みたい、小さな頃からのレベッカの願い。記憶から消えてしまっていた父親のことを思い出した時、兵隊のことがどうしても気にかかった。あの兵隊も人間だった、どんな人なのか、ずっとずっと守ってくれた優しく頼もしいレベッカだけの兵隊。彼にも家族がいるのだろうか、人に戻ってしまったら一緒には住めないだろうか。彼が父親だったらいいのに。そう思ったのは当然だった。それだけ、レベッカは兵隊から愛情を持って育てられたのだ。
「やっぱり」
 これ以上ないというほど、今日は泣いたと思っていた。それなのに勝手に溢れてくる涙に、レベッカはついに崩れ落ちる。迫ってくる海賊達を見て、ロビンが肩を貸して再びレベッカは走り出す。ロビンは一瞬とはいえ、シュガーによっておもちゃにされていた。10年も愛娘から忘れられる恐怖というのは計り知れない、そして忘れてしまっていた人の気持ちも。理不尽を強いられていたレベッカをぎゅっと抱えてロビンは前を向いた。
『いいかレベッカまだ泣くなよ、兵隊は死なせねぇ!お前も無事でいろ!お前が食いたがってたメラメラの実やれなくて悪かったけど……その代わりドフラミンゴ、ぶっ飛ばしてやるから!!』
 船長の力強い声に背中を押されるようにロビンは足を進める。運ばれるだけのウソップはロビンとは反対に忘れる恐怖、レベッカの気持ちがよくわかったために顔を険しくした。ロビンを忘れていたことすら気が付かなかった、違和感すら残らなかった。もう二度とあんな思いはしたくない。
『こんなゲームすぐ終わらせるから生き残れ!いいな!!』
「うん……!」
 力強く頷いて、涙を拭ったレベッカの強かさにロビンは安心して手を離した。
「ルフィ、そっちのメンバーを教えて」
『一緒にいるのはゾロにトラ男、それに』
『リク・ドルド3世と、私はヴィオラ……それにトンタッタのウィットン』
「「ウ、ウィットン〜!?」」
 トンタッタ族が揃って声を裏返して仰天した。レベッカも叔母と祖父がその場にいることを知り驚きの声をあげる。しかしトンタッタの混乱はその数の分だけ大きく、揃って目を零してしまいそうなほど見開いて絶叫していた。グリーンビットにて誘拐され行方知らずとなっていたトンタッタのじゃじゃ馬が、どうしてそんな場所にいるというのか。ロビンもレイルスが連れ去っていた小人だと気がついて、しかしルフィの口からレイルスの名前が出なかったことに気がついて眉根を寄せた。
「そう、その6人ね……レイルスはまだ?」
『無事だけどまだミンゴんとこにいんだ!ゴソモーってやつだろ?そんな怪我もしてなかったみてぇだし大丈夫だろ』
 パンクハザードでヴェルゴが言っていた「御所望」と言いたかったのだろう。訂正せずにロビンは「そうね」と返す。珍しくルフィが他人の言った言葉を憶えていたということの方が驚きだ。ドフラミンゴがレイルスを受刑者リストに加えていない時点で、殺すつもりがないという確信を深めただけ。しかしだからといって無事であるかは別問題だ。片腕の女相手だ、やりようはいくらでもあるというのをロビンはしっかりとわかっている。ゾロも思い至るものがあったのだろう、『急ぐぞ』と固い声が電伝虫から発せられた。

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投稿日:2022/1104
  更新日:2022/1104